2016年10月18日火曜日

18- 豊洲新市場の使い勝手の悪さも致命的

 日刊ゲンダイが建築エコノミストの森山高至氏のインタビュー記事を載せました。
 森山氏は、築地市場の豊洲移転問題に関するエキスパートで、小池都知事が立ち上げた「市場問題プロジェクトチーム(PT)」の専門委員にも選ばれています。
 
 同氏は、6月の時点で豊洲新市場の配置や構造上の不適格性を細部にわたって明らかにするブログを発表しています(1回目6月29日~最終15回目8月12日)。
 それを読むと旧築地市場が如何に合理的な配置・サイズになっているかが良く分かるとともに、豊洲新市場が如何にお粗末で機能不全になるように出来ているのかが良くわかります。
 
 インタビュー記事のタイトルに「・・・使い手無視・・・」とあるので、その辺が語られているのかと思いましたが、同紙のインタビューは森山氏のブログを読んでいることを前提にしているようで、使い勝手の悪さについては具体的には語られていません。
 
 下に列挙した同氏のブログには、現行の築地市場の合理性を極めた配置図と、豊洲の新市場の配置図が繰り返し対照的に掲載されています。築地の市場は平場であるのに対して豊洲は4階建て構造・・・という違いは勿論ありますが、より根本的には豊洲の設計者が市場の、特に荷動きのことをよく知らないで設計したのではないかという疑念です。
 
 盛り土の問題や、今回記載されているピロティ構造の問題も勿論大変重要ですが、それらがもしも解決できたとしても、配置の問題やサイズの不充分さの問題(荷動きの所要時間に直結する)は解決できません。「移転は不可能」と言われる所以です。
 それに業者の入居費が築地の数倍になるという問題も決して無視でません。
 
建築エコノミスト 森山のブログ  築地市場の豊洲移転が不可能な理由①~⑮ 
 
 
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      (注目の人 直撃インタビュー  
森山高至氏 使い手無視の豊洲は「単なる冷蔵倉庫の巨大版」
日刊ゲンダイ 2016年10月17日
 取材中も携帯電話がひっきりなしに鳴っていた。豊洲市場の“消えた盛り土”問題が発覚して以降、テレビで見ない日はない。超がつく売れっ子コメンテーターは、小池都知事が立ち上げた「市場問題プロジェクトチーム(PT)」の専門委員にも選ばれた、建築エコノミストの森山高至氏。今や伏魔殿を象徴する難問にどう切り込むつもりなのか。思う存分、語ってもらった。
 
■盛り土並みに大事な耐震性
 
――市場問題PTでは、どんな役割を期待されているのですか。
  オープンな議論を推進する上で、情報発信力を期待されて呼ばれたのだと思います。議論が専門的すぎて分かりにくくなっても、お茶の間に理解できるように解説する。小島座長(敏郎・青学大教授)は情報発信は慎重に、のご意向ですが。
 
――盛り土問題の犯人捜しに注目が集まっていますが、PTでは扱わない方針なんですね。
  土壌問題は再招集される「専門家会議」に任せます。PTで早急に検証すべきは建物の安全性です。すでに構造計算書と実態に食い違いがありますからね。
 
――建物自体の強度に不安があれば、移転どころじゃなくなります。「食い違い」とは、水産仲卸売場棟4階の床に敷かれているコンクリートの厚さが実際は「150ミリ」なのに、構造計算書では「10ミリ」になっていた問題ですね。床の広さを考えると、実際の建物には推計1300トン超のコンクリが加重されています。
  構造計算書の耐震強度が実際にはクリアしていない恐れがある。構造計算は2005年の耐震偽装事件以降、「ピアチェック」と呼ばれる第三者機関による二重検査が義務づけられました。豊洲市場は都自身と公益財団法人「防災・建築まちづくりセンター」の2カ所でチェックしましたが、両方とも「10ミリ・150ミリ問題」を見逃したのです。
 
 ――そんなことが起こり得るのですか。
  チェックしていない証拠でしょう。以前は豊洲市場のように自治体が建築主の場合、建築確認は「計画通知」だけで済んだ。単なる「通知」だから審査はありませんでした。耐震偽装後は計画通知もピアチェックを受けることになったのに、今回の二重の見落としは都の審査体制そのものに疑義が生じます。
 
――地下も相当、特殊な構造のようですね。
  そうです。構造計算上は「地上4階建て」と設定し、地下を無視していますが、実態は1階部分が地下にズドンと落ち込んだ「5階建て」相当と見るのが妥当ではないか。しかも、地下の空間は土留め用の「擁壁」で囲っているだけ。しっかりと耐力壁で覆われた「地下室」とはいえません。地震が起きたら、土砂崩れが生じる恐れもあります(別図)。
 
――建物が高下駄を履いて、宙に浮いているようにも見えます。
 事実上は1階の柱だけを残し、駐車場などに利用する「ピロティ式」の建物と同じ状態です。熊本地震でもピロティ式の建物の柱が折れ、1階がつぶれる被害が相次ぎました。構造問題は真っ先に検証すべきです。
 
――PTは、5884億円まで膨らんだ総事業費の総点検も俎上に載せています。
  特に建設費は11年2月の990億円から15年3月には2747億円と、3倍近くに膨らんでいます。建物の数や面積が増えたわけでもない。人件費や資材費が高騰したといっても、この間の上昇率はたかだか2割。3倍増の理由が分からない
 
