2017年4月21日金曜日

弾圧法案「共謀罪」は必要性がない

  「社会に有害な結果を生じる行為がなければ処罰されない」というのが近代刑法の基本原則です。
 「市民革命」は思想や宗教、信条といった内心のあり方が処罰の対象とされた「中世の暗黒時代」の否定として行われ、フランスの人権宣言は、思想・信条は処罰してはならないとして内心の自由を保障しました。
 日本の旧刑法はフランスの刑法を参考にして制定され、近代刑法の原則が確立されていました。
 
 戦前の治安維持法は1925(大正14)年に成立しました。審議の過程で「この法律は思想、信条を処罰するもので、近代刑法の原則に反する」という強い批判が出ましたが、政府側は「社会の敵を対象とするので近代刑法の原則にのっとらなくてもいい」と答弁したということです。国民の中に「社会の敵」を作り出し、手段をえらばずに弾圧するという恐るべき考え方です。
 治安維持法はその後さらに改悪されて、最終的には逮捕者数十万人、送検された人7万5千人余、虐殺された人80人以上、獄死者1600人余、という一大悲劇を生み出しました。
 
 政府がいま国会に提案している共謀罪法案は同様に人間の内心の状態を犯罪扱いするもので、行為がなければ処罰されないという近代刑法の原則を真っ向から否定するものです。
 政府は「犯罪実行のための準備行為」が逮捕・処罰の条件になると説明していますが、法案が例示するのは「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他」といったごく日常的な行為で、キノコ採りまでが含まれるというのでは何の歯止めにもなりません。偶然に犯行予定現場を通行しただけでも下見をしたことにされてしまいます。
 戦前の司法もただ検察(政権・体制側)の横暴を追認するだけで、何の歯止めにもならないばかりか、治安維持法は司法が育て上げたとまで言われました。現在もその傾向は変わらずに、むしろ強まっているといわれています。
 
 そんな中世に逆戻りするような共謀罪を導入しなければ「平和の祭典・五輪」が開けないとは・・・ピントが狂い過ぎています。
 櫻井ジャーナルは、イギリスでは監視システムを強化するために2012年のロンドン・オリンピックが利用されたと述べています。元々イギリスは監視社会でしたが、このオリンピックはそうした仕組みを強化するために使われ、さまざまな市民監視の設備が一挙に拡充されたということです。
 
 共謀罪法案は19日から実質審議入りしました。そこでは野党から何を指摘されても満足に回答することが出来ないという、政府側のお粗末さがますます明らかになっています。キチンとした法理論に基づいて組み立てられた法案ではなく、この際に多数を頼んで、警察・検察が自由に国民を監視・拘束できるようにしようとする意図が見え見えのものだからです。
 
 櫻井ジャーナルの記事:「戦争に反対、平和を望む人びとをテロリストとして監視、弾圧してきた米支配層の後を追う安倍政権」と、北海道新聞の社説:「共謀罪審議 必要性自体合点ゆかぬ」を紹介します。 
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戦争に反対、平和を望む人びとをテロリストとして監視、弾圧してきた米支配層の後を追う安倍政権
櫻井ジャーナル 2017.04.20
安倍晋三政権は「共謀罪」を強引に成立させようとしている。現在、日本を支配している権益システムにとって目障りな人びとを弾圧する道具として使われることは間違いないだろう。こうした政策は日本の支配層をコントロールしているアメリカの支配層が推進してきたことでもある。
 
アメリカの支配層は民主主義を破壊するために「テロリズム」を口実として使ってきた。2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃された直後、詳しい調査もせずにジョージ・W・ブッシュ政権は実行犯を「アル・カイダ」だと断定、その「アル・カイダ」を匿っているという名目でアフガニスタンのタリバーン政権を批判、同国に対する軍事侵攻を開始しているが、その一方でアメリカの憲法を麻痺させる愛国者法を成立させた
 
