2018年2月23日金曜日

「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」データを隠蔽

 事実とは異なる虚偽のデータを大宣伝する一方で都合の悪いデータは隠すという、政府の恥知らずなやり口が明らかにされました。

「なくなった」とされていた調査票が、厚労省本庁舎の地下倉庫から発見され19日にようやく提出された調査資料を長妻昭議員が精査したところ、明らかに異常な数値が新たに117件も見つかりました

 22日の衆院予算委で独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った調査結果は「裁量労働制のほうが実労働時間が長い」というもので、その調査は25年度下期労政審間に合うように」と厚労省が指示して行ったものであったことが明らかにされました。それが25年度以降の労政審以来ずっと日陰に置かれてきたのは、裁量労働制の推進に都合が悪いからに他なりません。
 都合がいいようにデータを捏造する一方で都合の悪いデータは隠すというのでは詐欺商法です。

 LITERAが、「厚労省が不都合なデータを隠蔽」した事実を指摘しました。
 それとは別に日刊ゲンダイは、ここまで政府のデタラメが暴露されても「働き方法案」を断念できないのは「3つの理由」からだとする記事を出しました
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捏造の次はデータ隠し! 厚労省が「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」という“不都合なデータ”を隠蔽
LITERA 2018年2月22日
 裁量労働制の拡大をめぐり、安倍首相が「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と自信満々に示したデータが捏造されたものだったという事実があきらかになって以降、次々にあり得ない問題が発覚している。

 まず、加藤勝信厚労相が「なくなった」と説明していたデータの基となった調査票が、厚労省本庁舎の地下倉庫から発見された。さらに、厚労省が19日にようやく出した調査資料を立憲民主党の長妻昭議員が精査したところ、たとえば1週間の残業が「25時間30分」なのに1カ月の残業が「10時間」となっているような異常な数値が、新たに117件も見つかった。

 問題となっている2013年度「労働時間等総合実態調査」は、裁量労働制で働く人には「1日の労働時間」を聞いていた一方、一般の労働者には「1カ月で“最長”の1日の残業時間」を聞き、そこに法定労働時間の8時間を足して算出。つまり、一般の労働者の労働時間が長く出るような質問をおこなっていた。どう見ても「恣意的な捏造」だ。

 その上、データの明白な誤りが発覚しているというのに、本日の衆院予算委員会で加藤厚労相は「結論をひっくり返す必要はない」と居直り。これに対し、立憲民主党の岡本章子議員が「根拠になっているデータ自体の信憑性が担保されないかぎり結論が正しいとは言い切れない」と追及すると、こんなことを言い出した。
「『結論を変えろ』と言うことは、(月60時間超の法定労働時間外労働の)中小企業の割増賃金率の猶予の廃止も、(時間外労働の)罰則付き上限規制も、それはすべきではないということになる」

 別の法案を人質にこれではまさに脅しそのものではないか。しかし、これこそが8本の法案を一括にした「働き方改革関連法案」の狙いだ。今回の法案には「同一労働同一賃金」などの労働界が求めてきた内容が盛り込まれているが、その一方で裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の導入などといった問題法案もひとまとめにされてしまっている。「これをイヤだと言うなら、あっちもやめるぞ」と言うために、こうやって法案を一括にしているのである。

厚労省が「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」という “不都合なデータ”を隠蔽
 まったくやり方が汚すぎるが、このように安倍首相と加藤厚労相は、捏造された比較データが「労働政策審議会に示したわけではない」ことを理由に、裁量労働制の拡大を含めた法案の提出を進めていく姿勢を一向に崩していないのだ。
 だが、比較データが労政審に示されなかったからといって、何の問題もないとするのはおかしい。実際、今回のデータ捏造問題をいち早く指摘してきた上西充子・法政大学教授は、昨日21日の中央公聴会における意見陳述のなかで、こう言及した。
「一般労働者の『平均的な者(しゃ)』の1週の法定時間外労働のデータが、『最長』の週のデータであることの説明がないまま、普通の週のデータであると受け取られる形で第104回の労政審労働条件分科会(2013年10月30日)に紹介されています。それはつまり、実際には過大な数値であったものが、通常の数値であるかのように紹介されたということです」

 しかも、本日の衆院予算委員会では、データ捏造の核心に迫る新たな疑惑が浮上したのだ。
 厚労省が認めているように、「裁量労働制は一般労働者より労働時間は短い」ことを示すデータはないが、逆に裁量労働制のほうが実労働時間が長くなることを示すデータは存在している。厚労省が要請しておこなわれた、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果がそれだ。
 このJILPTの調査結果は、労政審で裁量労働の満足度などの「都合のいい」結果は示されていたが、肝心の実労働時間についての結果だけが報告されていない。一方、問題となっている2013年度「労働時間等総合実態調査」は、前述の上西教授が中央公聴会で指摘したように、「2013年9月27日の第103回労政審労働条件分科会で、裁量労働制の見直しのための実態把握をおこなうものとして分科会委員に示されており、今後の労働時間法制の検討の際に必要となる実態把握をおこなったものと位置づけられて」いた。

