2017年1月13日金曜日

13- 自由貿易主義で利益を得るのはグローバル企業だけ

 米国の体制派はいまトランプ次期大統領を貶めることに必死で、「プーチンの仲間」とまで呼んでいるということです。また米国内の自由主義的…乃至は政府に批判的なブロガーや評論家としてリストアップされた200人についても、やはり「プーチンの手先」だとされている由です。しかしどう考えてもそれはあり得ないことで、米国の中枢がそこまで取り乱すとは滑稽な話です。
 
 日本のメディアはそこまでは言いませんが、トランプ氏がNAFTA(北米自由貿易協定)やTPPに反対していることを「保護貿易主義」だとして否定的に論じ、自由貿易主義が正しいという報じ方をしています。
 
 しかし自由貿易の「自由」を享受して莫大な利益を得るのは「1%」の側の多国籍(グローバル)企業であって、「99%」の側は、製造業で相対的に高い賃金を得ていた労働者は工場の海外移転で職を失い、新たに就業する「サービス業」での労働では、海外から輸入された労働力による賃金引き下げ効果の影響で、低い賃金の「サービス業」に従事しなければならなくなるということが起こります仮に職を失わないまでも、海外から安い労働者が流入すれば、最終的に賃金は切り下げられます。 
 20年以上前に結ばれたNAFTAによってそうした状況がいま米国で起きているために、米国労働者の怒りが、自由貿易主義を批判したトランプ氏を支持して当選させたと言われています。
 
 日本のマスメディアは、将来ともそうした労働力の移入による被害を受けにくいし、多くの国民と違って所得の低下も経験していないために、米国体制派や安倍政権の見解を流すことに抵抗がないのでしょうが、それではマスコミとして無責任過ぎます。
 政治・経済学者の植草一秀氏が、自由貿易主義の弊害について分かりやすく説明しているので紹介します。
 
 折しもトランプ氏の当選後初の記者会見が行われましたが、CIAのニセ情報を真に受けたメディアによって「ロシア寄りでは・・・」と総攻撃を受けたようです。トランプ氏がロシア側につくなどということはどう考えてもあり得ない話なのに、メディアが既にそこまで洗脳されている…乃至はそのフリをしている姿には、マッカーシズムが吹き荒れているという米国の病状を見せつけられる思いです。トランプ氏がロシアとの「和解」に進むことを阻止したい体制派の策動(ロシア=絶対悪 を国是にしたいのが米国の体制派)は成功するのでしょうか。
 日刊ゲンダイの記事も併せて紹介します。
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トランプ新大統領経済政策への冷静な評価
植草一秀の「知られざる真実」 2017年1月12日
保護主義が悪で自由貿易主義が善との決めつけは間違っている。
経済学者のリカードが明らかにしたように、それぞれの国が得意な生産物の生産に特化して余剰な財を交換し合うという意味での貿易は全体の効率を高める。
この意味での自由貿易にはメリットがある。自由貿易自体が否定される対象でもない。
 
しかし、近年問題とされている自由貿易主義、言い換えれば「新自由主義」と呼ばれるものは、上記の国家間の財の取引を行うという意味での自由貿易を超える含意を有している。
その最大の特徴は、資本の移動 と 労働力の移動 という分野を含めて、これを完全に自由にしてしまうとの意味を含んでいるからだ。
一言で表現するなら、世界統一市場、 世界単一市場 を形成してしまうということである。
このことがもたらす最大の弊害は、所得格差の際限のない拡大である。
 
「財」と「サービス」に分けて考察したとき、両者の最大の相違は、生産物の移動可能性である。
「サービス」は生産地と消費地が基本的には同一である。最終需要のある地でしか生産することができない。
医療行為の輸入 介護サービスの輸入はできない。
これに対して、「財」の特徴は、生産物を輸送できることである。生産地と消費地が一致する必要がない。
したがって、自由貿易の試みは、まず「財の生産活動」、すなわち製造業によって推進される
農林水産業においても、生産物の輸送が可能になれば、製造業と同様の変化が生じる。
「財」の生産を行う「資本」は世界の中から最適な立地を選ぶ。
最終的な消費地との距離 労働賃金の水準 労働の質 政治情勢の安定性 生産可能量
などを勘案して生産地を決める。
 