それ以降、「アル・カイダ」は「テロリスト」の象徴的な存在になったが、1997年5月から2001年6月までイギリスの外務大臣を務めた故ロビン・クックは2005年7月、アメリカがイラクを先制攻撃した2年後に「アル・カイダ」が「テロ組織」でない事実をガーディアン紙に書いている。アル・カイダはCIAが訓練した「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイルにすぎないのだ。アル・カイダはアラビア語でベースを意味するが、「データベース」(傭兵リスト)の訳語としても使われる。この指摘をした翌月、クックは保養先のスコットランドで心臓発作に襲われて死亡している。享年59歳だった。
この傭兵リストを使って武装集団が編成されるのだが、そうしたひとつがリビア侵略で登場したLIFG。リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制を倒すため、NATOはこの集団と手を組んでいた。2011年10月にカダフィが惨殺された後、反カダフィ勢力の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられた。その様子はYouTubeにアップロードされ、デイリー・メイル紙も伝えている。この出来事は西側支配層と「テロリスト」の関係を象徴している。
 
アメリカの情報機関が自分たちのヨーロッパにおける支配システムを強化、目障りな勢力を弾圧するために「テロリスト」を使ったことも知られている。コミュニストが強かったイタリアでは1960年代から80年代にかけて「爆弾テロ」が繰り返され、極左グループ」が実行したと宣伝されていたが、実際はNATOの内部に作られた秘密部隊(イタリアではグラディオと呼ばれている)だった。この事実を認める報告書をジュリオ・アンドレオッチ政権が1990年10月に公表している。(Daniele Ganser, “NATO’s Secret Armies”, Frank Cass, 2005)
ギリシアのアンドレア・パパンドレウ元首相もNATOの秘密部隊が同国にも存在したことを確認、ドイツでは秘密部隊にナチスの親衛隊に所属していた人間が参加していることも判明した。
この3カ国だけでなく、ほかのNATO加盟国にも同じような部隊が存在、結びついていることが明らかになっている。オランダやルクセンブルグでは首相が、またノルウェーでは国防大臣が、トルコでは軍の幹部がそれぞれ秘密部隊の存在を認めているスペインの場合、「グラディオは国家だった」と1980年代の前半に国防大臣を務めたアルベルト・オリアルトは言っている。(前掲書)
 
アメリカの愛国者法が戦争に反対する人びとや団体を弾圧するために使われていることも指摘されているが、この国の支配層は以前から戦争に反対し、平和を求める人びとを敵視してきた。例えば、FBIが1950年代に始めた「COINTELPRO」も、CIAが1967年に始めたMHケイアスも、戦争に反対する人物を監視することが目的だった。
アメリカの支配層にとって、反戦/平和運動は「テロ行為」なのである。反体制派、人権擁護や環境運動の活動家、ジャーナリスト、学生指導者、少数派、労働運動の指導者、政敵も監視のターゲットになる。監視システムは電子技術の進歩にともない、「ビッグ・ブラザー」の度合いを強めてきた。
アメリカや日本のようにコンピュータ化の進んだ社会では、個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなど個人情報の収集と分析は難しくない。街中に設置されたCCTVやICカードの普及は個人情報の一括管理を可能にし、GPSつきの携帯電話は個人の行動を追跡するためにも利用できる。住基ネットはそうした監視システムとして使うために導入されたのだろう。
 
アメリカの場合、スーパー・コンピュータを使って膨大な量のデータを分析、「潜在的テロリスト」を見つけ出そうともしている。どのような傾向の本を買い、借りるのか、どのようなタイプの音楽を聞くのか、どのような絵画を好むのか、どのようなドラマを見るのか、あるいは交友関係はどうなっているのかなどを調べ、分析しようというのだ。
イギリスでは監視システムを強化するため、2012年のロンドン・オリンピックが利用された。元々イギリスは監視社会だったが、このオリンピックはそうした仕組みを強化するために使われたのである。顔の識別も可能な監視カメラを張り巡らせ、無人機による監視も導入、通信内容の盗聴、携帯電話やオイスター・カード(イギリスの交通機関を利用できるICカード)を利用した個人の追跡も実用化させた。海兵隊や警察の大規模な「警備訓練」も実施され、本番では警備のために軍から1万3500名が投入されたという。
 
