2016年11月10日木曜日

10- なぜ米国民はトランプ大統領を選んだか?

 「差別主義者」トランプ大統領誕生は、まさに米国民の本音を代弁  ・・・ B J
 誰がトランプ大統領を誕生させたのか?  ・・・  泉谷由梨子
 トランプの「本物感」とは何か?   ・・・ パトリック・ハーラン (芸人)
 
 以上3つの記事を紹介します。
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「差別主義者」トランプ大統領誕生は、まさに米国民の本音を代弁 
     トランプの演説が「正しい」からだ!
Business Journal / 2016年11月9日
 ドナルド・トランプ大統領の誕生だ。11月9日に行われたアメリカ大統領選挙において、共和党候補のトランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏に競り勝った。トランプ氏は「これからは団結するときだ。私はすべてのアメリカ国民のための大統領になる」と勝利宣言を行っている。
 紆余曲折はあったものの、世論調査では常にヒラリー氏の優勢が伝えられており、7日に公表されたロイター/イプソスの週間世論調査では、ヒラリー氏が勝利する確率は「約90%」とされていた。なぜ、ここまで世論調査と実際の投票結果に乖離が生じたのだろうか。
 
 経済評論家の渡邉哲也氏は、「トランプ氏の勝利はメディアの敗北であり、そもそも世論調査は信頼できるものではなかった」と語る。
「トランプ氏は過激発言などにより、『差別主義者』というレッテルを貼られていた。そのため、マスメディアの世論調査に対しては無難に『ヒラリー支持』と答え、実際はトランプに投票する人が多数存在すると見られていたのだ。
 これは、イギリスのEU離脱においても同じだ。世論調査では残留が確実視されていたが、実際は離脱を選択した人が多く、5~7ポイントの乖離が生じていた。いわゆる本音と建前である。
 
 その差を織り込んだとしてもヒラリー氏の優勢は変わらないとされていたが、トランプ氏が勝利したという事実はアメリカのメディアの崩壊を意味する。米大統領選では『選挙キャンペーン』の名の下に候補者や政党がメディアを買っており、『CNN』などの左派メディアは徹底的にトランプ叩きを行っていた。
 しかし、トランプ批判が逆にトランプ氏の露出度を上げて票を伸ばすことにつながった。ヒラリー氏にとっては自分のお金でトランプ氏を宣伝した挙げ句、勝たせてしまったわけだ。
 
 ほとんどのメディアはヒラリー支持の姿勢であり、一方インターネット上ではトランプ氏の人気が高かった。そのため、今回の選挙は『メディア対メディアを信頼しない大衆』という構図であったが、トランプ氏の勝利はメディアの機能不全をあらわにしたと同時に、既存のシステムが瓦解するという意味ではアメリカ社会に少なからず混乱をもたらすだろう。また、この動きは今後、世界のトレンドになると思われる」(渡邉氏)
 
●なぜ米国民はトランプ大統領を選んだか?
 また、渡邉氏はトランプ氏を次期大統領に選んだアメリカ国民について、「大衆の代弁者としてトランプ氏を選んだ。エリートの決める政治に『NO』を突きつけたといえる」と指摘する。
「トランプ氏の主張は『アメリカファースト』という明確なものだ。中高年には『古き良き、強いアメリカを取り戻す』と訴え、若者には『保護主義と不法労働者の追い出しによって雇用を拡大する』と語った。また、かねてイスラム教徒への不満がくすぶるアメリカ国民に対して『イスラム教徒を排斥する』と公約したことも大きい。
 トランプ氏の発言は、その是非と実現性を度外視すれば『選挙演説としては正しい』と考える。選挙は国民の意思を問うものであり、国民の意見の代表者が政治家であるからだ」(同)
 史上初となる政治経験ゼロの大統領を生み出したアメリカは、今後どんな道をたどるのだろうか。 (文=編集部)
 
 
誰がトランプ大統領を誕生させたのか? 
出口調査で男性・40歳以上が投票、有色人種の一部も
  泉谷由梨子 The Huffington Post  2016年11月09日
アメリカ大統領選挙の投開票が11月8日(現地)に行われ、共和党候補のドナルド・トランプ氏(70)が民主党のヒラリー・クリントン氏(69)を破り、当選確実となった。誰がトランプ氏に投票したのだろうか?
CNNの行った出口調査(回答者数2万4537人)によると、各候補に投票した有権者の層は大きく異なっている。
 
■男性はトランプ氏、女性はクリントン氏に投票
男女別ではどのように投票行動が分かれたのだろうか。
出口調査では、男性の53%がトランプ氏、41%がクリントン氏に投票したと回答した。一方で、女性は54%がクリントン氏に投票、42%がトランプ氏に投票したと回答し、男女で投票先が逆になっていた。なお、調査への回答者の割合は、男性が48%、女性は52%だった。
 
■40歳以上はトランプ氏、40歳未満はクリントン氏に投票
年齢階層別では、18〜24歳、25〜29歳、30〜39歳では、いずれも過半数がクリントン氏に投票したと回答した。一方で、40〜49歳の年齢階層では、50%がトランプ氏に投票。50〜64歳、65歳以上は過半数がトランプ氏に投票したと回答している。
 
