2018年1月12日金曜日

12- 米軍機の事故多発・戦力ダウンには原因がある

 元米財務次官補で有名なコラムニストのPaul Craig Robertsは、「明日という日がこなくなるかも知れない」という記事の中で米・露の兵器を比較して次のように述べています。
アメリカ海軍は、ロシアの超音速対艦ジルコン・ミサイルで陳腐化させられた。
ロシアのサルマトICBMの速度と軌道の変化がアメリカの迎撃システムを無効にした。
途方もなく高価なF-35ジェット戦闘機はロシア戦闘機にかなわない。
アメリカ戦車はロシア戦車に到底かなわない。

 その理由について同氏は、「次から次に登場するアメリカの兵器システムは、兵士たちが実際にそれで有効に戦えるためではなく、出来るだけ多くの金を費やすことが重要なのであると述べています。これは、「アメリカの兵器産業は『それが有効であるか』よりも『より高価なものを作る』という金儲けに重点を置いているからだ」という意味だと思われます。
 そして、「ロシア軍と比較すれば、アメリカ軍は今や二流だという事実を甘受したほうが良い」、「ロシア軍は戦闘即応性と訓練の点でアメリカに勝っている」とも述べています。
 (関係記事)
明日という日がこなくなるかも知れない2117.10.31 マスコミに載らない海外記事

 これはシリアに対する有志国連合による干渉戦争に、シリアの要請を受けてロシア軍が途中から参戦すると、それまでアメリカに武器を供与されるなどして後押しされていたシリア国内の反政府テロ勢力が、比較的簡単に駆逐されたという経過に符合します。

 因みに「マスコミに載らない海外記事」は、上記Robertsの記事の信憑性について検証した記事も載せ、「正鵠を得ている」と評価しています。
 (関係記事)
    彼の評価は正確と思うか? 2117.11.17 マスコミに載らない海外記事)

 世界で唯一人盛んに北朝鮮の脅威を煽り、米国の1基1000億円という超高価兵器の「イージス・アショア」を2基購入する(設置完了は5年先)安倍首相はこうした評価を知っているのでしょうか。
 秒速5キロで飛来するミサイル(弾頭のサイズを直径1m・長さ2mと仮定)に、100キロ前後遠方にある軌道の交差点で迎撃ミサイルを衝突させるには、軌道の誤差が数十センチ以内で、到達時刻の誤差を1万分の4秒以内に抑える必要があります。とても実現できるとは思えません。

 軍事情報に詳しい半田滋氏が、このところ頻発している米軍機事故(及び戦力ダウン)の原因を解説する記事を載せました。
 半田氏は米兵器の性能には触れていませんが、「深化した日米同盟」の真の姿とは、米国の言いなりになることではないはずであると、安倍首相の舞上がりを批判しています。
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新年早々ヘリが2回も不時着…米軍の驚くべき「戦力ダウン」
これは本土でも起こりうる問題だ
半田  現代ビジネス 2018年1月11日
目を覆いたくなる状況
沖縄で米海兵隊ヘリコプターによるトラブルが相次いでいる。
新年になってからでも、1月6日、うるま市の伊計島の砂浜にUH1汎用ヘリが不時着し、2日後の8日にはAH1攻撃ヘリが読谷村の廃棄物処分場に不時着した。昨年12月13日には宜野湾市の普天間第二小の児童がいる校庭に、CH53大型ヘリが窓枠を落下させている。
伊計島では1年前の昨年1月20日、農道にAH1ヘリが不時着しており、今回の不時着を受けて富川盛武副知事は「言葉がない。米軍内のシステムの問題ではないか」と憤った。

一昨年12月13日には垂直離着陸機「オスプレイ」が名護市の東海岸沖合に不時着し、大破している。共通するのは、いずれも米海兵隊普天間基地所属の機体ということである。
在日米軍でトラブルが続くのは、沖縄の海兵隊に所属する航空機だけではない。イージス艦でも事故が多発しているのだ。
昨年6月16日には、米海軍横須賀基地を事実上の母港とする第7艦隊所属のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」が伊豆半島沖でコンテナ船と衝突し、乗員7人が死亡。8月21日には同型の「ジョン・S・マケイン」がシンガポール沖のマラッカ海峡でリベリア船籍のタンカーと衝突し、乗員10人が死亡した。

米海軍は昨年11月、2隻のイージス駆逐艦による衝突事故について調査報告書を公表している。海軍トップのリチャードソン作戦部長(海軍大将)は「どちらの事故も回避可能だった。多くのミスが事故の原因となった」と指摘した。
直接の原因は「人為ミス」としても、報告書は伊豆半島沖の事故に関して「当直の乗組員はレーダーを扱う基本的な知識を持たず、他の船の位置を正確に把握できなかった」「見張り役は左舷のみを監視しており、右舷からの接近を察知できなかった。さらに他の船舶と連絡を取ったり、警笛を鳴らしたりする措置も怠った」と断じており、乗員はまるでシロウトである。

またシンガポール沖の事故については「乗組員間の意思疎通ミスから舵取りを間違え、艦が本来進んではいけなかった左方に転回した」「上官が速度を落とすように命じたが、乗組員が二つあるプロペラシャフトのうち一つしか操作しなかったことから、艦はさらに左方に進みタンカーの進路に入って衝突した」としており、こちらも目を覆いたくなるほどのシロウトっぷりである。

予算不足がもたらす惨状
乗員がシロウト同然なのは、訓練が不足しているからに他ならない。その理由に関連して、米軍事専門紙「ディフェンス・ニュース」(2017年2月6日インターネット版)は「予算不足による米海軍の惨状」を伝えている。
同紙は「米国防費の予算不足から、空母を含め300隻ある米海軍艦艇が次々に稼働できない状態になっており、すでに原潜1隻が任務に就く資格を失い、年内にはさらに5隻が任務不能になる見通し」と報じた。
さらに「航空機約1700機の53%は飛行不能に陥り、なかでもFA18戦闘攻撃機は62%が稼働していない。艦艇、航空機とも修理ができず、部品供給も滞っていることが原因」と伝えた。

