2017年9月2日土曜日

政府演出の北朝鮮ミサイル「大騒動」の裏に何があるのか(続報)

 1日の記事:「政府演出の北朝鮮ミサイル『大騒動』の裏に何があるのか」の続報です。
 「常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<下>」がブログ「阿修羅」に載りましたので転載します。

 <下>の記事は、「誰がどう考えても迎撃ミサイルで撃ち落とすのは不可能」の説明で始まります。それは迎撃ミサイルの命中精度の問題だけではなく、どの軌道を採るのかの予想が出来ない上に発射から7分かそこらで日本に到達するので、とても時間的に対応できないというものです。

 ところで命中精度については、1日のTV番組であるコメンテーターが迎撃ミサイルの命中確率は18発中10発だと話していましたが、その場に居合わせた元記者が、湾岸戦争時イスラエルに滞在した時に、アメリカが貸与したパトリオット迎撃ミサイル(=PAC3)はイラクから飛来するスカッドミサイルに殆ど当たらなかったと話しました。
 前者がアメリカの受け売りなのに対して後者は自分の実体験に基づいた話なので、どちらのいうことが正しいのかは明らかです。

 迎撃ミサイルについては、以前には「弾丸を弾丸で撃ち落とすことが出来る筈がない」という否定論が小さい声ながら語られていましたが、このところはそうした論調はさっぱり影を潜めています。
 それが主流になれば、アメリカとそれに迎合する日本政府にとって迎撃ミサイルに関する商売が成り立たなくなるからです。

 従来の空対空ミサイルや地対空ミサイルが航空機に命中するのは、目標が大きな航空機であることと、高速なミサイルが低速な航空機を追尾することもできるからです。
 それに対して迎撃ミサイルは、むしろ目標の方が高速なので正面衝突させるか、横方向から衝突させるしかありません。「弾丸を弾丸で撃ち落とす」精度が要求されるのはそういう理由です。
 昔の高射砲のように空中で火薬を爆発させるのは、まず宇宙空間は真空なので爆風が生じないので無理で、何よりも秒速5キロというような高速では、標的の持つ運動エネルギーが桁外れに大きいために、直かにミサイルを衝突させる以外には目的を達することが出来ません。

 また日本政府がことあるごとに「北朝鮮に強い圧力をかけ、彼らの政策を変えなければいけない」と叫び、北朝鮮の弾道ミサイルの発射試験が、「集団的自衛権行使の前提となる存立危機事態に当たる可能性があるなどと述べているのは、北朝鮮から見れば「米国と一緒に対北朝鮮戦争をするぞ」と宣言するに等しい行為だとも、批判しています。
 安倍政権は北朝鮮を非難できる絶好のチャンスとばかりに舞い上がっていますが、なぜ米・朝の話し合いの機会を作る努力をしないのか、政府は勿論のこと、それに同調しているメディアも情けない話です。
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常軌を逸した北朝鮮ミサイル騒動の裏に何があるのか<>
日刊ゲンダイ 2017年8月30日
(阿修羅から転載)
今度の騒動でハッキリ分かった迎撃態勢という夢物語
 今回の騒動であらためてハッキリしたのは、北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とす――という日本の迎撃システムが全く役に立たないことだ。
 米国防総省の分析では、北朝鮮は弾道ミサイルを250基以上保有しているとされる。北朝鮮が米国を狙うミサイルを撃ち落とすのは論外として、日本を直接狙ってくる場合、現行の迎撃システムではまず、飛来してくるミサイルに対し、海上に配備された海上自衛隊のイージス艦が「SM3」を、大気圏内では「PAC3」という2種類のミサイルをそれぞれ発射して撃ち落とす2段構えの態勢を取っている。しかし、北朝鮮の標的が予測不可能な上、発射後、わずか7~10分で日本に着弾する。誰がどう考えても撃ち落とすのは不可能だ。軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。
「そもそも、今回のように高度550キロを飛ぶ弾道ミサイルには『SM3』は届きません。高度250キロ程度の中距離弾道ミサイルの場合でも、北朝鮮が単発で撃つのであればともかく、同時多発なら迎撃は難しい」
 要するにミサイル迎撃システムなんて夢物語に過ぎない。とっくに破綻しているにもかかわらず、日本政府は8月中旬に開かれた米国との安全保障協議委員会(2プラス2)で、新たに地上配備型のイージス・アショアの導入を決めたからどうかしている。米軍が韓国に高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を配備した際に中国が反発したように、日本にイージス・アショアが配備されれば中国、ロシアが黙ってはいない。迎撃システムは百害あって一利なしだ。

