2017年4月10日月曜日

10- 米国の一方的なミサイル爆撃を拡大させてはならない

 五十嵐仁氏はブログ:「・・・転成仁語」で、シリア・イドリブ県で化学兵器が用いられた事件は、反政府勢力地域の貯蔵庫が空爆によって破壊されたために周辺の住民が被害を受けた可能性もあるとしました。
 そして何より化学兵器がシリア空軍によって用いられたという証拠全くないなかで、トランプ大統領巡航ミサイル59発を発射する暴走を行った理由は軍産複合体に近い共和党の主流派や好戦的な世論の支持を回復するためと思われるとしています。
 
 かつてクリントン大統領は、女性とのスキャンダル問題が取り上げられる都度イラクへの空爆を敢行しました。米国民はその都度熱狂的に彼を支持し、大統領の支持率が95%に達するなどしました。米国民には驚くほど好戦的な面がありました。全員がそうでないのは勿論ですが・・・ 
 
 しんぶん赤旗は「主張」で、シリアは化学兵器禁止条約の加盟国なので化学兵器禁止機関による調査が適切であり、一方的なシリア攻撃は米国自身の国連での主張にも反するとしています。
 そして、米トランプ政権「すべての選択肢がテーブルにある」と、北朝鮮への軍事力の行使も辞さない態度を見せたことに呼応して、安倍首相が「東アジアでも大量破壊兵器の脅威は深刻」とトランプ政権の行動を高く評価したこと重大であって、朝鮮半島でも同じことが繰り返されることがあってはならないとしました。まさに安倍首相の挑戦的気質・好戦性が明らかにされた反応でした。
 
 アメリカは化学兵器を用いたのはシリアだと極めつける一方で、その背後にはロシアがいると誹謗しました。トランプ氏が大統領選で「ロシアとの宥和策」に言及したのは何だったのでしょうか。
 大統領には世界情勢の報告にかこつけてCIAの見方を日常的にレクチュアするとされているので、早くもその術中に嵌ったのでしょうか。トランプ大統領がこれ以上暴走を拡大しないよう国連をはじめ世界は釘をさすべきです。
 
 ブログ:「五十嵐仁の転成仁語」としんぶん赤旗の記事(2本)を紹介します。
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トランプ米大統領によるシリア空爆の背景と意図
五十嵐仁の転成仁語 2017年4月9日 
 トランプ大統領がまたも暴走(逆走?)しました。シリアに対して巡航ミサイル59発を発射し、うち23発が目標に命中したと言われています。
 攻撃の理由はシリア政府軍が毒ガスを使用したのではないかという疑惑です。毒ガスなど化学兵器の使用は許されず、断固として糾弾しなければなりません。
 
 テレビでは、子供たちをふくむ市民が犠牲となり、治療を受けている映像が流れました。しかし、この化学兵器がシリア空軍の空爆によって用いられたという証拠は全くありません
 政府軍は国連監視下で化学兵器の廃棄を進めてきましたから、このような兵器を持っていない可能性が高いと言えます。逆に、このような監視下にないヌスラ戦線(アルカイダ)など、現地を支配していた反政府勢力がこのような兵器を隠し持っていた可能性の方が高いのではないでしょうか。
 その兵器の貯蔵庫が空爆によって破壊され、それが流れ出して周辺の住民が被害を受けた可能性も否定できません。今後、国連の調査などで真相が解明される必要がありますが、一方的に政府軍の仕業と断定した今回のミサイル攻撃は、かつてイラクで始めた時の「濡れ衣戦争」を思い出させるような誤ちの繰り返しにほかなりません。
 
 トランプ大統領はどうしてこのような強硬手段に出たのでしょうか。その理由は軍産複合体に近い共和党の主流派や好戦的な世論の支持を回復するためだったと思われます。
 このところ、中東諸国からの入国制限は司法の抵抗によって阻まれ、国境の壁を建設するための予算は議会によって認められず、目玉政策であったオバマケアの廃止も断念に追い込まれ、世論の支持率は30%台に落ち込んでしまいました。それを逆転するためのチャンスを狙っていたトランプ大統領にとって、化学兵器の使用を口実にしたシリア攻撃は格好の手段だったということではないでしょうか。
 国連の決議もなく議会の決定もない今回の攻撃への批判もありますが、他方で好戦的な勢力による支持も高まっています。議会承認が遅れていた保守的な最高裁判事の信任は、この攻撃後一挙に決着してしまいました。
 
 しかし、このような攻撃によってシリア情勢を解決することはできません。ロシアとの対立を深め、アサド政権に対するアメリカの影響力を弱めるだけです。
 かつての、イラクでの「濡れ衣戦争」は泥沼化を深め、イスラム国の前身であるイラクの聖戦アルカイダというモンスターを生み出しました。今回も、シリアへのこれ以上の軍事介入は同様の混乱と泥沼化を引き起こすだけでしょう。
 アメリカはシリア情勢を打開する「出口戦略」を持っていません。今回の攻撃も、国務省の体制が整わず、国家安全保障会議(SNC)からバノンが追い出されるなど安全保障をめぐる体制と政策が未確立な「間隙」を突いたトランプ大統領の「暴走」であったように見えます。
 
 このようなトランプの「暴走」による「濡れ衣戦争」に対して、安倍首相は直ちに支持を表明しました。これも、かつてのイラクに対する「濡れ衣戦争」への日本の対応を彷彿とさせるような光景です。
 しかし、それがいかに大きな誤りであったかは、すでに歴史によって証明されています。今回も大きな間違いであったことが、いずれ歴史によって証明されるにちがいありません。
 今回のシリア攻撃は北朝鮮に対しても米国単独で攻撃に出る可能性を示して牽制するためのものであったと見られています。日本政府としてはこのような攻撃が北朝鮮に対しても行われないよう、慎重な対応が必要だったのではないでしょうか。
 
