2017年8月19日土曜日

米朝会談には実は高いハードル

 17日行われた日米2プラス2」では、北朝鮮への圧力の強化と日米軍事同盟における自衛隊の役割拡大、陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入などが決まりました。これは迎撃システム1式が約800億円、そこから発射されるミサイルが1基10~20億円と言われる高価なものです。

 ティラーソン米国務長官は15日、北朝鮮が米領グアム周辺に向けたミサイル発射計画について「米国の様子を見守る」と述べたことを受け、「われわれは対話に至る道を見いだすことに関心を持ち続けている」と述べる一方で、「北朝鮮が選択を間違えば軍事的準備を進める」とも述べ、国務省のナウアート報道官も記者会見で北朝鮮がグアムへのミサイル発射を保留しただけでは対話開始の条件としては不十分で、「朝鮮半島非核化の意図」を示す必要があるとの認識を示しました。
 北朝鮮が核の保有を放棄することはまず考えられないので、これは対話の開始への絶望的なハードルになります。

 その一方で、北朝鮮が毎回強く中止を要求している米韓合同軍事演習は予定通り行うことにしています。
 この大規模な米韓軍事演習は、金日成主席時代の76年から「チームスピリット」の名称で開始されました。その後北朝鮮の原子炉製造中止に絡む94年の米朝枠組み合意で中止となりましたが、米韓は直ぐに別の演習の「フォール・イーグル」の規模を拡大して続行しました。
 02年からは朝鮮半島有事に備えた総合演習の性格を強め、その後は毎年 3~4月(2か月程度)と8月(2週間弱)の2回、陸海空軍の大々的な演習を繰り広げるようになり、「斬首作戦」(米軍特殊部隊が首都に進攻し要人を殺害)の演習を公然と行って来ました。

 米韓軍事演習は先制攻撃を想定した実戦訓練ということができるので、北朝鮮にすればいつ演習が実戦に変化するのか分からないという強烈な恐怖をその都度味わっているわけです。
 内外のメディアはいまの状況を北朝鮮の一方的な挑発と威嚇であるかのような報じ方をしていますが、北朝鮮はグアムの領海外にミサイルを飛ばす計画に言及しただけであるのに対して、実行されれば限度のない攻撃を加えることをほのめかすとともに、極めて威圧的な米韓軍事演習を21日から強行しようとしているのは米国の方です。

 日刊ゲンダイの記事「金正恩が縮み上がった斬首作戦…米韓演習の凄まじい中身」を紹介します。
 「日米2プラス2」関連の記事も併せて紹介します。
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金正恩が縮み上がった斬首作戦…米韓演習の凄まじい中身
日刊ゲンダイ 2017年8月17日
 米領グアム周辺にミサイルを撃ち込む計画を発表した北朝鮮の金正恩委員長が「愚かな米国の行動をもう少し見守る」と言い出した。金正恩は「我々をこれ以上刺激するな」とも要求しているという。挑発一辺倒の従来の姿勢から態度を急変させたのは、21日から始まる米韓合同演習が原因のようだ。
 今月21日から31日まで行われる米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」には、在韓米軍を含めて2万8500人が参加する。北朝鮮は例年、この演習に強く反発しており、昨年は演習期間中にSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)をブッ放した。

「演習を前にして金委員長が激しく動揺しているのは、作戦の主眼が北朝鮮の核施設やミサイル基地の先制攻撃だからでしょう。北朝鮮にとって、核やICBMは現体制維持を図るための“虎の子”。その破壊を目的とした演習は金委員長にとって激しいストレスのはずです」(軍事ジャーナリストの世良光弘氏)

「フリーダムガーディアン」はコンピューターを駆使したシミュレーションの演習が主体になるというが、米韓軍はずっと基地にこもっているわけではない。
「米軍は原子力空母2隻のほか、原子力潜水艦、揚陸艦、イージス艦、ステルス戦闘機、戦略爆撃機など今年4月の合同演習を上回る戦力を投入するとみられています。それらがシミュレーション通りに動くのかを実際に確認していきます。シミュレーションとは名ばかりで実戦配備も同然。演習期間中、米軍は北朝鮮国内の重要拠点をいつでも破壊できる態勢を取り続けます」(世良光弘氏)

