2016年10月10日月曜日

シリアにおける米露の対立が先鋭化

 シリアの政府軍反体制派の内戦は米露の和平協定により9月12日から「停戦」に入りました。その間に政府軍は道路を開放し、反体制派は武装を補充し絶対的な劣勢を盛り返しました。そして米側は19日に、ロシア側の停戦協定違反を理由に停戦の終了を宣告しました。
 結局、停戦は反体制派に息を吹き返す結果をもたらしただけでした。そうなることは当初から分かっていたのに、なぜロシアはそれを受け入れたのか不思議な話です。
 
 このところシリアにおける米露の対立は先鋭化の度を深めつつあります。
 ワシントンポストが5日、米政府はシリアのアサド政権への軍事攻撃を検討している旨を報じたのに応じて、ロシア国防省は6日、シリアに配備されている防空システムを作動させると発表しました。
 
 アメリカによるアサド政権に対するプロパガンダは2012年以前から始まっていて、それらはその都度アメリカの謀略であることが明らかにされてきました。最近、アレッポからアメリカへ帰ったジャーナリストも西側で語られているシリア政府を悪玉にする話嘘だと報告しているということです。 
 櫻井ジャーナルの記事を紹介します。
 アレッポ シリアの北部トルコ国境近くに位置する古代都市。
アメリカが率いる有志連合の司令部がある。         
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米政府がシリア政府や露軍を攻撃すると判断、
露政府はこれまで眠らせていた防空システムを使用へ    
櫻井ジャーナル 2016年10月9日
 10月4日付けのワシントン・ポスト紙は、5日にアメリカ政府はシリアのバシャール・アル・アサド政権に対する軍事攻撃を検討する報じた。バラク・オバマ政権はロシア政府に対して軍事行動の可能性を通告、その反応を見ようとしたのだろう。
 それに対し、ロシア国防省はアメリカ側のリークを重く受け取り、シリアに配備されている防空システムのS-300やS-400は侵入してきた航空機やミサイルを撃墜すると6日に発表している。ロシア海軍の基地があるタルタスへS-300を移動させたともいう。
 
 アメリカ軍が主導する連合軍は9月17日、シリア北東部の都市デリゾールでダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)に対する大規模な攻勢の準備をしていたシリア政府軍をF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機で空爆、80名とも言われる兵士を殺し、多くを負傷させた。
 アメリカ側はミスだと強弁しているが、現在の戦闘システムや現場の状況から考えて計画的な攻撃だった可能性はきわめて高い。今後もシリア政府の承認を受けずに軍事作戦をシリア領内で展開している、つまり侵略している連合軍がシリア政府軍を攻撃することは十分にありえる。S-300やS-400を使うと宣言された中、パイロットが乗った戦闘機や爆撃機が侵入してくる可能性は小さいが、巡航ミサイルによる攻撃はあると見られている。
 これまでもS-300やS-400は配備されていたのだが、使用されていない。9月17日もそうだが、イスラエル軍はシリアに対する空爆を繰り返しているわけで、使う局面はあったはず。当然、シリアやイラン側には不満があっただろう。
 
 ジョン・マケイン上院議員のようなネオコン/シオニストはリビアの時と同じように飛行禁止空域を設定して地上の手先の武装集団(アル・カイダ系にしろ、そこから派生したグループにしろ、タグを付け替えただけで基本的には同じ傭兵集団)を守り、アメリカ主導の連合軍がシリア政府軍を攻撃するという戦術を繰り返そうとしている。
 それに対し、好戦派のジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長でさえ、ロシアやシリアと戦争になると警告しているが、ワシントン・ポスト紙のリーク記事を見ると、ネオコンはリビアの制限に執着しているようだ。
 
 2013年には3月と8月に化学兵器が使われたと見られる攻撃があり、それをシリア政府軍の責任にしてアメリカ政府は軍事侵略を狙った。いずれもアメリカ側の主張は嘘で、自分たちが手先として使っている武装勢力が使った可能性が高いことが判明している。(これは本ブログで何度も指摘しているので、今回は詳細を割愛する。)
 アメリカ側の主張が嘘だということは判明しつつある中、9月3日に地中海からシリアへ向かって2発のミサイルが発射されている。このミサイル発射はロシアの早期警戒システムがすぐに探知、明らかにされるが、ミサイルは途中で海へ落下してしまった。イスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だと発表しているが、事前に警告はなく、攻撃を始めたとも見られている。ミサイルはジャミング電波妨害)など何らかの手段で落とされたのではないかと推測する人もいる。
 
 この当時、アメリカの国防長官はチャック・ヘーゲル、統合参謀本部議長はマーティン・デンプシー。ふたりともアル・カイダ系武装集団やダーイッシュを危険だと考え、シリアへの軍事侵略には消極的だった。それに対し、今はアシュトン・カーターとジョセフ・ダンフォードで、いずれも好戦派だ。
 その前年、2012年にはシリア政府軍がホムスでの住民を虐殺したと西側の政府やメディアは宣伝、軍事侵略の口実にしようとしていたが、これも嘘がばれてしまう。当時、現地を調査した東方カトリックの修道院長はそうした宣伝を否定、住民を殺したのは反政府軍のサラフ主義者や外国人傭兵だと報告している。
 
 そして、その修道院長は「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている。」と書いた。また、現地で宗教活動を続けてきたキリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判している。
 最近、アレッポからアメリカへ帰ったジャーナリストも西側で語られているシリア政府を悪玉にする話が嘘だと報告している。