■人種別では白人がトランプ氏に、それ以外はクリントン氏に
一方の人種別では、回答者の70%を占めマジョリティである白人の58%がトランプ氏に投票したと回答した。これに対して、黒人、イタリア系、アジア系、その他の人種のすべてでクリントン氏が過半数を獲得した。
しかし、白人以外の人種(イタリア系含む)のうち、21%がトランプ氏に投票したと回答している。CNNは、この点がクリントン氏の勝利を阻んだと分析している。
CNNの調査では、2012年にオバマ大統領が誕生した大統領選挙では、黒人の93%が彼に投票したと回答していた。一方で、今回の大統領選では、クリントン氏に投票したと回答した黒人は88%だった。
トランプ氏は、不法移民の強制送還やイスラム教徒の入国禁止など、白人以外の人種からは差別的と受け止められる政策を次々と提案し、反発も招いた。にも関わらず、出口調査の結果からは、クリントン氏が彼らの票を確実にまとめきれなかったことがわかる。
 
 
トランプの「本物感」とは何か?
パトリック・ハーラン ハフィントンポスト 2016年11月09日
「音楽は好き?」と聞かれて「ええ、No music, No life」と答えるのがヒラリーだとしたら、「音楽なんてクソくらえ!」と言うのが共和党のドナルド・トランプ。
 
トランプは「不動産王」の名を持つ実業家であり、超富裕層。45億ドル(約5000億円!)もの資産を持ち、世界長者番付の上位に入っています。今まで何度も「立候補する」と言っては取りやめ、満を持して2016年の大統領選に出馬しました。
 
日本でトランプ関連のニュースを見ていると、「なぜ、あんな人が支持されているんだろう?」と不思議になりませんか? 僕もその一人ですが、同時に、日本人には理解しづらい彼の強みもよくわかります。彼の政策(そんなものがあるとしたら)や発言内容そのものには何の価値もありません。でも、その「話術」を分析することは決してムダではないです。
 
まずは背景から。1980年以降、トランプは不動産王のほか、ご意見番のセレブやリアリティTVのタレント(リアリティだから本人のまま出るわけですが)として知名度を上げてきました。今回が初挑戦と思われていますが、実は1988年の大統領選に出馬しようかと迷ったこともあって、2000年には第三党の指名争いに少しだけ参加しました。
 
本格的な出馬となった今回は、立候補後すぐ「トランプスタイル」を確立します。アメリカで大事にされてきた「ポリティカル・コレクトネス(political correctness 政治的に中立で、差別を生まない表現や配慮のこと)」を足蹴にし、放言を繰り返す。差別、妄言、なんでもあり。そして、批判されても絶対に謝罪しない――。この姿勢が、正しく美しいことを言うだけで一向に生活をよくしてくれない政治家たちに怒っていた国民に、ズバリ刺さったんです(彼の支持者層は、低所得のブルーカラーと言われています)。
 
他にも、「政治献金をもらわない」と宣言したことも大きかった。これまでは「選挙はカネ次第」と言われ、超お金持ちから資金を集めなければ当選は難しい――いや、選挙戦をまっとうすることすら難しいものでした。たとえば、ヒラリー・クリントンは関連の政治活動委員会の出費を含めると、16年5月までに3億ドル以上もの大金を選挙にかけているといいます。
 
もちろん献金してくれた個人や企業はヒラリーが当選した場合、彼女の政策でそれなりに得する見込み。はっきりした「見返り」がなくても政治家にドナーの顔色を窺わせる「影響力」はあるでしょう。
 
でも、トランプには莫大な財産があるから、自分の資産でまかなえる。政治献金は不要です。加えて「政治家はお金で買えるもの。オレも何人も買っている。だが、オレは買えない」という主張ができます。実際に共和党のディベートでこのような発言をしたところ、ライバルの候補は誰も否定できませんでした。みんなトランプからお金をもらったことがあったから。
 
唯一もらっていなかったのはジョン・ケーシック候補ですが、彼はそこで何と言ったと思います? 「僕にも下さい」だって! こんな環境で政治献金を受け付けない候補の魅力、わからなくはないですよね。
 
では、候補者はお金を集めて何をするか? 用途は多岐にわたりますが、大きな割合を占めるのが広報宣伝費。候補者は自身のCMを打ち、マスメディアを使い、宣伝活動にかなりの力を入れます。まずはメディアを通して有権者との接触を増やさなくては、存在感を示すことができないからです。
 
でもトランプの場合、実際に広報宣伝にお金を使う必要があまりなかった。というのは過激な発言をすれば、勝手にメディアが取り上げてくれたから。失言と暴言を口にするたび、どのチャンネルのニュースにしてもトランプが映っている! その露出を広報費として換算すると20億ドル以上になるという試算もあります。しかも、トランプがニュースになるということはその分、他の候補者が取り上げられる時間が奪われてしまうということになる。トランプからしたら、一粒で二度おいしいわけです。
 
トランプは、たくさんの矛盾を抱えている人でもあります。移民に反対していますが、お母さんは移民。お父さんの方のおじいちゃんも移民。過去3回結婚した奥さんは、3人中2人が移民。成功者として名を上げ、自分のことを「最高のビジネスマン」と連呼していますが、4回も会社を破産させている
でも、どれだけ整合性のない言動をしても、パフォーマンスでごまかしてしまう。トランプは、政策や組織力ではなく話術で大統領選を戦ったのは間違いありません。