製造業の拠点が国境を越えて移動する場合、元の生産地では雇用が消滅する。
資本は労働コストの低さに着目して海外移転するから、元の相対的に高い賃金の労働が消滅することになる。
他方、「サービス」の生産では何が起こるのか。
「サービス」では必ず「消費地」が「生産地」になる。
「資本」は常に安価な労働力を求めるから、先進国における「サービス」生産を行うにあたり、できるだけ、賃金の低い国から労働者を輸入して生産に充てさせようとするだろう。
こうなると、先進国における「サービス」労働の賃金が下がる。
 
製造業で相対的に高い賃金を得ていた労働者は工場の海外移転で職を失い、新たに就業する「サービス業」での労働では、海外から輸入された労働力による賃金引き下げ効果の影響で、低い賃金の「サービス業」に従事しなければならなくなる。
1980年代以降の自由主義の急激な進展 すなわち、世界統一市場の形成、世界単一市場の出現によって、資本はリターンを高めたが、先進国の労働者は、ほぼ全面的な所得水準の低下という状況に直面しているのである。
 
「資本」の高いリターンを享受できるのは1%の人々に限られる。
99%の「労働」階層の人々は、ほぼ全面的な所得水準の急低下という現実に直面してきた。
こうした経済変動に対して、それぞれの国の国民、主権者、労働者から、NO の声が生まれるのは当然のことである。
 
英国のEU離脱国民投票での離脱派勝利。 米国の大統領選でのトランプ氏勝利 は、こうした世界経済の大きな変化を背景に生み出されたものである。
 
 続きは本日の    メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 第1639号「一概に否定できないトランプ新大統領米国重視主義」 でご購読下さい。
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トランプ初会見は“防戦一方” メディア総攻撃に苦しい弁明
日刊ゲンダイ 2017年1月12日
 米国のトランプ次期大統領の当選後初の会見。冒頭から「ロシアに弱みを握られている」という報道への弁明で始まり、記者との質疑応答もこのロシア問題に終始。ツイッターでの強気の暴言はどこへやらで、メディアの総攻撃にトランプは防戦一方だった。
 
 会見は予定の現地時間11日午前11時(日本時間12日午前1時)より13分遅れで始まった。米CNNと米ニュースサイト「バズフィード」が報道したロシアとの関係について、「ニセモノだ」「デタラメだ」と繰り返したが、この問題に対する記者の質問は止まらない。
 
 暴露された米情報機関の報告書には、ロシアがトランプの私生活に関する情報を得ていることに加えて、ロシアがトランプに有利な不動産取引を提案していたことなども書かれている。記者に「プーチンはあなたを助けるためにサイバー攻撃を行ったんじゃないか」と攻められ、「そんなことはない」「ロシアと取引は行っていない」などと釈明を繰り返した。最後は、「米国はサイバー攻撃に対する守りが弱い」として、「就任90日以内にサイバー攻撃に対する守りをどう固めるか報告する」と言って取り繕った。
 
 途中、CNNの記者が「私たちが攻撃されている。質問させてくれ」と手を挙げたが、トランプは「虚偽のニュースを流した。あなたの質問は受けない」と発言、言い合いになる場面も。都合が悪くなると言い訳したり逃げたりするのは、安倍首相ソックリか。
 
 日本政府や日本企業が気になる貿易や安全保障など政策の話については、メキシコからの輸入に高関税をかけるなど従来の主張の域を出ず、肩透かし。ただ、貿易不均衡の国々として名指ししたのは「中国」「日本」「メキシコ」。これにロシアを加えた4カ国は、「オバマ政権時代より米国に敬意を払うようになるだろう」と上から目線で、今後も日本がトランプの標的にされるのは間違いなさそうだ。