施行延期はごまかし!「働き方改革関連法案」は廃案にしないと取り返しのつかないことに
 だがじつは、このJILPTの調査こそ、労政審では法改正のための実態把握調査として位置づけられていたのではないか、というのだ。
 というのも、岡本議員が入手したという厚労省がJILPTに調査研究を要請した際の文書には、「25年度下期に労政審で議論を開始する予定であり、それに間に合うように調査研究の成果をまとめていただきたい」「労働時間法制の企画立案の基礎資料にする」と書かれている、というのである。

 JILPTの調査こそが法改正のための実態調査だったのに、一体なぜ、いつのまに、その位置づけが2013年度「労働時間等総合実態調査」に置き換えられてしまったのか。──JILPTの調査は「裁量労働制のほうが一般労働者よりも実労働時間が長くなる」という都合の悪い結果だったために、2013年度「労働時間等総合実態調査」を実態把握調査という位置づけに置き換え、JILPTの結果は労政審に出さなかったのではないか。そう疑うのが自然だ。

 このように、掘れば掘るほど、恐ろしいデータ捏造やデータ隠しなど恣意的な動きの実態があきらかになっていく裁量労働制の問題。安倍政権は批判を緩和するために施行を1年遅らせる方針を打ち出したが、施行を延期したところで法案が成立してしまっては取り返しがつかなくなる。このまま「働き方改革関連法案」が可決・成立するようなことがあれば、裁量労働制の拡大とともに長時間労働、過労死を助長すると問題視されている高度プロフェッショナル制度なども導入されてしまうからだ。

 安倍首相は過労自殺した電通の高橋まつりさんの事件について、「2度と悲劇を繰り返さない」「長時間労働の是正に取り組む」と述べてきた。だが、実際は長時間労働を是正するどころか、こうやってデータを捏造し長時間労働にならないかのように嘘を振りまいてまで、長時間働かせ放題の法案を通そうときたのだ。その責任を問うことはもちろん、徹底的にデータ捏造の真相究明がおこなわれなくてはならない。(編集部)


安倍首相が窮地も…「働き方法案」断念できない3つの理由
日刊ゲンダイ 2018年2月22日
 裁量労働制の拡大を含む「働き方改革」関連法案をめぐって、安倍政権が窮地に陥っている。20日の衆院予算委集中審議でも厚労省の“捏造”データについて野党から徹底攻撃され、安倍首相は言い訳と防戦一方。政府は、今月下旬か、ずれ込んでも3月上旬、という関連法案の国会提出姿勢を崩していないが、与党内からは「これはまずいんじゃないか」と先行きを不安視する声も出てきた。

「捏造」データは、一般労働者の「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」と裁量労働者の「1日の労働時間」を同列で扱い、裁量の方が労働時間が短いという結論を導き出したヒドいものだ。野党6党は法案提出の断念を求めることで一致。8本の関連法案から裁量労働制拡大の部分を外すことやデータの再調査などを提案している。これに政権は平謝り。だが、安倍には法案断念に絶対応じたくない理由が3つある。

①アベノミクスの代替
「日銀頼みの金融緩和政策も限界。それに取って代わる成長戦略が働き方改革です。法案が出せなければ成長戦略のシナリオが狂ってしまう」(官邸関係者)
 少子高齢化を「国難」とする安倍政権の懸念は労働力不足で国力が落ちること。「生産性革命」のために老若男女問わずモーレツに働いてもらわなければならず、そのための法案なのである。

②財界・連合とのバーター
 法案は厚労省の諮問機関である労働政策審議会(労政審)の議論を経て決定されたものだが、その労政審の上に置かれたのが「働き方改革実現会議」だ。経団連の榊原会長と連合の神津会長はメンバーだった。
 財界にとって残業代を減らせる裁量労働制の拡大は悲願。人件費抑制につながる働き方改革実現のため自民党への献金額を増やし、賃上げの官製春闘にも応じてきた。一方、連合も「長時間労働是正」とセット扱いにされ、法案作成で官邸と握ってきたのが実態だ。
「だからなのでしょう。今回の不適切なデータについて、連合はもっと批判していいのに反応が鈍い」(野党関係者)
 連合を黙らせるためには8本セットで法案提出が絶対というわけだ。

③安倍首相のメンツ
 実はこれが一番大きいかもしれない。今国会を「働き方改革国会」と命名したのは安倍首相本人である。
「安倍さんが自らクビを絞めてしまった。働き方法案は今国会の目玉ですから、予定通り出さなければ政権は持ちません」(自民党関係者)
 とはいえ、自民党内からは、「データを再調査してスッキリさせた後の方がいいのは事実」「生煮えのまま出したら、国会審議が持たない」「森友問題より世論の批判は激しくなるんじゃないか」などという見方も出てきている。安倍首相は、このまま押し切れると思っていたら甘い。