2017年4月18日火曜日

財務省の森友交渉記録廃棄は明確な法律違反

 日刊ゲンダイが、森友学園の国有地格安払い下げに関する交渉記録などの書類が財務省に保存されていない問題について、情報公開や公文書管理の法制に長年関わってきた弁護士の三宅弘氏にインタビューしました。
 三宅氏は、「理財局長の書類の保存期間は1年未満とする解釈は間違いで、公文書管理法4条に『当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程の文書を残す』となっているのに違反している。公文書管理法101項に基づく『行政文書の管理に関するガイドライン』の別表15『予算及び決算に関する事項』の『歳入及び歳出の決算報告書に関する決算書の作製その他決算に関する重要な経緯』に該当するので、書類の保存年限は最低でも5年である」と述べています。
 
 そして交渉記録の廃棄をもし故意にやっていたら、刑法の公用文書等毀棄罪に該当するし、故意ではないとしても、保存義務について裁量権を乱用しているということで明らかに公文書管理法違反であると述べています。
 
 三宅弁護士は3月25日のTBS報道番組でもほぼ同じ発言をしています。それなのに財務省の解釈に誰も異論を唱えないのは不思議なことです。

  (関係記事)
3月28日  国家権力の私人攻撃は異常 財務省の記録廃棄は公用文書毀棄罪
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      注目の人 直撃インタビュー  
三宅弘弁護士 財務省の森友交渉記録は「今からでも作れる」
日刊ゲンダイ 2017年4月17日
 森友学園の国有地格安払い下げを巡る問題は、一向に疑惑が晴れない。どうして8億円ものディスカウントが行われたのか。それが分かれば、真相究明の可能性があるのに、財務省は「交渉記録は廃棄した」と言い張る。どうにも腑に落ちないのだが、情報公開や公文書管理の法制に長年関わってきた弁護士の三宅弘氏は、財務省の答弁を「明確な法律違反だ」と断じ、「記録は今からでも作れる」と明言する。どういうことなのか。
 
■明確な法律違反、最低5年は保存が必要
 
――森友学園の問題では、財務省が「交渉記録を廃棄した」と答弁していることが疑惑を深める要因になっています。本当に記録はないと思いますか?
 いえ、極めて怪しいと思っています。記録は個人のメモとして残っているはずです。なぜそう言えるかというと、3・11(東日本大震災)後に政府の災害対策本部と原子力災害対策本部が約1年間議事録を作っていなかったことが大問題になりました。結局、個人のメモをベースに議事録を作成したのですが、私はその検証業務に関わったのです。財務省の交渉記録は、個人のメモを集めれば今からでも作れます。「報告書として出せ」と指示するのが本来の政府のあるべき姿だと思います。
 
――安倍首相がらみの案件なので官邸は動きませんよね。それで財務省も交渉記録の文書が「ない」と言い張っている。
 まさに忖度でしょう。交渉の中身が分かると危ういことがいろいろ出てくるのではないかという計らいで、財務省行政文書管理規則で保存期間「1年未満」の文書だと決めつけて廃棄したということでしょうか。あとは知らぬ存ぜぬです。しかし、この財務省の解釈に誰も異論を唱えないところに一番の問題がある。
 
――「1年未満」という財務省の解釈は間違っている?
 そうです。私は公文書管理法の制定過程に関わっているのですが、4条に「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程の文書を残す」という条項が入ったんです。この趣旨にのっとれば、8億円もの値下げという売買契約の経緯を財務省と国土交通省は記録として残さなければならない。1年未満の文書だから廃棄できるというような解釈には、決してなりません。
 
――法律を守っていれば、保存されていないとおかしい、ということですね。
 公文書管理法10条1項に基づく「行政文書の管理に関するガイドライン」の別表を再度読み直してみたのです。そうしたら「15 予算及び決算に関する事項」に、「歳入及び歳出の決算報告書に関する決算書の作製その他決算に関する重要な経緯」の中で会計検査院に提出すべき計算書及び証拠書類というのは、保存年限5年とされているのです。契約書に添付された資料などは最長の30年保存という解釈もありうる。つまり、最低でも5年は保存しなければいけない文書なのです。 
 
■理財局長はクビが飛んでもおかしくない
 
――財務省行政文書管理規則では国の「行政文書ガイドライン」に従って、文書の保存期間を1年、3年、10年、30年と決めている。土地売買交渉の経緯はそのいずれにも当てはまらないということで「1年未満」とされた。
「行政文書ガイドライン」の別表第1備考五というのがあって、財務省の行政文書管理規則にも同じ文言が入っているのですが、「本表が適用されない行政文書については、文書管理者は、本表の規定を参酌し、当該文書管理者が所掌する事務及び事業の性質、内容等に応じた保存期間基準を定めるものとする」と義務づけられている。これを根拠として仮に財務省が、一般に売買契約の交渉過程を「1年未満」という取り扱いにしていたとしても、今回のケースは8億円もの大幅値下げをしているため、会計検査院がチェックする文書になることは明らかです。やはり、前述のように最低5年は保存が必要で、1年未満にしてはいけないと判断しなければならなかった。実際に安倍首相も国会で「会計検査院がしっかり審査すべきだ」と発言していますしね。
 
