2017年4月26日水曜日

26- 共謀罪で恐るべき監視社会が当たり前になってしまう(五十嵐仁氏)

 元大原社会問題研究所長で法政大学名誉教授の五十嵐仁氏が、『共謀罪で恐るべき監視社会が当たり前になってしまうという悪夢』というブログ記事を出しました。
 共謀罪が「一般の人」を捜査対象にしていることはもう自明な事柄になっていますが、五十嵐教授はそれに加えて、日本は2013年には米国からインターネット上の電子メールなどを幅広く収集・検索できる監視システム提供を受けていたこと、先には通信の盗聴対象が拡大されていること、さらには監視カメラも広範囲に設置されつつあることなどから、国民監視のシステムは高度なレベルに達しているとして、そうしたデータをコンピューターに蓄積して犯罪捜査活用すれば、犯罪の計画、準備、相談をでっち上げ、「共謀」した罪によって対象者を社会から抹殺することが今までよりもずっと容易になり、そうなれば「犯罪」は犯される前に取り締まられ、当局の判断に応じて恣意的に「犯罪者」が作られることになるとしています
 
 そのような社会になれば、権力の暴走を抑えることができなくなり、民主主義は死滅します。いまはそうなるかどうかの瀬戸際です。
 
 「五十嵐仁の転成仁語」を紹介します。
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共謀罪で恐るべき監視社会が当たり前になってしまうという悪夢
五十嵐仁の転成仁語 2017年4月25日 
 国会の衆院法務委員会で、共謀罪の審議が進んでいます。特に目立つのは、自民党による慣例を無視した強引な国会運営です。
 野党の反対を押し切って、職権で刑事局長を参考人登録したり、職権で委員会を開いたり、強引に参考人質疑の開催を決定したり、異様なやり方が続いています。これは、何としても今国会中に成立させたいという安倍首相の執念を示すものですが、同時に、このような強引なやり方が野党の反発を強めて世論の警戒心を高め、逆に審議を遅らせるという側面も生まれています。
 
 異常で強引な運営が行われているのは、正常で普通の運営方法では会期中での成立が危ぶまれるからです。それだけ、この共謀罪法案には問題が多くあります。
 先週の21日に共謀罪法案を審議した衆院法務委員会で、盛山正仁法務副大臣は「一般の人が(共謀罪の捜査の)対象にならないということはない」と明言しました。「一般の方が対象になることはない」と繰り返し強調してきた安倍首相や菅官房長官、金田法相の発言を否定したのです。
 井野俊郎法務政務官も「捜査の結果、シロかクロかが分かる」と、一般の人に対する捜査の可能性を示唆しました。捜査してみなければ怪しいかどうかわからないと言っているわけで、「一般の人」が捜査対象になるのは避けられません
 
 それだけではありません。法務委員会で民進党の階猛議員が枝野幸男議員と少々相談をしたとき、それを見ていた自民党の土屋正忠理事が大声でこう叫んだのです。「あれは、テロ等準備行為じゃねえか!」
 共謀罪については「話し合うだけで罪になる」危険性が指摘されてきました。土屋議員の野次は、議員2人の話し合いを「テロ等準備行為」だと恫喝したわけで、まさにこのような危険性を裏付けるものでした。
 たとえ話し合わなくても、準備行為に当たるとみなされるような連絡がメールやラインで送られていれば、それを読んでいなくても「共謀」の罪に問われる可能性があります。そして、このようなメールなどを幅広く監視できるシステムが、すでに存在していることが、今日の『朝日新聞』で次のように報じられました。
 
 調査報道を手がける米ネットメディア「インターセプト」は24日、日本当局が米国家安全保障局(NSA)と協力して通信傍受などの情報収集活動を行ってきたと報じた。NSAが日本の協力の見返りに、インターネット上の電子メールなどを幅広く収集・検索できる監視システムを提供していたという。
 
 報道によると、NSAは60年以上にわたり、日本国内の少なくとも3カ所の基地で活動。日本側は施設や運用を財政的に支援するため、5億ドル以上を負担してきた。見返りに、監視機器の提供や情報の共有を行ってきたと指摘している。
 たとえば、2013年の文書では、「XKEYSCORE」と呼ばれるネット上の電子情報を幅広く収集・検索できるシステムを日本側に提供したとしている。NSAは「通常の利用者がネット上でやりとりするほぼすべて」を監視できると表現している。ただ、日本側がこのシステムをどう利用したかは明らかになっていない。
 
 このような「通常の利用者がネット上でやりとりするほぼすべて」を監視できるシステムが、今のところ、どのように使われているかは不明です。もし、共謀罪が成立すれば、このようなシステムが全面的に活用され、「ネット上でのやり取り」が監視されることになるでしょう。
 すでに、街中には数多くの監視カメラが作動しています。通信傍受法の「改正」によって盗聴の対象が拡大され、知らないうちに通信の内容が傍受される危険性が高まっています。
 超小型発信機によって位置を測定できるGPS(全地球無線測位システム)も犯罪捜査で使われています。3月15日に最高裁は令状なしでの使用は違法だとの統一判断を示して歯止めをかけましたが、共謀罪が成立すれば捜査手段として活用することが合法化されるにちがいありません。
 
 さらに、コンピューターに蓄積されたビッグデータの犯罪捜査への活用も図られるでしょう。このデータには、ネット通信での情報、監視カメラによる映像、盗聴による音声、そしてGPSによる所在情報など、多様な個人情報が含まれることになります。
 これらの情報を用いて犯罪の計画、準備、相談をでっち上げ、「共謀」した罪によって社会から抹殺することは、今までよりもずっと容易になるでしょう。「犯罪」は犯される前に取り締まられ、当局の判断に応じて恣意的に「犯罪者」が作られることになります。
 監視されていることに気づかず、権力者にとって不都合な言動を行ったとたん「テロ等準備」のための「共謀」を行ったかどで逮捕される、などという恐るべき監視社会が当たり前になるという悪夢が現実となるでしょう。
 
 たとえそうならなくても、そうなるかもしれないと国民に思わせることが本来の目的なのかもしれません。監視を恐れて不都合な言動を行わず、従順な国民が増えていけば、このような法律の発動さえ必要なくなるのですから……。
 でも、そのような社会になれば、権力の暴走を抑えることができなくなり、民主主義は死滅することになるでしょう。自由な言動が圧殺された息苦しい社会の出現こそ戦争前夜を予示するものであったことを、今こそ思い出す必要があるのではないでしょうか。