盗聴法、特定秘密保護法、安保関連法、緊急事態条項、そして共謀罪の創設、日本で進められている監視システムの強化、弾圧体制の整備といった政策はアメリカ支配層が進めてきたものにほかならないが、単に後を追いかけてきただけでもない。
例えば、1910年に「テロの共謀」を理由にして幸徳秋水など社会主義者や無政府主義者が処刑された「大逆事件」、1949年7月から8月にかけて国鉄を舞台にして引き起こされた「テロ」も左翼と呼ばれる人びとの弾圧に使われた。「下山事件」、「三鷹事件」、「松川事件」だ。いずれもでっち上げだった可能性がきわめて高い。
1952年6月に大分県直入郡菅生村(現竹田市菅生)で駐在所が爆破された「菅生事件」では、共産党に潜入していた戸高公徳(警察官・市木春秋という偽名を使っていた)が「テロ」を演出するために実行している。戸高が真犯人だった。
その後、戸高は有罪判決を受けるが、判決から3カ月後に警察庁は彼を巡査部長から警部補に昇任させ、そのうえで復職させている。最終的に彼は警視長まで出世、警察大学の術科教養部長にもなっている。退職後も天下りで厚遇された。
共謀罪であろうと何であろうと、支配層が示す「限定」などは何の意味もない。 
 
 
社説「共謀罪」審議 必要性自体合点ゆかぬ 
  北海道新聞 2017/04/20  
 「共謀罪」の構成要件を変更してテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案がきのう、衆院法務委員会で実質審議入りした。
 共謀罪は実行行為を処罰する刑法の原則を大きく変質させるもので、憲法が保障する内心の自由を侵しかねない重大な危険があると繰り返し主張してきた。
 政府は法改正の理由に「テロ対策」を前面に掲げる。だが、誰も否定できないテロ対策を隠れみのに市民社会への監視を強めるのが本当の狙いではないか。
 国会は徹底審議によってこうした問題点を国民の前に浮き彫りにすべきである。与党が数の力によって押し切る強引な運営は断じて許されない。
 
 安倍晋三首相は委員会で「東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策は喫緊の課題だ」と述べ、早期成立に重ねて意欲を示した。
 またテロ捜査で各国と連携するには187の国・地域が加わっている国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結が極めて重要で、条約が定める国内法整備として成立させる必要があると説明した。
 だが日本でも殺人、ハイジャックといった重大犯罪は予備罪、準備罪などでの摘発が可能であり、現行の法体系でも条約締結はできると日弁連などは主張する
 条約加盟国が全て日本の水準を上回る厳格な法整備をしているのか、政府の明確な説明は今のところない。これでは説得力を欠く。
 その一方で、野党側からは森林法、廃棄物処理法違反など、テロ対策とは無縁と思えるような法律・罪名が共謀罪の対象となっていることへの追及が続いた。
 立件に被害者の告訴などが必要な親告罪の著作権法違反も含まれる。民進党の枝野幸男氏は、著作権侵害を共謀し準備行為に入っただけでは、具体的被害がなく被害者は告訴できるのかと指摘した。
 捜査当局の摘発の網を広げようとするあまり、ずさんな内容の法案になった実態が明るみに出たと言ってもいいのではないか。
 
 午前中の審議では、民進、共産両党が要求していない法務省の林真琴刑事局長の参考人出席を自民党の鈴木淳司委員長が職権で採決した。異例の事態に対し、民進、共産両党は激しく反発した。
 与党は審議を充実させるためと言うが、金田勝年法相の不安定な答弁を懸念したのが真相だろう。
 実際、この日も肝心な点は原稿を棒読みするような場面がほとんどだった。閣僚としての資質が問われるのは当然だ。