――財務省は恣意的に「1年未満」と解釈した可能性がありますね。
 財務省はガイドラインの別表に入らない文書だと決めつけたわけです。しかし、備考欄に重要度に応じて対応しなければならないと書いてある。もちろん1年未満の文書についてもです。最初から文書を残そうという腹がないから、とにかく1年未満のものは全部消せると解釈している。明らかに意図的な解釈でおかしい。こんな解釈がまかり通ったら、日本の公文書管理はメチャクチャになってしまいます。
 
――財務省のやっていることは法律違反ですね。
 交渉記録の廃棄をもし故意にやっていたら、刑法の公用文書等毀棄罪に該当します。故意ではないとしても、保存義務について裁量権を乱用しているということで明らかに公文書管理法違反です。国有財産の処分は、税金の使い道という広い意味でいえば、「国民共有の知的資源」に対して、我々国民に知る権利がある。それに対して説明責任を果たすというのが公務員のあるべき姿です。国会で「1年未満の文書ですからありません」とシャーシャーと言ってのけるのは、驕りですよ。謙虚さが足りません。対応を誤ると理財局長はクビが飛んでもおかしくないような、最重要の問題です。
 
――「文書はない」で終わらせては絶対にいけない、ということですね。
 財務省が「ない」と言っていることについて安倍首相が国会で「ないことを証明するのは悪魔の証明だ」と言っていましたが、自分たちの法律上の保存義務違反を棚に上げて、あんな場面で「悪魔の証明」を使うのはいかがなものか。そもそもこの公文書管理法は麻生首相(現財務大臣)の時に作った法律ですよ。皆さん国会で笑っているしねえ。
 
――公文書管理法は2009年の施行。麻生さんの前の福田康夫元首相が熱心だった。
 福田さんがなんとしても成立させるんだって頑張って、くだんの4条(意思形成過程を残す)が入ったのです。これはすごく大事で、集団的自衛権の行使を認める閣議決定時に、内閣法制局が「意見なし」とした件で、その経緯に関わる意思決定文書を法制局長官は「ない」とした。しかし、情報公開・個人情報保護審査会は、次長レベルで上がってきた想定問答を「意思決定の経緯を残すもの」だとして公文書だと答申したのです。こうした経過を知っていれば、首相は「悪魔の証明」なんて言えないはずです。
 
■メールも転送すれば“公文書”
 
――そうなると、「意思決定の過程」を公文書とする際に、「個人のメモ」の範囲が重要になってきます。メールはどこまで含まれるのか。どう考えますか?
 情報公開法では「組織として共有しているもの」は公開の対象です。「決裁供覧」の印を押すだけじゃなく、会議でみんなに配ったら「組織共用」なんです。公文書管理法を作る際には紙だけでなく、電子データも対象になった。当時、米国ではオバマ大統領のツイッターも情報公開の対象だという運用をしていて、日本でも鳩山首相がツイッターを始めて、ツイッターデータも公文書管理法の対象になった。今は何でもパソコンでデータを打つ。それをメールで転送すれば「組織共用」になります。ですから、森友の問題でも「私的メモだから」という言い訳は通用しません。メールのやりとりも組織共用であるという運用を、はっきりと一般化する必要があると思います。
 
――今の時代、公務員のメールは全て公文書であると考えるべきだということですね。「私的メモ」などほとんどない。
 役人は今でも「紙の決裁文書だけ残せばいい」という発想で、それ以外のデータを消そうとする。その最たるものが防衛省です。防衛省はとにかく出版物にしたり、紙にしたりしたら直ちに電子データを消すというルール。だから「日報」問題で、情報公開請求に対して「文書不存在」と回答した。しかし、こんな前近代的な発想で文書管理していたら、即座にデータを集めて、何かインテリジェンスをやらなければならない場面で、全く対応できないじゃないですか。防衛が成り立たなくなってしまう。国として問題です。
(聞き手=本紙・小塚かおる)
 
▽みやけ・ひろし 1953年福井県生まれ。78年東大法卒。83年弁護士登録。93年筑波大修士課程経営・政策科学研究科修了(法学修士)。BPO放送人権委員会委員長、総務省・行政機関等個人情報保護法制研究会委員、情報公開クリアリングハウス理事、日弁連副会長などを歴任。独協大特任教授。