2017年9月15日金曜日

安倍9条改憲構想の危険性を直視しなければならない(五十嵐仁氏)

 五十嵐仁・法政大学名誉教授は、安倍首相は憲法9条の2項を残したまま自衛隊の存在を明記する改憲案を「加憲」と呼んでいるが、それは実体的に2項を空文化する「壊憲」であって、憲法が容認している「改憲」の範疇(改正の限界)を逸脱していると述べました。
 現行の9条をそのままにして新たに自衛隊の存在を書き加えた場合、「後法優先の原則」によって憲法9条の1項と2項は空文化し、平和主義という現行憲法の骨格となっている原理を具体化した9条が破壊されるというものです。

 そして2015919日に成立した安保法によって変質し、集団的自衛権の行使が一部容認された自衛隊が憲法に明記されれば、そこを起点にさらに自衛隊の権限は拡大されていくので、早晩「普通の軍隊」になってしまいます。
 そうなれば当然軍事費は拡大の一途を辿りひたすら民生が圧迫されます。
 国防と自衛隊への協力は国民の義務、公共の役務となって市民生活拘束され、様々な人権の制約も加わってきます。

 要するに「いつか来た道」にまっしぐらに進む「壊憲」の準備が、いま何食わぬ顔をして着々と進められているということです。

 「五十嵐仁の転成仁語」を紹介します。
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安倍9条改憲構想の危険性を直視しなければならない
五十嵐仁の転成仁語 2017年9月14日
 自民党の憲法改正推進本部は12日に全体会議を開いて、安倍首相が打ち出した憲法9条1項、2項を維持して自衛隊の存在を明記する構想について、次の9条論議の際に条文の形の試案として提示する方針を確認しました。ただし、会議では戦力不保持と交戦権の否認を定めた2項の削除を求める意見も続出し、ほぼ3対2の割合だったと言われています。

 かなりの異論が出たことでも分かるように安倍首相の求心力は低下していますが、それにもかかわらず執行部は従来の「スケジュール」を変更していません。安倍首相の低姿勢はポーズだけで、9条改憲に向けての歩みは続いていることになります。
 油断せずに改憲阻止に向けての取り組みを進めなければなりませんが、前回のブログで「『安倍9条改憲NO』というのは改憲や9条の変更一般に反対するのではなく、それには賛成する人であっても安倍首相が今行おうとしている9条の改憲には反対だ」という趣旨だと書きました。一般の改憲と安部首相が現在進めようとしている9条改憲とは、どこがどう違うのでしょうか。
 安倍9条改憲の危険性とは何か、それはどのようなものなのか。これについて、私の意見を明らかにしておきましょう。

 先ず第1に、安倍首相が進めようとしているのは、通常の「改憲」ではなく憲法理念を破壊する「壊憲」だということです。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の「3大原理」は現行憲法の基本をなすものであって、それを変更することは「憲法の改正」ではなく「新憲法の制定」を意味することになります。
 現行憲法といえども「不磨の大典」ではなく、96条には「改正」手続きが定められています。国会の衆参両院での各3分の2以上の多数で発議され、国民投票によって過半数以上の賛成が得られれば条文を変えることが可能です。
 しかし、憲法前文に「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と書かれているように、日本国憲法が寄って立つ「原理」に反する「一切の憲法、法令及び詔勅」は「排除」されなければなりません。安倍首相の9条改憲構想は平和主義という現行憲法の骨格となっている原理を改変しようとするものですから「改正の限界」を踏み越えるもので、「改憲」ではなく「壊憲」であって許されるものではありません。