――坪単価220万円もの建設費を投じた割に、高額資材を使っているようには見えません。
  安い資材ばかりですよ。屋根や外壁のパネル材もせいぜい商業モールに使うレベル。装飾の必要もないし。商業モールとの違いは、建物内を10度に保冷する触れ込みだった空調プラントくらい。それも運用上は10度まで下げられないと早くも音を上げている。空調プラントも建設費3倍増の理由にはなりません。
 
――誰も建設費の膨張に異論を挟まず右から左にスルーした印象です。
  豊洲市場の設計を受注した日建設計は工事監理も請け負っています。その責任は重大です。工事監理は、建設会社が費用の上振れを要求しても、その妥当性をチェックする権限がある。これだけ予算が増えるまで、建設会社側とどんな交渉を行ってきたのか。PTで今後、日建設計から議事録を取り寄せ、公開の場で検証する必要があります。 
 
「ケーキ屋を知るには食べまくれ」の教え
 
――ブログでは「間口が狭すぎてマグロが切れない」「荷重に耐えきれず、生け魚を入れる水槽が置けない」「スロープを曲がり切れず、ターレーが大渋滞する」などと使い勝手の悪さを書きまくっていますよね。
  僕の建築家としてのルーツがそうさせるのかも知れません。大卒後に師事をした建築家の先生がとにかく職人気質で何でも極めたがる人でね。病院でも商業施設でも依頼を受けたら、まず現場に行く。働いている人の話を聞くだけじゃなく、実際に仕事を体験する。僕が初仕事としてケーキ屋のデザインを命じられた時も、設計うんぬんの前に「まずケーキ屋を知れ!」と。「ケーキ屋を知るにはケーキを食べまくれ」と言うような人でしたからね。
 
――変わってますね。
  それでケーキ屋巡りを続けていると、一流店のパティシエが「厨房を見ていけ」と実寸を測らせてくれたり、作業工程を教えてくれたこともありました。あの感激は今も忘れません。そのうち、ケーキの存在価値や作り手の思いも自分なりに理解できるようになった。ケーキは一瞬で消える贅沢品だから、それを買う場所も食べる場所も華やいだ気分を演出しなければならない。そのため、パティシエは常に汚れのない白衣に身を包んでいるのです。もちろん、ケーキ屋に限らず、建物の使い手を理解しようとすれば、おのずと使い勝手を考えて図面を引くようになるはずなんです
 
――その心がけが豊洲市場のプランニングには一切感じられない、と。
  全然、感じられません。築地で働く業者さんの意見は反映されず、魚河岸の伝統や文化を理解しようともしない。むしろ、都側は築地と違うモノを造ろうとしたのです。食品衛生管理の国際基準「HACCP」対応や、産地から消費者まで冷温管理を途切れさせない「コールドチェーン」など、机上の制度の話だけを優先させ、単なる冷蔵倉庫の巨大版を造ってしまったのです。
 
■築地あっての銀座の格式
 
――築地市場が失われることで、この国は何を失うことになりますか。
  日本の魚食の文化が消えます。築地にかろうじて残っている魚食のニッチな知識と技術が消える。技術やネタなど何らかに特化した仲卸の店ほど、維持コストが増える豊洲市場では採算が合わなくなってしまう。淘汰される宿命です。
 
――築地の仲卸には天ぷらタネ専門やえび専門など、さまざまなジャンルの“目利き”がいますね。
  世の中、「回転ずしを食べていればいい」って人だけなら別に問題ないんですよ。超絶なネタを提供するため、1日5組しか客を取らないような寿司屋さんは、その営業方針に見合う素材の目利きとセットで成り立っている。目利きを失えば高級店や老舗から格式が奪われてしまう。だから銀座の食文化も築地あってのものだし、赤坂や新橋も同じです。
 
――築地が消えると、世界に誇る日本食の魅力が失われるのですね。
  分かるやつには分かる品を譲ってやろうという人と人の結びつきも魅力です。材木問屋がかつて並んだ「木場」がそうでした。希少木材を扱う銘木屋さんがあって、僕が駆け出しの頃には足を踏み入れることさえできなかった。通い詰めないと売ってもらえなかった。築地も同じで、「あの仲卸さんに認められる料理人になりたい」とか、逆に仲卸側も「あの有名店にネタを卸しているんだ」という世界です。築地はそうした人間関係や情熱や技術や何やかやが混然一体となって凝縮されている。その密度が移転によって失われると、やはりハイクオリティーの魚食文化を享受できなくなる。築地には木場と同じ過程をたどって欲しくないのです。
 
――それにしても、テレビの情報番組に引っ張りだこです。
  自分が出た番組を一度も見ていないので実感が湧きません。絶頂期のピンク・レディーもこんな感じだったのかなあ。カフェチェーンで見ず知らずの人に話しかけられた時は焦りましたけど。
 (聞き手=本紙・今泉恵孝)
 
▽もりやま・たかし 1965年岡山県生まれ。1級建築士。早大理工学部卒業後、設計事務所を経て「2000年代初頭に幅を利かせた金融マンたちを同じ土俵で論破するため」(本人談)、早大政治経済学部大学院修了。地方自治体主導のまちづくりや公共施設のコンサルティングを行う。建築エコノミストを名乗るのは、本人いわく「世間にはコンサルタントを嫌う人もいるから」とか。