2017年4月26日水曜日

共謀罪法案 横浜事件の弁護団らが反対を訴える

 共謀罪法案について、横浜事件」で逮捕された元編集者の妻と弁護団が、「当時の治安維持法と同じように拡大解釈されて一般の人も処罰されるおそれがある」と反対を訴えました。
 
 横浜事件は、1942年、総合雑誌『改造』8・9月号に掲載された細川嘉六の論文「世界史の動向と日本」が、ソ連を賛美し政府のアジア政策を批判するものなどとして『改造』は廃刊になり、9月に細川が逮捕されました。
 『改造は、大正年間に発刊された社会主義的な評論を多く掲げた総合雑誌で、戦後に復刊され昭和30年まで刊行されました。
 捜査中に、細川『改造』や『中央公論』の編集者などと一緒に写った集合写真料亭旅館で見つかり、それが日本共産党再結成の謀議をおこなっていた証拠写真と誤認されて、改造社中央公論社をはじめ、朝日新聞社、岩波書店などの関係者約60人が順次治安維持法違反容疑で逮捕されました。
 逮捕された人たちは神奈川県特高課で激しい拷問を受けて4人が獄死し、約30人が主戦直後に執行猶予付きの有罪とされまし
 
 横浜事件は、官憲が治安維持法を恣意的に運用して、当局に取って邪魔な文化人たち60人を一網打尽にした事件で、共謀罪を恣意的に運用した一つの典型を示すものということが出来ます。
 NHKのニュースを紹介します。
 
 (追記)
 横浜事件の元被告や遺族の一部再審を求めた結果2005年に横浜地裁は再審を認める決定を出しました。しかし再審の結果は「免訴」ということで、原告が望んだ無罪の判決は得られず論議を呼びました。
 しかし原告による刑事補償請求に対しては2010年、5人の原告に対して全額4700万円が認められました。
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「テロ等準備罪」法案 横浜事件の弁護団ら反対訴え
NHK NEWS WEB 2017年4月25日
共謀罪の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案について、太平洋戦争中の言論弾圧事件、「横浜事件」で逮捕された元編集者の妻と弁護団が、「当時の治安維持法と同じように拡大解釈されて一般の人も処罰されるおそれがある」と訴えました
 
「テロ等準備罪」は、組織犯罪の防止を目的として、かつて廃案になった「共謀罪」の構成要件を改めたもので、衆議院で審議されています。
法案では、「組織的犯罪集団」が重大な犯罪を計画して準備行為をした場合などに処罰するとしていて、政府は、一般の人が強制捜査の対象になることはないと説明しています。
これに対して、太平洋戦争中に起きた「横浜事件」で逮捕された元編集者の妻の木村まきさん(68)が、今回の法案も言論の弾圧につながるおそれがあるとして、東京都内で弁護団とともに会見を開きました。
 
「横浜事件」では、雑誌の論文をめぐって、執筆者や編集者が「共産主義を宣伝した」として当時の治安維持法によって有罪とされました。
 
森川文人弁護士は、「治安維持法のときも一般の人は対象ではないと説明されていたが、実際は拡大解釈されたという歴史的事実があり、信用できない」と主張しました。
また、木村まきさんは、「今回の法案も誰にでも適用される可能性がある。廃案にするため全力で立ち向かわなければならない」と訴えました。
 
横浜事件 太平洋戦争中の言論弾圧
「横浜事件」は、太平洋戦争中に起きた言論弾圧事件です。
横浜事件では、当時の雑誌「改造」に掲載された論文の執筆者や雑誌の編集者などおよそ60人が、「共産主義運動を宣伝した」などとして当時の治安維持法の疑いで逮捕されました。
 
治安維持法は、国家体制を否定する運動などを取り締まるための法律でしたが、当時の帝国議会の審議では、罪のない一般の人が対象になるおそれがないか議論になりました。
議事録によりますと、当時の司法大臣は、「不当に範囲を拡張して、無辜(むこ)の民にまで及ぼすというごときことのないように十分に研究考慮を致しました」と答弁しました。
しかし、横浜事件では木村まきさんの夫で編集者だった亨さんなど言論に関わる人たちが次々に摘発されました。
逮捕された人たちは、思想事件を捜査する「特高」と呼ばれた当時の警察による激しい拷問を受け、4人が獄中で死亡したほか、30人余りが起訴され、そのほとんどが終戦直後に有罪判決を受けました。
治安維持法が廃止されたあと、元被告や遺族の一部は再審=裁判のやり直しを求め、平成15年に横浜地方裁判所は再審を認める決定を出しました。
 
また、遺族たちが起こした補償金を求める手続きで、平成22年に横浜地裁は、実質的に無罪だったとして、5人の元被告の遺族に請求どおり4700万円余りの支払いを認める決定を出しています。
 
恣意(しい)的判断への懸念も
「テロ等準備罪」をめぐっては、処罰の対象になる「組織的犯罪集団」に政府に批判的な団体などが含まれる可能性があるかどうかが論点の1つになっています。
法案で、「組織的犯罪集団」は、一定の犯罪の実行を目的とする団体とされ、どの団体が対象になるかは捜査当局の判断しだいで、刑事裁判で争われれば、最終的に裁判所が判断します。
政府は、「組織的犯罪集団」にはテロ組織や暴力団、薬物密売組織などが含まれるほか、当初は別の目的で設けられた団体でも、その後、犯罪を目的とする団体に一変した場合には、「組織的犯罪集団」と認定される可能性があるとしています。
そのうえで、正当な活動を行っている団体は対象外で、捜査を進める中で一般の人を対象に情報収集などの調査を行ったとしても、限定的だとしています。
 
これに対して、日弁連=日本弁護士連合会は、「具体的な要件が示されず、テロ集団や暴力団などに限定されるとは読み取れない」として、市民団体や労働組合などが処罰の対象とされる可能性があると批判しています。
また、政府の方針に批判的な活動をしているアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設に反対する人たちや、脱原発の活動をしている市民団体などからは、捜査当局の恣意的な判断で「組織的犯罪集団」として検挙されるおそれがあるという懸念の声が上がっています。