2016年12月30日金曜日

安倍政権はこの1年 無意味なドタバタの繰り返し(高野孟氏)

 安倍政権は、アベノミクスの破綻をTPP協定によって取り繕うとでもしたのか協定の成立に異様な執着を見せました。
 しかしそれはTPPの持つ恐ろしさを理解できないからこそできた話で何とも浅はかなことでした。それがトランプ次期大統領の反対で挫折したのは日本にとって僥倖でした。
 肝心の国民の実質所得は下がりっぱなしで、デフレ脱却どころの話ではありません。
 
 また安倍首相ほど、多額の国費を大盤振る舞いしながら外遊に明け暮れた首相もいませんでしたが、対米、対露を含めた対外政策のことごとくが失敗しました。外交面でも無残に破綻したわけです。
 
 そしてせめてこれだけは誠実に対応すべきである天皇の「生前退位問題」でも、見えてくるのは安倍首相の悪意だけで、本当に救いのない政権です。
 
 日刊ゲンダイに「永田町の裏を読む」を連載している高野孟氏が、安倍政権の今年を振り返りました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
      永田町の裏を読む  
意味のないドタバタの繰り返しだった安倍政権の2016年
高野孟 日刊ゲンダイ 2016年12月29日
 年の瀬に当たって、今年1年間に書きつづってきた約50回の本欄を見返してみると、安倍政治がほとんど意味のないドタバタの繰り返しで、結局、国民の幸せにつながるような目覚ましい成果を何ひとつ挙げていないことが改めて浮き彫りになって、暗然たる気分に陥る。
 
 今年最初の話題といえば、甘利明TPP担当相(当時)の収賄疑惑で、考えてみればこれがTPPのケチのつき始めだった。安倍晋三首相は甘利を守ることに精力を費やして、そのためTPP審議は滞り、米大統領予備選の動向からしても、それが「すでに風前の灯」(2月25日付本欄)であることは明らかだった。トランプ当選でまさにその通りになって、安倍は慌てて11月にトランプ詣でをしたものの、あっさり無視されて大恥をかいた(11月17日付)。TPPをアベノミクスの「成長戦略」の柱だと言ってきた安倍は、いよいよ行き詰まって、カジノ法案に飛び移り、これがTPPに代わる「成長戦略」の柱だと強弁する体たらくに陥った(12月8日付)。
 
 他方、折あらば自己都合による「解散・総選挙」を打って長期政権への基盤を固め直したいというのが、安倍の一貫した政局戦略で、5月の伊勢志摩サミットを利用して「世界経済危機」をあおり、あわよくば参院選に合わせてダブル選挙を断行しようと図ったがうまくいかず(6月2日付)、そこで年末にプーチン・ロシア大統領来日を設定して、北方領土問題で何らかの進展があれば、それを材料に年末年始の解散をもくろんだ。
 
 しかし、経済協力を前面に出してロシア側の軟化を誘うというこの外交方針設計はまるっきりの素人発想で、プーチンのような当代一流の戦略家に通用するはずがなかった(9月8日付、11月10日付)。予想通り、日ロ首脳会談は失敗に終わり、二階俊博幹事長さえ「国民はがっかりしている」と決めつけた(12月22日付)。
 
 さて、意外に大きなボディーブロー的なインパクトを政局に与えたのは、天皇の「退位」意向表明である(8月11日付)。国の姿形に関わるこの問題提起によって、秋の国会から憲法審査会での改憲論議を本格化させようとしていた安倍の思惑は吹き飛んだ。
 こうして、何もかもうまくいかなかったのが安倍にとっての16年である。「真珠湾訪問」で挽回というのもいかにも姑息で(12月15日付)、17年は安倍政権にとってつらい年になりそうである。 
 
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。