2017年9月4日月曜日

安倍政権「もうひとつの私物化」=明治の産業革命遺産

 加計学園と森友学園の問題で安倍首相による「国家の私物化」が明らかにされましたが、世界文化遺産の登録においても同じことが行われていました。
 2015年3月に世界遺産に登録が決まった「明治日本の産業革命遺産」は、軍艦島(長崎県)や官営八幡製鉄所など九州から岩手まで8県に点在する造船、製鉄、石炭産業など23の施設や遺構です
 申請は年間に1件と決められている世界遺産の推薦候補を決めるのは文科省の文化審議会ですが、当時すでに11件の候補があるなかで14年度の推薦候補を「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に決めていました(13年8月)。ところが安倍内閣は内閣官房に別の有識者会議を設けてそこで「産業革命遺産」の推薦を決め、最終的に内閣官房長官が世界遺産の申請物件にすると決めたのでした。

 その有識者会議が徹頭徹尾安倍首相の応援団で固められていたことはいうまでもありません。
 安倍首相は、集団的自衛権を行使できる法制化を目指したときも、まず首相の私的諮問委員会に合憲だとする見解を出させました。こうした諮問委員会や有識者会議を設置するのは、安倍首相がものごとを権威づけるときのいわば常套手段だと言えます。

 この「明治日本の産業革命遺産」は登場の仕方が異様だったために、当時から奇異の目で見られていましたが、今回、文科省前事務次官の前川喜平氏によって、事務方の立場から安倍首相による「国家の私物化」であったことが明らかにされました。
 2015年7月8日  「明治産業革命遺産」が世界遺産に登録されましたが
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   スペシャルインタビュー
前川前文科次官 安倍政権「もうひとつの私物化」を激白
日刊ゲンダイ  2017年9月2日
“腹心の友”に便宜を図った加計学園疑惑で安倍政権による「国家の私物化」は広く国民が知るところとなったが、どうやら氷山の一角のようだ。加計疑惑を告発した前文科事務次官前川喜平氏が、自身が経験した「もうひとつの私物化」を明らかにした。2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の選定過程でも“総理のご意向”が働いていた。
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 あれもかなり無理筋のお友達案件でした。動き始めたのは第1次安倍内閣のころです。「地域振興」だとして地方の首長さんたちが協議会をつくって、世界遺産登録に取り組んでいた。それをまとめて、ユネスコに働きかけようとしていた中心人物が加藤康子さんという加藤六月元農相の長女でした。安倍家と加藤家は仲が良く、康子さんは安倍首相の幼馴染みだそうです。第2次安倍内閣で、康子さんは内閣官房参与。文科省の3年先輩で元ユネスコ大使の木曽功さん(現・加計学園系列の千葉科学大学長)も同様に参与でした。木曽さんと和泉洋人総理補佐官も世界遺産委員会の現場にいました。

  ――「明治日本の産業革命遺産」は、軍艦島(長崎県)や官営八幡製鉄所(福岡県)など九州から岩手まで8県に点在する造船、製鉄、石炭産業など23の施設や遺構。各国の文化遺産推薦枠が年1件という中、文化審議会で既定路線とされた「長崎の教会群」を蹴倒して選ばれ、なぜか安倍首相の地元の松下村塾(山口県)まで含まれていることも“安倍官邸のゴリ押し”と噂されたものだ。

 2015年は長崎でのカトリック信徒再発見から150年目の節目で、長崎県の関係者は「その年に教会群を世界遺産登録したい」と準備をしてきていた。ところが、内閣官房が別の有識者会議を設けて審査し、「産業革命遺産」にすると言ってきた。政府の中に文化審議会と内閣官房の有識者会議という2つの審査機関ができてしまって、「どちらを取るのか」という話になり、最後は政治決断となりました

 ユネスコの諮問機関であるイコモスの審査はとても厳しい。産業革命遺産は構成資産全体を説明するコンセプトが弱いことと、保全措置が不十分であることが課題でした。特に軍艦島は崩壊が続いている。それで、日本イコモスの専門的な審査をすっ飛ばし、外務省の組織を総動員し、政治力と外交力で押しきったのです。

  ――ただ、その“政治力”が来年、新たな国際問題に発展しそうだという。15年7月の世界遺産委員会は「徴用工」の問題で紛糾した。韓国が「強制労働の負の歴史遺産」だとして登録に反対したのだが、日本側が「朝鮮半島の人々が労働を強いられたことを説明する情報センターを設置する」と約束し、韓国側が矛を収めた経緯があるのだ。

 その情報センターが、今もできていないのです。登録から3年後に見直すことになっていますから、必ず来年、国際問題になります。韓国側が必ず持ち出してくるでしょう。軍艦島の保全措置という宿題も残っています。無理に無理を重ねて通してしまった結果です。

  ――アベ友に木曽氏に和泉氏。加計疑惑と登場人物も同じだ。こうした国家の私物化が安倍政治の至るところで行われているということだろう。
(取材協力=ジャーナリスト・横田一)