 金正恩が最も恐れているのは斬首作戦”の訓練とされる。
「昨年春の米韓合同演習には特殊部隊『グリーンベレー』や『ネイビーシールズ』が参加しました。恐らく、米軍は今回も特殊部隊を投入すると思います。ステルスヘリでパラシュート降下させるのか、軍事境界線を越えて平壌に向かわせるのか、あらゆるケースを想定したシミュレーションを行うはずです。自分の暗殺作戦が隣国で2週間近くも続くわけですから、金委員長でなくとも精神的に異変を来しそうなものです」(世良光弘氏)
 金正恩が慌てふためいてムチャな軍事行動に出ないことを願うばかりだ。


日米が2プラス2、同盟強化と自衛隊の役割拡大を確認 
ロイター通信 2017年8月18日
[東京/ワシントン 18日 ロイター] - 日米両政府は17日、ワシントンで外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、北朝鮮の脅威が一段と高まる中、同盟を強化することで一致した。米国は核兵器を含めたあらゆる戦力で日本の防衛に関与することを改めて確認。両国は自衛隊の役割を拡大していくことで合意し、日本はその一環として、陸上配備型の新たなミサイル防衛システムを導入する意向を米側に伝えた。
小野寺五典防衛相は会合後の共同会見で「北朝鮮の脅威を踏まえ、協議では圧力強化と同盟能力の向上で合意した。拡大抑止への米国の揺ぎないコミットメントの重要性をそれぞれ4人が確認した」と語った。
中 略
ティラーソン国務長官は、北朝鮮との対話は望ましいものの、有意義な場合に限るとした上で「話し合いでは過去のものとは異なる結論を出すという認識の下、協議への参加を北朝鮮に促していきたい」と述べた。

両国は会合後の共同発表で、米国が核戦力を含むあらゆる戦力で日本の安全保障に関与することを改めて確認。また、日本が同盟における自衛隊の役割を拡大する一方、米国が最新鋭の能力を日本に展開し続けることを表明した。
両政府は防衛相会談と外務相会談もそれぞれ開いた。小野寺防衛相はマティス国防長官に、陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を新たに導入する意向を伝えた。同防衛相は記者団に対し、「北朝鮮の弾道ミサイル技術が進み、日本だけでなく、米国にも脅威になってる。新たな装備が必要であり、米側との協力を要請した」と述べた。
後 略

「北朝鮮が選択間違えば軍事的準備」米国務長官 日米2プラス2会見
日経新聞 2017年8月18日 
 【ワシントン=酒井恒平】日米両政府は17日午後(日本時間18日未明)、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を終えて出席閣僚が記者会見した。ティラーソン米国務長官は「北朝鮮が間違った選択」をした場合に備え「軍事的な準備を進めている」と言及した。北朝鮮のグアム沖への弾道ミサイル発射予告をけん制した。2プラス2では米国による核を含む拡大抑止を日本に提供し続ける方針も確認した。

 ティラーソン氏は会見で、7月の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も「決して受け入れられない」と非難した。「まずは外交手段に訴える」と述べながらも「北朝鮮の脅威には軍の即応体制を確保することで対応する」と話した。軍事力を用い「躊躇(ちゅうちょ)なく日本の安全保障に対応する」と日本への拡大抑止にも触れた。
 マティス米国防長官は「北朝鮮は挑発行為を終える必要がある」と批判した。「脅威と脅迫の道をやめなければ、北朝鮮だけでなくあらゆる国にとって好ましくない」と述べた。「日本は脅威の最前線だ。米国の軍事能力で防衛することは揺るぎない」と言及。日本防衛に関与しつづける方針を示した。
後 略