 第2に、現行の9条をそのままにして新たに自衛隊の存在を書き加えた場合、「後法優先の原則」によって憲法9条の1項と2項は空文化するということです。法律には後から制定された条項が改正前の条項とことなる場合に後法が優先されるという「後方優先の原則」がありますが、憲法も同じです。
 安倍首相は「9条はそのままで自衛隊の存在を書き加えるだけだから、今までと変わらない」と言っていますが、そうではありません。後から書き加えた方が効力を持ちますから、9条2項の戦力不保持と交戦権の否認は空文化しほとんど無効になります。
 今までと変わらないのではなく、大きく変わるのです。その目的は9条2項を無きものにして自衛隊を普通の軍隊にしようとすることにあり、事実、自民党憲法改正推進本部の船田元本部長代行は第1段階で自衛隊の存在を書き込み、第2段階で2項を削除する2段階論が安倍首相の9条改憲構想だと説明しています。

 第3に、ここで書き込まれる自衛隊は以前の自衛隊ではなく、2015年9月19日に成立した安保法によって変質し、集団的自衛権の行使が一部容認された自衛隊だということです。いつでもどこでも、どのような形でも、海外に出かけて行って米軍とともに「後方支援」や「防護」活動に従事できる新しい自衛隊です。
 9条改憲によって憲法に位置付けられ公共性を付与されれば、このような変質はさらに進むことになります。集団的自衛権の行使容認は、部分的なものではなく全面的で包括的なものになるでしょう。
 自衛隊が保有できる武器などの「戦力」が拡大され、他国に脅威を与えるような長距離戦略爆撃機や攻撃型空母、核兵器の保有、徴兵制の導入なども違憲ではなくなります。自衛隊は「普通の軍隊」となって、9条2項との矛盾が拡大し、やがて船田さんが言うところの9条改憲の第2段階、すなわち2項の削除が課題とされることになるでしょう。

 第4に、朝鮮半島危機に巻き込まれる危険性が高まるということです。私たちが安保法に反対したのは米軍が始めた戦争に自衛隊が巻き込まれることを心配したからですが、このとき想定されていたのは中東やアラビア半島での地域紛争でした。
 しかし、今では事情が大きく変わり、半島は半島でもそれはアラビア半島ではありません。戦争の危機が急速に高まっているのは朝鮮半島であり、もし戦争になれば巻き込まれるのは自衛隊だけでなく日本国民全体なのです。
 そもそも、安保法の審議のとき安倍首相はこの法律によって日米同盟の絆が強まれば抑止力が高まり、日本周辺の安全保障環境は改善されると約束していたではありませんか。しかし、それが大嘘だったことは、いま私たちが目撃し体験している通りです。

 第5に、国民生活への大きな影響が生じます。9条によって回避されてきたさまざまな負担が、急速な軍事化によって国民のもとへと押し寄せてくるにちがいありません。
 すでに第2次安倍内閣になってから軍事費は1兆円以上も増え続け、今では5兆2000億円を突破しました。自衛隊の存在が9条に書き込まれれば財政面での制約はなくなり、本来であれば医療や介護、教育や育児などの社会保障や福祉に回るべき予算が削られ、9条によって得られていた「平和の配当」は消滅することになります。
 国防と自衛隊への協力は国民の義務、公共の役務となって市民生活を拘束することになるでしょう。自衛隊の活動に協力するための徴用、基地拡張のための土地の接収や収容、軍事機密保護のための知る権利の制約、報道の自由や市民活動の制限、防衛技術の研究と軍需産業のための軍産学共同の推進、教育とマスコミへの軍事的価値の浸透なども進んでいくにちがいありません。

 安倍首相や自民党の憲法改正推進本部は自衛隊に対する従来の政府解釈を変更しないと言っています。だから、憲法に自衛隊の存在を書き込んでも、現状からの大きな変化はないのだと。
 以上に見たように、これは大きな嘘です。単に自衛隊の存在を憲法に書き込むだけだという現状維持的なものではなく、平和主義という憲法の根本原理を破壊し、国民生活に悪影響を与え、極東と世界の平和に大きなマイナスをもたらすものとなるでしょう。
 その危険性をしっかりと直視しなければなりません。この国が戦後の出発点において確認し世界に向けて明らかにした侵略戦争への反省と不戦の誓いを守り切ることができるかどうかが、いま私たち1人1人に問われているのです。