2017年10月10日火曜日

10- 北のミサイルは超激安 経済制裁しても開発中止にはならない

 軍事評論家の田岡俊次氏は、北朝鮮の弾道ミサイルのコストは激安で1基当たりせいぜい5億円程度ではないかと推定しています。
 従って厳しく経済制裁しても北朝鮮のミサイル開発は止まらないだろうということです。
 北朝鮮の弾道ミサイル開発には様々な意見があると思いますが、一つのデータとして意識しておく必要がありそうです。
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北の核・ミサイルは超激安 制裁で開発ストップ狙う無意味
田岡俊次 日刊ゲンダイ 2017年10月9日
 今月22日の衆議院議員選挙を前に、自由民主党は2日に公約を発表。「北朝鮮への国際社会の圧力強化を主導。核・ミサイル計画の放棄を目指す」としている。だがそれが実現できる可能性は極めて低いと考えざるを得ない。

 厳しい経済制裁で核・ミサイル開発の資金を断つことを目標としているようだが、北朝鮮がそれに費やしている経費は意外に少ない。河野外相は8月30日の衆議院安全保障委員会で「韓国外交部などとの意見交換では、昨年2回の核実験と二十数発のミサイル発射で少なくとも200億円」と述べた。日本が購入中のF35A戦闘機は1機146億円だから、200億円ならその1.4機分、イージス艦は1隻1740億円だから約9分の1だ。

 ひどく安いように思えるだろうが、戦闘機は構造が複雑、精巧で、最先端の電子装備の塊だし、20年以上使われ数千時間、ものによっては1万時間以上飛行する。一方、弾道ミサイルは基本的には燃料と酸化剤のタンク、それを燃焼させるロケットエンジン、ジャイロ式の姿勢制限装置と加速度計を持つだけの簡単な構造だ。燃焼時間は短・中距離ミサイルで約1分、ICBMで5分程度。あとは惰力で弾道飛行するからエンジンの寿命はその程度でよい。第2次大戦中のドイツが敗戦直前の約1年間に「V2号」弾道ミサイルを約6000発も造れたのは簡単だったためだ。

■安倍&トランプは珍コンビ
 北朝鮮は1980年代にイラン、イラク、シリアに「スカッド」(射程約500キロ、重量約6トン)を計450発輸出、約600億円を稼いだと米国情報筋はみていた。1発平均約13億円だが、吹っかけた輸出価格だから原価は相当安かったろう。現在の「ノドン」(射程約1300キロ、16トン)や「火星12」(射程約5000キロ、28トン)などははるかに大型で、ウクライナ製エンジンを使っている様子だから、価格も数倍のはずだ。

 仮に1発平均5億円とすれば昨年発射した23発で115億円、核弾頭開発などに100億円ほど使ったことになる。核実験場の工事や、移動式発射機を隠すトンネルの掘削には兵士を使うはずで人件費は安い。

 昨年の北朝鮮の国内総生産(GDP)は韓国銀行(中央銀行)の推定で約3兆2000億円。山梨県と同等だ。核・ミサイル経費約200億円が正しければGDPの0.6%余だ。韓国政府の推定が低すぎ、実はその2倍としても1%余だから、経済制裁を強化しても北朝鮮はその程度の経費は捻出するだろう。

 制裁で北朝鮮が窮乏し、政権が倒れることを狙うのかもしれないが、従来の他の諸国に対する経済制裁の例を見ても、国民が「生活が苦しくなったのは政府のせいだ」と蜂起したことはない。むしろ「他国が締めつけていじめている」と感じ、団結する可能性が高い。「必要なのは対話ではなく圧力だ」と「制裁のための制裁」を“主導”するのは、世界で安倍氏とトランプ氏およびその取り巻きだけ。米国でも現実的な国防長官マティス大将や、国務長官ティラーソン氏らは圧力は交渉に向かう一手段として、外交的解決を求める。「対話なき制裁」により「わが国を守り抜く」と言う安倍氏は、本人も認めたとおり「トランプ氏と完全に一致した」珍コンビだ。

 田岡俊次  軍事評論家、ジャーナリスト
1941年生まれ。早大卒業後、朝日新聞社。米ジョージタウン大戦略国際問題研究所(CSIS)主任研究員兼同大学外交学部講師、朝日新聞編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)客員研究員、「AERA」副編集長兼シニアスタッフライターなどを歴任。著書に「戦略の条件」など。