北が看過できなかったのは小野寺防衛相の真夏の暴言
「北朝鮮に強い圧力をかけ、彼らの政策を変えなければいけない」
 安倍はトランプ米大統領との電話会談で、圧力強化で連携する方針を確認したという。安倍政権はこれまでも、北がミサイルを撃つたび、バカの一つ覚えのように「圧力を強める」と言ってきたが、事態は悪くなるばかりだ。

 今回だって、小野寺防衛相の暴言が北を挑発、刺激したのは間違いない。北が米国領グアム島周辺に新型弾道ミサイルを撃ち込む案を表明したことについて「日本の存立の危機にあたる可能性がないともいえない」と集団的自衛権行使の前提となる「存立危機事態」をチラつかせたことである。
 安保法が国会で議論された当時、安倍政権が強調していたのはホルムズ海峡の機雷掃海と朝鮮半島有事だった。グアムのグの字も出ていなかったのに、存立危機事態を言い出すのはメチャクチャだ。元自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄氏はこう言う。
「安倍政権は、トランプ米大統領が今春に朝鮮半島沖に原子力空母カール・ビンソンを派遣した時、自衛隊のイージス艦と護衛艦を共同訓練に参加させていますが、北朝鮮から見れば、共同訓練に続く今回の小野寺大臣の発言は、米国と一緒に戦争します――と宣言したに等しいでしょう。圧力と言っていますが、北朝鮮に戦争する口実を与えているだけです。本来であれば、イケイケドンドンの米国に対し、ブレーキをかけたり、北朝鮮が望んでいる米国との会談の橋渡し役を務めたりするのが日本の役割なのに、米国に盲目的に従っている。これは極めて危険なことで、北朝鮮の核使用を助長しかねず、ひいては対中国、ロシアとの関係も悪化しかねません」

 圧力だけに頼る安倍政権の対北朝鮮政策は完全に失敗しているのだ。

安倍首相の「もう対話は通じない」「断固たる措置」という虚勢と危うさ
 トランプ大統領は29日、北朝鮮の弾道ミサイル発射について「国際的な振る舞いとして最低限の基準に対する侮辱」と非難する声明を発表。その上で「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と、軍事的手段も排除しない姿勢をあらためて示した。
 これまでもトランプは、北朝鮮に対し「世界が見たことのないような炎と怒りに直面するだろう」などと強い言葉で挑発してきた。そういう米国を「完全に認識が一致」と支持し、「もう対話は通じない!」「断固たる措置を求める」と拳を振り上げているのが安倍だ。
「米国も日本も政権の支持率が下がり、内政問題を抱えているから、北朝鮮の危機をことさら煽って政治利用している面がある。問題は、それに国民が乗せられてしまうことです。米国の世論調査では6割の国民が『北朝鮮の脅威は外交交渉でコントロールできる』と答えるなど冷静ですが、日本は朝から晩までミサイルの脅威を煽るメディアの騒ぎようを見ていると心配になります」(孫崎享氏=前出)

 危機を煽り、勇ましい言葉で“敵”を非難して求心力を高めるのは古今東西の為政者が利用してきた手法だ。だが、緊張感が高められる中で、ささいなことが「偶発リスク」に発展することもまた歴史が示す事実である。
 ミサイル迎撃が不可能な以上、日本政府がなすべきことは火に油を注ぐような言葉で虚勢を張ることではない。必要なのは衝突を回避するための外交努力だろう。「国民の命と安全を守る」とは、そういうことではないのか。