2016年10月31日月曜日

31- 脱原発と反TPPが知事選解快勝の要因

 新大農学部の教員が、新潟県知事選において米山候補が快勝したのは、脱原発とTPPへの姿勢における森候補との違いによっているとする総括文を農業協同組合新聞に寄稿しました。
 特に同氏がTPPから新潟の農業を守るとした訴えが、農村部で支持を集めたとしています。脱原発の効果が強調されている中で一石を投じるものとなっています。
 
 新潟市や上越市などを一概に都市部と分類して都市部と農村部の対比で評価するのは正しくなく、両市でもいわゆる市街地はごく一部に過ぎず、周辺部の広大な農村地帯まれているし、それ以外の市町村基本的に農業地帯であるとしています。
 そういう中での米山氏の勝利は、農村部が地域の有力者が動かせる組織票であると見るのはいまや正しくないことを示したと述べています。
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脱原発と「TPP」が快勝要因-新潟県知事選を振り返る(上)
 伊藤亮司 農業協同組合新聞 2016年10月29日
新潟大学農学部助教              
 10月16日に投開票が行われた新潟県知事選挙は、告示日6日前に立候補を表明した米山隆一氏が、大方の予想に反して自公推薦候補を6万票以上引き離して快勝した。都市部で票を獲得したと言われているが、詳細に分析すると「TPPから新潟の農業を守る」と明確な訴えが農村部でも支持を集めた。新潟大学の伊藤亮司助教は「農家ひとりひとりの心情」が大方の予想を裏切って地方を変えようとしていると分析する。
 
◆「即席の」米山候補がふたを開ければ...
 与野党対決(森民夫=自・公VS米山隆一=共・社・生等+市民)となった今回の新潟県知事選。当初、盤石とみられていた森民夫氏に対し、告示日6日前に、ようやく出馬表明した「即席」候補であった米山隆一氏のたたかいは、ふたを開けてみれば森氏の46.5万票(得票率46%)に対し、米山氏が52.8万票(得票率52%)と一定の票差をもって勝利した。
 前回参議院選挙における中原八一(与党)と森ゆう子(野党+市民)の対決では、わずか2000票差でギリギリ勝利を掴んだ「野党共闘」は、その意味では前進した訳である。選挙期間中「福島の検証なくして再稼働はありえない」を持論とした泉田前知事の継承を強調した米山氏と、「(原発については)県民の安全を最優先にする」としつつも、自・公を含めた原発再稼働派に担がれた森氏の差がはっきり出た結果でもある。
 この間、中越地震、中越沖地震を経験してきた県民にとっては、原発災害はリアルで身近な生活問題であり、選挙戦前の県内世論調査で60%以上が柏崎刈羽原発の再稼働に反対・慎重であった県民意識が素直に出たものと思われる。
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 ただし、ここまでの軌跡は、まさに紆余曲折。戦後処理を含めて今後の県政の安定化が次の課題になるのは間違いない。事の始まりは、3期連続知事をつとめ、続投を公言していた泉田前知事の8月末における突然の「敵前逃亡」である。森氏は、自・公与党からの推薦に加え、県都新潟市の篠田市長率いる市長会の支援、さらには、当初候補擁立を図った民進党がその実現を諦めるなかで「自主投票」となり、それを受けて、電力総労を傘下のひとつとする連合新潟が森氏支持に回った。一時は、ライバル不在の独りレースになりかけた森氏の圧勝を誰もが疑わなかったのではないか。
 
 そこに急転直下、民進党をさっさと離党してきた米山氏を「市民」および5党(共産・自由・社民・新社会・緑)が迎え「対立候補」づくりが一気に実現する。市民側の受け皿組織として個人が集う「新潟に新しいリーダーを誕生させる会」が結成され、磯貝潤子氏(3.11原発災害により福島県から避難・安保関連法に反対するママの会@新潟)など4名が共同代表となり、米山氏と政策協定を結んた。それに各党や団体を加えた連絡協議会が共闘組織として選挙運動の実行部隊となり、いわば政党は一歩下がる間接的な関係のもとで「市民」が前に出る方式が採用された。
 
脱原発と「TPP」が快勝要因-新潟県知事選を振り返る(下)
 伊藤亮司 農業協同組合新聞 2016年10月30日
新潟大学農学部助教              
◆市町村別選挙結果の概要とその特徴
 8区に分かれた新潟市および他市町村の合計37地区における得票結果を見ると、勝利した米山氏は、そのうち23地区において森氏を上回る得票数を獲得。逆に森氏は14地区で米山氏を上回った。
 森氏が上回ったのは、長岡市・柏崎市・村上市・糸魚川市・妙高市・佐渡市・胎内市・聖篭町・阿賀町・出雲崎町・津南町・刈羽村・関川村・粟島浦村。長岡市は森氏の出身地であり、柏崎市・刈羽村はいわずと知れた原発立地市町村である。それ以外には、島しょ部や県境地帯などいわゆる僻地が多くを占める。
 その逆が、米山氏が上回った地域であり、県中央部の比較的人口の多い地域のうち原発立地や長岡市を除くエリアが該当する。そこからは米山氏陣営の「即席」体制により周辺部への浸透が遅れたことが想像される。実際、限られた時間のなかで大票田の新潟市8地区や上越市など都市部での運動が優先されたようで、その意味では都市部の有権者の意向が強く出た選挙結果といえる。
 
 村上市や糸魚川市など県境地帯は同時に、原発からの遠隔地でもあり、原発問題への相対的関心の薄さ、逆に県中央部における原発への抵抗感が根強く存在したことも想像に難くない。ただし新潟市8地区や上越市にしたところで、市内における市街地はごく一部に過ぎず、周辺部の広大な農村地帯を含み、それ以外の市町村は基本的に農業地帯である。投票率が違うため単純比較はできないが、参院選における野党共闘候補(森ゆう子)の得票率と比較しても28/37地区において米山氏の得票率が高くなっており、支持の拡がりは農村部を含む全県的なものである。
 その意味では、単なる都市住民だけではない幅広い県民が原発問題を中心に、政権与党の進める方向に待ったをかけたともいえよう。
 
 TPPについては「TPPから新潟の農業・コメを守る」とした米山氏に対し、森氏はTPPには直接触れず「安定した農業経営ができる条件を整備し「強い農業」を取り戻す」としていた。県の農協農政連は森氏の支援に回ったが、前回参院選に続く2連敗、さらには、単協レベルで支援したのは実質約半分といわれ、単協段階における「自主投票」が広がったのも特徴である。「組織票」が森氏に流れなかったという点では、米山氏の当選にボディーブローのような効果を与えたのではないか。
 いずれにせよ、良くも悪くも「上意下達」式の農民票を与党に丸投げして存在感を出すことで政策的優遇を引き出すという戦術はもはや成立しないことが明白となった。利益誘導と組織票に頼るのではなく、農家ひとりひとりの心情に寄り添う正面からの政治運動の必要性と可能性を感じた選挙結果だった。