 いずれにしても、シリアへの空爆は「人殺しをやめさせるため」という名目で人殺しを行ったことは明白です。このようなデタラメな論理で武力攻撃を繰り返す愚をいつまで続けるつもりなのでしょうか。
 殺し合いは新たな殺し合いの原因を生み出すだけです。国際政治においてそれにストップをかける役割こそ、この日本が果たさなければならないというのが、憲法の平和主義が命ずるところなのではないでしょうか。
 
 
主張 米国のシリア攻撃 危険広げる「米国第一」の暴挙
しんぶん赤旗 2017年4月9日(日)
 シリア北部での化学兵器による攻撃で子どもをはじめ多数の死傷者が出たとの報道を受け、米トランプ政権は6日(日本時間7日)、シリア中部の空軍基地へ59発のミサイルを撃ち込みました。国連安保理の決議もない国際法違反の攻撃は、シリアの化学兵器問題の解決につながらず、同国の6年に及ぶ内戦の終結をさらに遠のかせる暴挙でしかありません。
 
調査と内戦解決に逆行
 化学兵器の使用は誰によるものであれ、人道と国際法に反する許されない行為です。しかし一方的なシリア攻撃は、米国自身の国連での主張にも反します
 米国はミサイル攻撃の前、英仏とともに国連安保理に提示した決議案の中で、シリアでの化学兵器使用の責任者の特定と処罰を求め、化学兵器禁止機関(OPCW)と国連による、軍事施設を含むシリアでの化学兵器攻撃の調査を提起し、同国への軍事制裁には言及していませんでした。シリアは化学兵器禁止条約の加盟国であり、OPCWの調査が適切です。軍事攻撃はそれを妨げるものです。
 
 トランプ大統領は攻撃について、「化学兵器の拡散と使用を防ぎ、抑止することは、米国の国家安全保障上の死活的な利益」と正当化を図っています。ここには、シリアの人々がおかれた苦境の打開とは無縁の、国連憲章や国際法を無視した「米国第一」主義の危険が現れています。
 
 国連のグテレス事務総長は7日の声明で、シリア情勢の深刻化に懸念を示し、内戦には政治解決しか道はないと強調、すべての当事者の取り組みが急務だと呼びかけました。安保理の同日の討論でも、ミサイル攻撃を支持する英仏の一方で、攻撃への批判と紛争激化への警告や、シリア内戦終結のため米国とロシアに率直な話し合いと協力を求める意見(エジプト)が相次ぎました。内戦の解決は「テロとのたたかいの前進にも不可欠」(グテレス氏)です。
 ところが安倍晋三首相は、いち早くトランプ政権の「決意を支持する」と表明しました。米国追従の極みで、内戦悪化をもたらす側に日本政府を立たせるものです。
 重大なのは、「東アジアでも大量破壊兵器の脅威は深刻」と北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、トランプ政権の行動を高く評価したことです。自民党幹部からも「北朝鮮にかなり強いメッセージになった」「一定の抑制効果になればいい」と歓迎の声が聞こえます。
 
 しかし北朝鮮問題での軍事解決は、シリア内戦についてと同様、ありえません。米トランプ政権は、「すべての選択肢がテーブルにある」と、北朝鮮への軍事力の行使も辞さない態度を見せていますが、北朝鮮は「われわれは断固たる先制攻撃で徹底的に粉砕する合法的な権利がある」と反発しています。軍事対軍事のエスカレートにより朝鮮半島で紛争が起きれば、おびただしい犠牲が出ることは避けられません。
 
朝鮮半島での再現許さず
 安倍政権は、地域と世界に深刻な事態をもたらす軍事攻撃を米国に促すような態度はやめるべきです。北朝鮮には、国際社会の結束した経済制裁の実施と、外交交渉で核・ミサイル開発の放棄を迫ることが重要であり、日本は、そうした方向に進むよう米国に働きかけることこそ必要です。
 
 
米のシリア攻撃に批判 国連安保理が緊急会合 法的正当性を問う声
しんぶん赤旗 2017年4月9日
 【ワシントン=池田晋】国連安全保障理事会は7日、シリアに対するトランプ米政権のミサイル攻撃を受け、緊急会合を開きました。米国の同盟国などが支持や理解を表明する一方、米国の単独行動に対して、批判や法的正当性を問う声も上がりました。
 国連のフェルトマン事務次長(政治局長)はシリア民間人の保護が最優先課題だとした上で、必要なのは「国連の諸原則に根差した緊急の行動だ」と強調。米国の軍事行動を暗に批判しました。
 緊急会合開催を求めたボリビアは、安保理がシリアで起きた化学兵器攻撃をどのように調査するか議論している時に、米国が一方的な攻撃を行ったことは平和と安定を脅かすと批判。「私たちは多国間協調主義を擁護するためにここにいる」と述べ、一方的な行動を禁じた国連憲章の尊重を求めました。
 ウルグアイも武力の非行使が国際関係の中心原則だとして、「わが国は常に一方的な武力行使を拒否してきた」と表明しました。
 米国のヘイリー大使は、化学兵器の「拡散と使用を阻止することは米国の利益だ」として、今回の武力行使は「完全に正当化される」と主張。「もっとやる用意がある。その必要が無いことを望む」と述べ、単独の軍事行動を重ねて実施する構えであることを強調しました。
 日本の別所浩郎大使は「米国がさらなる事態悪化を防ぐために昨夜取った行動を理解する」と支持しました。