2016年9月27日火曜日

海外派兵 強制アンケートで「行かない」は認められない 

 安保法の成立により、自衛隊員が海外で戦闘に巻き込まれて命を失う危険が現実のものとなりました。
 同法の成立後、自衛隊員は海外派遣に関する次のようなアンケート:”1.海外派遣を熱望する”“2.命令とあらば行く”“3.行かない” の3択に、回答させられました。
 ある隊員は3番の “行かない” にマルをつけたところ、上司呼ばれて何で行けないんだ」と詰問され、無理やり2番の “命令とあらば行く” に変えさせられました。中には、「家族がいるから行けません断固断った人たちもいますが、彼らは僻地に転属させられたり、単身赴任で飛ばされたということです。
 仕方なく2番に変更した隊員は、「たぶん何かあったときにこのアンケートを家族に見せて、本人は希望していました」と説明するのではないかと述べています。
 自衛隊は既にそこまで準備を進めているということです。
 
 LITERAの記事を紹介します。文中に「PKO参加原則」が出てきますが、その内容は以下のとおりです。
 
  PKO参加原則
自衛隊がPKOに参加するにあたり、満たすべき条件。1992年に成立したPKO協力法に盛り込まれた。(1)紛争当事者間の停戦合意が成立(2)受け入れ国を含む紛争当事者の同意(3)中立的立場の厳守(4)以上の条件が満たされなくなった場合に撤収が可能(5)武器使用は要員防護のための必要最小限に限る――からなる。 (2016-07-17 朝日新聞)
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現役自衛官が“海外派兵”強制アンケートを暴露 
「海外派遣に行かない」を選択したら上司から呼び出し
LITERA 2016年9月25日
 違憲の新安保関連法の強行成立から、1年が経った。安倍政権は、現在南スーダンでPKOに従事する自衛隊に対し、11月にも新安保法に基づいた「駆けつけ警護」の任務を新たに付与するとみられている。
「駆けつけ警護」とは、自衛隊が現地の武装勢力などから直接攻撃を受けなくとも、国連やNGO関係者が襲撃された際に現場に駆けつけて救助するというもので、武力の行使が法的に認められる。当然、武装勢力と交戦状態となるわけで、双方に死傷者が発生する可能性は極めて高い。戦後、直接的には人をひとりも殺さず、殺されることもなかった日本の自衛隊の歴史が、早ければ今年中にも塗り替えられようとしているのだ。
 
 当の自衛隊員たちは今、何を思うのか。
「(自衛官の)誰かが犠牲になって死なないと、この法案がダメだったのか良かったかというのは、もう一回議題にあがることはないのかな」
 ある現役自衛官の言葉だ。去る9月19日放送の『報道ステーション』(テレビ朝日)が安保法成立から1年後の現実を特集し、現役自衛官にインタビューを敢行した。顔を隠し、声色は加工されているが、この現役自衛官の肉声は、安倍政権がいかに現場を無視して安保法を強行したかを物語っている。
「やっぱりイメージがわかないというか。僕らが(自衛隊に)入ったときの約束は、国民を守るためが一番」
 「大規模災害で支援して、国民から『自衛隊さんありがとう』と言われるのが、いちばんモチベーションが上がるところなんですね」
 「だけど駆けつけ警護とか、(対象が)日本の人でもないし日本の土地でもないし、何をしにわざわざ行くのか、と」
 
 現場は、なぜ自分たちが海外で武力行使をせねばならないのかと、あきらかに戸惑いを見せている。だが、新安保法に基づく任務は事実上の“強制”。人を殺せと命じられれば、殺さざるを得ないのだ。実際、この現役自衛官は、安保法の成立後、海外派遣に関するこんなアンケートに回答させられたという。
「3択しかないんですね。“熱望する”のか“命令とあらば行く”のか、“行かない”のか。3番の“行かない”にマルをつけたら、当然後から上司のほうに呼ばれて『何で行けないんだ』と(言われた)。結局、延々と問い詰められたから、じゃあ2番の“命令とあらば行く”でいいです、と」
 上司からパワハラを受けて、海外派兵を拒否することができない。これが、自衛隊という組織のリアルなのだ。さらにこの現役自衛官は、“選択肢のないアンケート”がもっている本当の意味を、このように語っている。
「たぶん何かあったときには、家族にはたぶんこのアンケートを見せるんだろうな、と思いながら。『いや、本人は希望していました』と。何かあったときの逃げじゃないけど、それが見えて、すごい嫌です。『家族がいるから俺は行けません』と頑なに断った先輩がいたんですけど、そうしたらその先輩が僻地のほうに転属とか、単身赴任で飛ばされるとか、よくわらかないような人事がある」
 
