2017年11月17日金曜日

貧困問題の 湯浅誠氏を著者インタビュー(日刊ゲンダイ)

 小泉内閣時代、竹中平蔵氏らによって新自由主義が進められ、経済的勝利者がもてはやされる反面経済的弱者には「自己責任」の烙印が押され、救済は無用という雰囲気が蔓延しました。
 そんな中で貧困に陥った人たちが決して自己責任ではないことを、極めて丁寧に説明し明らかにしたのが湯浅誠氏でした。彼は東大大学院(法科)を出ていましたが定職にはつかず、社会活動に専念し反貧困ネットワークの事務局長や日比谷公園での「年越し派遣村村長などをつとめる一方で、「反貧困すべり台社会からの脱出」などを出版しました。
「すべり台社会」というのは、一旦ドロップアウト(こぼれ落ち)すると程々のところで留まることはなく底辺まで落ち込んでしまう社会構造を指したもので、当時テレビでも取り上げられました。
 湯浅氏はまた「貧乏と貧困は違う。貧困はもっとはるかに困った状態」のこととも述べています。

 小泉内閣の後を継いだ第一次安倍内閣はそのことを意識してか「セーフティネット」の構築を公言しましたが、それは例のごとく口先だけのことで、生活保護申請者を役所の窓口で撃退する仕組みに変化はありませんでした。

 第二次安倍内閣になってからも、安倍首相は子供の相対的貧困率の高さを国会で問われたときに、世界の貧しい国々と比べれば日本の困窮者の生活まだ余裕がある」という趣旨のことを述べました。それはあらかじめ準備されていたものの筈ですが、答弁というよりは暴言というべきもので、無知と不誠実がないまぜになったものでした。

 現代社会では人は社会性を捨てて生きることは出来ません。社会の中に居れば無条件的に意識は相対化し、相対的貧困に陥っている人たちの生活は現実として苦しく、満たされない思いに苛まれます。
 もしも、世界の最貧レベルと比べればまだマシだと考えることで、満たされない思いを克服できる人がいるとすれば、それは現実の社会を超越している異次元の人、求道者などのレベルです。
すべての貧困は相対的である」と言うこともできます。もしもそういうことが直感的に理解できないのであれば国のリーダーは愚か政治家にもなるべきではありません。

 9月に「『なんとかする』子どもの貧困」を上梓した湯浅誠氏を、日刊ゲンダイが「著者インタビュー」しました。遅まきですが紹介します。

 なお湯浅氏はその後菅内閣時代に依頼されて内閣府参与になりました。現在は法政大学教授です。
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   著者インタビュー
「『なんとかする』子どもの貧困」 湯浅誠氏
 日刊ゲンダイ 2017年11月2日
「私が貧困という言葉を使い始めたのは2006年。竹中平蔵氏の『日本に貧困はない』発言に引っかかり、私が『いや、貧困はある』と言ったところから、貧困あるなし論争が起こりました。あれから約10年。09年に政府が認めたこともあり今は、『貧困はある』を前提として次のステップの話ができる。感慨深いものがありますね」

 本書は、今、社会問題となっている子供の貧困の現状、そして解決に取り組む人々の活動など、貧困解決の最前線をつづったものだ。
 現在の貧困とは、飲まず食わずの絶対的貧困ではなく、相対的貧困を指している
 たとえば子供は進学できないけど飢えているわけではない、周囲の人が当たり前に享受していることができないという類いのもので、厚労省の発表によると子供の貧困率は、15年の段階で13.9%。全国に約280万人いるという。

「『貧困はある』が社会の前提になったとはいえ、まだまだ世間の見る目は厳しいですね。特に70、80代の男性は芋のつるを食べるような“絶対的貧困”を体験されているだけに、スマホを持っていて貧乏? などと違和感を持つ人が多い。貧困の実感は人々には届いていないと感じます」
 子供の貧困は世帯の影響を受けるため、子供だけを見ていても解決はしない。しかし大人の貧困に対しては「自己責任論」が出てくるというジレンマがあった。
「あるとき、はっと気が付いたんです。貧困に大人も子供もないのだけれど、子供を入り口に貧困全体を見ていくという方法があるじゃないかと。子供をメインにすれば、少なくとも世間から自己責任論は出てきませんから(笑い)。実際、山梨県の小学校の校長がフードバンクの資料と申請書を子供に持ち帰らせたところ、何人かの親が申請してきました」

 子供を支えると同時に保護者を含めて支援しようという活動は行政・民間問わず全国に広がりつつある。民間では学習塾や、経済的な理由で食事を満足に取れなかったり、親が忙しくてひとりで食べている子供たちに食事と居場所を提供すこども食堂などがそれだ
「塾は行政とタッグを組んでいることが多いのですが、こども食堂は仲間が集まって始めるケースも少なくなく、地域の人たちに知られてなかったり、誤解される例も見聞きします。やりたいけど活動が進まないという地域もあり、思いが形になっていないことも多い。では、どうすればいいか。実はカギを握るのは70、80代の男性なんですね。こども食堂は地域に根差す活動ですから、自治会長やPTA会長など地域活動を経験した彼らが関わってくれると早いんです。縦横につながりがあり、コミュニケーションも取りやすい。NPOなどない地方なら、なおさらです」

 地域の力が必要なのは、子供の貧困が貧乏だけでなく、孤独とセットになっているからでもある。
「世帯収入が増えれば貧しさは解決しますが、お金があっても子供は幸せに健全に育つわけではありません。すべての子供にとって人とのつながりや居場所は必要で、それを提供できるのが地域社会なんです。最初はこども食堂で一緒に食べてみるだけでもいいんです。我々は『居るだけ支援』と呼んでいるんですが、食堂に来る子の中にはサラリーマンを初めて見た、という子供もいるんですよ。子供にとっては多様な人と出会って、価値観を増やす絶好の機会。男性にはぜひ参加してほしいですね」

 タレントのはるな愛は以前から自身が経営する店で、お笑いの吉本興業は来春、沖縄でこども食堂をオープンする。1ミリでも前に進もうとする人々の熱意を伝えつつ、問題点も見据えた好著。(KADOKAWA 800円+税)

 ▽ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。社会活動家、法政大学教授。08年末の年越し派遣村村長を経て、09~12年内閣府参与。著書に「ヒーローを待っていても世界は変わらない」、「反貧困」(第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)ほか多数。