2016年10月1日土曜日

失敗した政策 アベノミクスを加速させる空疎さ(高橋乗宣氏)

 マスメディアがアベノミクスの破綻を明言しなくなった中で、エコノミストの高橋乗宣氏が「もはや失敗した政策 アベノミクスを加速させる空疎さ」と題した記事を発表しました。
 以下に紹介します。
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            ( 日本経済一歩先の真相  
もはや失敗した政策 アベノミクスを「加速させる」空疎さ
日刊ゲンダイ 2016年9月30日
 安倍首相は「アベノミクス加速国会」と位置づけているそうだ。26日に召集された秋の臨時国会。所信表明演説で、首相は「アベノミクスを一層加速し、デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げてまいります」と言い切ったが、一体、アベノミクスの何を加速させるというのか
 
 実質2%の成長目標を掲げたものの、四半期ごとのGDPはプラスとマイナスを行ったり来たり。プラス幅も常に1%未満にとどまっている。昨年の今ごろ、安倍首相は「2020年ごろにはGDP600兆円を実現させる」と豪語したが、実質ゼロ成長続きでどうやって達成させる気なのか。
「GDP600兆円は冗談でした」と言うのなら、また別の問題になるが、本気で言ったのなら、その道筋をハッキリさせるべきだ。
 
 マイナス金利という前例のない政策に踏み切っても、2%の物価上昇率目標には、まだまだ届かない。自身が掲げた目標と実態の乖離を、安倍首相はどう考えているのだろう。いつだって掛け声だけは勇ましいが、常に実績が伴わない
 結局、アベノミクスが失敗したからこそ、消費税の引き上げは再延期を余儀なくされ、財政再建の道が遠のいた。それなのに、事業規模28兆円超の経済対策は低所得者への給付金などバラマキ策のオンパレード。財政規律など二の次、三の次だ。
 
「1億総活躍の『未来』を見据え、子育て支援、介護の拡充を進めます」という意気込みだけは買う。ただし、人手不足が慢性化する業界では、時給雇用の人々が次々と外国人に取って代わられるような状況下で、「1億総活躍」とは何を意味する言葉なのか。さっぱり分からなくなる。
 
 もはや加速させようのないアベノミクスを「加速させる」とぶち上げた安倍首相の演説内容は実に空疎だ。
 それでも安倍政権は高支持率を維持し、特に10代、20代の男性に限ると、支持率は7割を超えるそうだ。若い彼らは雇用そのものや、同一労働同一賃金を求めている。それを「実現させる」と宣言する政権に支持が集まるのはムリもないが、実現に向けたプロセスは全く見えてこない。中高年層はそのことに不安と不信を募らせている。成果は乏しくとも、弱者受けする政策を掲げ続ければ、支持率は高まる。単なる人気取り策に走っているようにしか見えないのだ。
 
 それにしても、所信表明演説中の自民党議員によるスタンディングオベーションにはア然だ。異様な総立ち拍手は、安倍首相の自衛隊員賛美の時に沸き起こった。今の政権や与党にとって優先すべきは経済より安保・防衛なのだろう。軍国主義化への入り口が開いた瞬間を垣間見た思いがする。 
 
 高橋乗宣エコノミスト
   1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。