 ようするにこのアンケートは、はなから個々の自衛隊員の任務や配属の希望を聞くためのものではなく、紛争地帯で“戦死”した場合のための“言質”を取るためだったのではないのか、そう現役自衛官はいうのだ。そして、圧力に屈しない隊員には露骨な報復人事を下し、他の自衛隊員に対する“見せしめ”にする。これは、おそらく『報ステ』の取材に匿名で答えた現役自衛隊の周辺に限った話ではないだろう。
 今年7月には、現職の陸上自衛官が新安保法による集団的自衛権の行使は違憲だとして、国を相手取り東京地検に提訴した。原告は「防衛出動」の命令に従う義務がないことの確認を求め、自衛隊の入隊時に同意していない命令に従う義務はないと訴えているが、対する国は、原告の訴えは不適法であり、却下を求めている。安倍政権は、憲法違反の法律が自衛官の生命を危険にさらそうとも、冷酷なまでに“命令に従え”と言い続けるのだ。
 
 しかし、新安保法のもとでの自衛隊の任務、たとえば「駆けつけ警護」がもたらす“戦死”リスクは、一人や二人といった人数で済みそうにないのが現実だ。専門家もその危険性を指摘しており、たとえば元陸上自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄氏は「週刊朝日」(朝日新聞出版)15年8月28日号でこのように警鐘を鳴らしている。
『警護』といっても、実態は戦闘にほかなりません。2ケタ単位、最悪3ケタの死者が出ることもあり得る。特に、今のまま自衛隊が戦えば、負傷者中の死者の比率が高くなることは避けられない。自衛隊は諸外国の軍隊のように救急救命の制度が整っておらず、医師法や薬事法の制約で衛生兵による現場での治療や薬の投与も十分にできない。演習場の近くに治療施設のある普段の訓練時とはまったく状況が違うのに、命を守る備えができていないのです」
 
 現に、政府は「駆けつけ警護」の嚆矢とする南スーダンは、内戦により多数の市民が巻き込まれるなど治安が悪化しており、今年7月にも首都ジェバで政府軍と反政府軍の大規模な戦闘が発生、兵士や市民300人以上が死亡したとみられている。しかもこのとき、陸上自衛隊の宿営地からたった100メートル先の地点で銃撃戦が行われ、その流れ弾の弾頭が宿営地内で複数発見されたことも判明している。まさに自衛隊が戦闘に巻きこまれる一歩手前だったのだ。
 
「駆けつけ警護」の任務が付与されれば、こうした大規模戦闘の最中に、日本の自衛隊が武器を持って突入することだってありえるのだ。実際、前述の『報ステ』のなかでは、現地で取材を続けるジャーナリストのヒバ・モーガン氏がこのようにVTRのなかで語っていた。
「PKO部隊を攻撃する勢力には、ガーナ人もルワンダ人も日本人も大きな違いはない」
「実際に(PKO部隊が)攻撃されたこともある」
 PKO部隊まで攻撃を受ける可能性があるなか、さらに「駆けつけ警護」と称して武器を持ち、武装勢力と対峙すれ戦闘はさけられない。安倍首相は昨年の安保国会で“自衛隊のリスク増大”を頑なに否定し続けたが、それがいかに詭弁であったか今にわかる。そして、わかったときには、自衛隊員の尊い命は奪われているのだ。
 
 しかも、現在の日本のPKO参加自体、明らかに「参加5原則」の〈紛争当事者の間で停戦合意が成立していること〉を満たしていないとしか思えない。前述の通り、南スーダンは紛争地域にほかならず、停戦合意などあってないようなものだ。
 
 また、〈中立的立場を厳守すること〉という条件もすでに外れかけていると言える。先月、国連安保理は4000人規模の部隊を南スーダンに派遣する決定を下したが、この部隊には、任務遂行に「必要なあらゆる手段を行使」する権限が与えられ、現地政府に対しても国連施設や民間人への攻撃準備があれば武力行使を行えるとした。
 当然、現地政府はこれに反対しているが、PKOがこれほどの治安権限を得てしまえば内政干渉の色はもはや隠しきれない。そんな混沌のなかで自衛隊が武器使用を認める新たな任務を遂行しようとすれば、反政府軍からも政府軍からも攻撃対象となる可能性はゼロではないだろう。
 
 ところが安倍政権は、ジェバで大規模戦闘が発生した7月以降も、PKO参加五原則には違反していないとの立場を崩さない。そして、自衛隊では先月から「駆けつけ警護」の訓練が開始され、先日の日米防衛相会談でも稲田朋美防衛相が米側にそのことを報告。まさに準備万端、新安保法の“実績作り”のために「駆けつけ警護」をさせたくてたまらない、といった様子なのだ。
 誰かが犠牲にならないとわからないのか――。『報ステ』でそうこぼした現役自衛官の声は、安倍政権には届かない。それどころか、連中のやっていることを見ると“早く犠牲になってくれ”という欲望まで見え隠れする。
 このまま、わたしたちはただ、自衛隊員の“戦死”するのを傍観することしかできないのか。(宮島みつや)