2016年10月4日火曜日

介護給付の縮減は却って事態を悪化させる

 12年末に政権復帰した安倍政権は、特別養護老人ホームの入所条件を「要介護3以上」に原則化し、過去最大規模の介護報酬の引き下げも行いました。
 それに加えて2018年度には、要介護1、同2の人へのホームヘルパーによる掃除、調理、買い物などの生活援助やデイサービスを保険給付の対象外にすることや、要介護2以下の人が使う車いすや手すりなどの福祉用具貸与を全額自己負担にすることが検討されています。
 対象となる「要介護2以下」は要支援・要介護認定者たちの65%超を占めています。
 
 厚労省はそうした生活援助を保険から外す口実に、「知識、技術をそれほど有しない者でもできる」からといいますが、今日各家庭にはそんな人手はないのが実態で、「初期段階における専門性の高い生活援助サービスの提供こそ」が、利用者の気力を回復させ、体の状態の維持・改善、悪化の防止にもつながるのであって、比較的わずかな支援で、「高齢者が自分らしく暮らす期間を長くすることができる」機会を奪うことになります。
 現段階で全国167の地方議会で、この政府の方針に対して「介護の重度化を招く」「それによって逆に保険給付の増大を招き、介護人材の不足に拍車をかける」などと反対を表明する意見書が可決されているということです。
 政府は目先の利を追うばかりで、却って事態を重篤化させて結局政府支出を増やす愚を犯すことになります。
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(主張)介護給付の縮減 現場からの批判に耳を傾けよ
しんぶん赤旗 2016年10月3日
 安倍晋三政権が進める介護保険改悪で、「軽度者」への生活援助や福祉用具貸与などの公的サービス利用の縮減や負担増を迫る動きに対して、介護現場で働く人たちから異論と批判が相次いでいます。
 政府が狙う改悪が実行されれば、必要な介護サービスから高齢者が締め出され、重症化が進行しかねないという危機感の表明です。介護する家族など担い手の負担がさらに重くなることに懸念と不安も広がります。安倍政権は、介護を専門的に担う最前線からの訴えをどう受け止めるのか。国民の声を無視した改悪は許されません。
 
専門性高い支援こそ必要
 安倍政権は2018年度の介護保険制度の大幅な改変に向け、今年末までに結論を出すため、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会での議論を加速しています。
 大きな焦点の一つになっているのが、「軽度者」が利用する介護サービスを保険給付の対象から除外する問題です。要介護1、同2の人のホームヘルパーによる掃除、調理、買い物などの生活援助やデイサービスを保険給付の対象外にすることや、要介護2以下が使う車いすや手すりなどの福祉用具貸与を全額自己負担にすることが主な検討項目にされています。要介護2以下は要支援・要介護認定を受けた人たちの65%超です。これほどの人が保険給付をまともに受けられなくなることは深刻です。
 
 厚労省は生活援助を保険から外す口実に「知識、技術をそれほど有しない者でもできる」などといいますが、介護の実態とかけ離れた議論です。いち早く批判の声を上げた日本ホームヘルパー協会は「初期段階における専門性の高い生活援助サービスの提供こそ」が重要と強調します。利用者の気力の衰えの回復や交流不足を補い、体の状態の維持・改善、悪化の防止にもつながり「わずかな支援で、高齢者が自分らしく暮らす期間を長くすることができる」からです。
 「軽度者」の生活支援を保険給付から外し、専門的支援を受けることを困難にするやり方に道理はありません。専門職からの警告を正面から受け止めるべきです。
 福祉用具貸与の全額自己負担についても約22万人分の反対署名が厚労省に届けられました。運動を担う「福祉用具国民会議」は、福祉用具は、高齢者らが「普通の暮らし」を営むための必要不可欠な社会資源と訴え、福祉用具の利用制限につながる改悪を批判しています。167の地方議会でも、福祉用具貸与のサービス縮小と負担増に対し「介護の重度化を招く」「かえって保険給付の増大を招き、介護人材の不足に拍車をかける」などと反対・異論を表明する意見書が可決されています。民意に逆らう改悪議論は中止すべきです。
 
安心の仕組みへ共同広げ
 12年末に政権復帰した安倍政権の介護保険改悪は、歴代政権の中で突出しています。特別養護老人ホームの入所条件を要介護3以上に原則化したことは、“介護難民”を増大させています。すでに実施されている要支援の生活援助などの保険外しは、在宅の利用者と家族に負担を強いています。過去最大規模の介護報酬引き下げは事業者に経営困難を強いています。
 制度自体を危うくする安倍政権の介護破壊を許さず、安心の仕組みへの転換へ、幅広い共同のたたかいを広げることが急務です。
 