米海軍のモーラン副作戦部長(海軍大将)は同月7日、米下院軍事委員会で「ディフェンス・ニュース」の報道内容を認め、「予算不足により2001年から15年までの間に海軍の戦闘力は14%減少した」と驚くべき戦力ダウンぶりを明らかにしている。
国防費が不足して部品供給が滞れば、訓練が満足にできなくなるのは自明だろう。
この予算不足は2013年3月、当時のオバマ米大統領が財政赤字解消のため国防費の強制削減に踏み切ったことによる。
米国の国防費は世界トップの年約60億ドル(約72兆円)を誇る。第2位の中国の3倍近いとはいえ、この金額を前提に兵器を購入し、部隊を運用しているため、約1割もの強制削減は軍に大きなダメージを与えた。

日本でも影響はすぐ現れた。同年6月、在日米陸軍司令部は筆者の取材に「乗用車の利用をやめ、司令官も兵士と同じバスで移動している。工夫して予算を50%減らす」と回答。米軍の準機関紙「星条旗」は、横田基地の輸送機部隊が飛行時間を25%減らし、年間予算を60%削減すると伝えた。
13年から始まった国防費の強制削減は、昨年1月のトランプ大統領の誕生によって終局した。とはいえ、5年間にわたる予算不足はボディブローとなり、今になって現れているのではないだろうか。

「老朽化と塩害」二重のダメージ
事故が多発しているのは、北朝鮮が進める核・ミサイル開発に対抗するため、むしろ訓練時間が増え、整備兵などに過重な負担がかかっているからではないか、と考える向きもあるだろう。
訓練が連続する中での事故は、米国が2003年に始めたイラク戦争の最中に沖縄で起きている。2004年8月13日、普天間基地所属のCH53ヘリが訓練中にコントロールを失い、沖縄国際大学に墜落、炎上した。
事故原因について、日米合同の事故分科委員会は「回転翼の後部ローターを接ぐボルトに部品を装着していなかった整備ミスが原因」との調査報告書をまとめた。ヘリのイラク派遣を控え、長時間労働を強いられた整備兵によるミスが原因だった。

だが、現在の訓練状況は必ずしも過重なものとは言えない。
普天間基地を抱える宜野湾市基地渉外課は「市内8カ所で航空機騒音の測定をしています。一番うるさい基地南側で観測した騒音回数は15年が12487回、16年が11105回、17年が10947回で、むしろ騒音回数は減っている」といい、「事故は訓練が増えたから」との見方を疑問視する。
事故頻発に関連して地元紙の「沖縄タイムス」が8日、興味深い記事を掲載した。
「米海兵隊当局は沖縄やハワイの過酷な自然環境が米軍機の腐食を加速させているとし、機体保護を目的に米本国の基地などと航空機の交換(ローテーション)計画を策定している」というのだ。
海風にさらされることによる塩害など、沖縄の自然環境が機体に影響を与えていることを、米海兵隊が正式に認めたのである。
しかし、米軍は部隊交代の際、航空機やヘリコプターを含む武器ごと帰国し、新たに赴任する部隊は自分たちの武器を本国から持ち込むのが当たり前となっている。塩害があるとすれば、米本土駐留の海兵隊のヘリにも現れるはずではないのか。
米海兵隊の運用に詳しい屋良朝博元沖縄タイムス論説委員は「沖縄の海兵隊はコスト削減のため、1990年代から航空機やヘリを沖縄に置きっぱなしにして、兵員だけ交代しています。これにより機体の老朽化と塩害という二重のダメージを受けている」と解説する。

原因不明でも「すぐに飛行再開」?
事故の原因がぼんやり見えてきたように思える。
「長期間に及んだ米国防費の強制削減による予算不足」→「予算不足によって部品供給が滞り、訓練不足や整備不足に直結」→「沖縄独特の事情である機体の老朽化と塩害による腐食」
これらが相次ぐ事故やトラブルの背景にあるのではないだろうか。
すると、米海兵隊が飛行を再開するには抜本的な対策が必要となる。訓練不足は訓練によってしか補えず、その間、同様の事故やトラブルが発生する可能性は排除できない。また老朽化した機体は新しい機体と交換するほかないが、予算不足からただちに新しい機体が供給される見通しとはならない。

これらの難問を日米両政府は抱えることになるが、心配なのは「米軍の見切り発車」と「日本政府の米軍言いなりの姿勢」である。
昨年8月に防衛相に就任した小野寺五典氏は、同月オーストラリアで起きた普天間基地所属のオスプレイの墜落事故から間もなく飛行再開を容認、10月に沖縄県東村で起きたCH53ヘリの不時着炎上事故、12月に起きたCH53ヘリの窓枠落下事故後にも、すぐに飛行再開を容認している。
いずれも事故原因は明らかになっていないにもかかわらず、飛行再開を急ぎたい米軍の希望に沿って決断を下したことになる。
米軍は日米安全保障条約にもとづき、日本や極東の平和と安全のために日本に駐留している。沖縄で相次いだトラブルは本土でも起こりうる。沖縄の問題を「対岸の火事」に矮小化してはならない。

安倍晋三首相が言う「深化した日米同盟」の真の姿とは、米国の言いなりになることではないはずである。

 半田滋 プロフィール
1955年(昭和30)年生まれ。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社、東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。92年より防衛庁取材を担当している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、「零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争」(講談社)、「日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊」(岩波新書)、「僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)などがある。