 
安倍政権が狙う福祉用具自己負担 反対の声 次々
意見書 24都道府県含む167議会
しんぶん赤旗 2016年10月3日
 安倍晋三内閣が、要支援1、2と要介護1、2の人が受けている介護ベッドや車いすなどの福祉用具レンタルを、「原則自己負担」にしようとしていることに、利用者や事業者から次々と反対の声が上がっています。
 福祉用具レンタルの自己負担化に反対する署名は約22万人にのぼり、24都道府県議会と143市町村議会で反対の意見書が採択され、引き続き広がっています。
 
 署名は、利用者や事業者らでつくる「福祉用具国民会議」が呼びかけたもの。福祉用具を使うことで「生活の幅が広がり、社会参加も可能になっている」と強調し、安倍首相が掲げる「介護離職ゼロの実現」にも貢献できるとして、すべて保険給付でサービスが受けられる現行制度の維持を求めています。
 地方議会の意見書も「重度化を防ぎ(中略)社会生活の維持につながっている」(京都府議会)と指摘。保険給付を外すと「かえって保険給付の増大を招き、介護人材の不足に拍車をかける」(岐阜県議会)と強調しています。
 安倍内閣は、自宅に手すりをつけるなどの住宅改修についても自己負担化を狙っており、「自立支援に逆行する」と批判が高まっています。
 
生活援助カットにも
 訪問・通所介護を要支援1、2の保険給付から外したのに続いて、要介護1、2の人が受ける生活援助を保険給付から外すことについても反対の声が広がっています。
 
 東京都内では、日本ホームヘルパー協会東京支部などの介護保険事業者や利用者団体など19団体が9月、要介護1、2の保険給付削減・負担拡大などに反対する要望書を政府に提出しました。
 介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成する介護支援計画(ケアプラン)の有料化についても、日本介護支援専門員協会が取り組む反対署名が22万人分寄せられています。
 
福祉用具 保険給付制度維持を
 介護保険法では、福祉用具を「要介護者等の日常生活の自立を助けるためのもの」だとして、車いす、介護ベッド、歩行器など13品目の貸与・購入費用を保険から給付しています。
 政府は2006年4月の制度改悪で、要介護1と要支援1、2の人への車いすや介護ベッドの給付を制限しました。今回の見直しは、要支援から要介護2までの給付を「原則自己負担」(一部補助)とするもの。福祉用具国民会議は、「福祉用具レンタル利用者の40%から50%が利用できなくなる」と指摘しています。「自立支援」という制度の理念を踏みにじるものです。
 
 福祉用具国民会議は、6月には東京都内で公開討論会を開き、軽度者への給付抑制に反対し、制度維持を求める署名を呼び掛けてきました。
 運営委員を務める長谷川俊和さん(福祉用具会社)は「軽度者と言われる方々は不安定で一番状態が変わりやすい方々です。自立した生活を支える福祉用具を取り上げてしまうのは大問題」だと指摘。「介護ベッドを使っているから起き上がりトイレまで行くことができる人が、もし借りられなくなって布団の生活になれば、寝たきりになるなどもっと悪くなる可能性も十分想定できます」と話します。
 
 日本福祉用具供給協会が利用者から聞き取った調査では、自己負担になれば、福祉用具の種類により約3割が代替としてへルパーを利用すると回答。散歩などの外出では「あきらめる」との回答が7割を超えるものもあり、介護・医療費の増大と介護人材不足に拍車をかけると指摘しています。
 自己負担となれば、身体の状態が変化したり機器に不具合が出た場合、交換や整備などに柔軟に対応できなくなることも指摘されています。「例えばつえの先のゴムも業者が交換やメンテナンスをします。一度買ってしまうとなかなかメンテナンスがされず、使いづらいものを使うと症状が悪化することもある。レンタルというシステムであれば維持できます」(長谷川さん)
 
 福祉用具の利用は家族や介護者側の負担軽減にもつながっています
 医療・介護ベッド安全普及協議会の介護労働者への聞き取り調査(3月公表)では「介護ベッドなどがあれば、身体的な負担だけでなく、精神的なストレスの軽減になる」との実態が報告されています。
 長谷川さんは、「福祉用具は介護士や家族の負担軽減にとっても、福祉用具の必要性は今後も高いと思います。現行の制度を維持してほしい」と訴えています。(北野ひろみ)