2016年9月5日月曜日

05- 北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)は無理で無駄

  8月3日早朝、北朝鮮が中距離弾道ミサイルを秋田沖に着弾させました。そのとき日本はその状況を把握出来なかったので何の対応動作も取れませんでした。
 防衛相着任したばかりの稲田氏は早速その翌日に、弾道ミサイルを迎撃する態勢をとるため新型の迎撃ミサイル「SM-3ブロックIIA」などの導入に向け、次年度予算に経費を計上する考えを明らかにしました。
 米軍産複合体大儲けできるので当然喜びますが、それは本当に有効なのでしょうか。
 
 従来のミサイルが航空機を撃墜できるのは、ミサイルが標的よりも遥かに高速で飛翔し、追尾することができるからです。それに対して、標的よりも低速な飛翔体で待ち伏せ的に衝突させたり、または正面衝突をさせる方法で弾道ミサイルを防衛するというのはどう考えても無理な話です。10発撃ったとしても1発も当たらないのではないでしょうか。
 特に北朝鮮が地上や海中から発射したミサイルは7~8分間で日本に到達するので、命中の精度以前の問題として、防衛ミサイルを発射させること自体が無理になるということです。
 
 五十嵐仁氏が、「ミサイル防衛(MD)は無駄だとなぜ言わないのか」と、MDが根本的に無理なシステムであることを指摘しました。
 無駄なMD構想などで国民に幻想を持たせず、外交的手段しか解決策がないことをメディアは明言すべきであるとしています。
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北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)は無駄だとなぜ言わないのか
五十嵐仁の転成仁語 2016年9月3日
 今日の『毎日新聞』の社説は、北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)について取り上げています。その主張は表題通り、「ミサイル防衛 増強しても限界はある」というものです。
 しかし、問題は「限界」があることではありません。そもそも北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)は不可能であり、発射されたら「お手上げ」なのですから、そのための予算も装備も全く無駄だと、なぜ言わないのでしょうか。
 
 防衛省の予算は「5年連続の増額要求で、弾道ミサイル防衛の増強に力を入れたのが特徴」であり、「ミサイル防衛の強化は必要だが、どれだけ強化しても北朝鮮がその裏をかくようなミサイル技術を開発する可能性はあ」り、「際限のない競争になりかねない」し、「厳しい財政事情を考えれば、ミサイル防衛の増強にもおのずと限界がある」から、「軍事面だけでなく、外交的手段との組み合わせで対応するしかな」く、「日本の国力に見合ったミサイル防衛のあり方について、国会で徹底的に議論する必要がある」というのが、この社説の趣旨です。
 何という、腰の引けた主張でしょうか。ミサイル防衛(MD)は必要だが、カネがないから国力に見合ったものにするべきだというわけです。
 どうして、「そんなものは無駄だからカネをつぎ込むのは反対だ」と書かないのでしょうか。軍事的に対応するのは不可能であるばかりか間違いで、唯一の解決策は外交的手段しかないのですから。
 
 そもそも、日本は北朝鮮に近すぎます。この点で、遠く離れているアメリカなどとは決定的に異なっています。
 近いから、もし北朝鮮がミサイルを発射すれば7~8分で着弾します。それも、迎撃ミサイルが待ち構えているところに向けて発射されるとは限らず、日本海側に並んでいる原発が狙われるかもしれません。
 これをどうやって、撃ち落とすのでしょうか。移動式であれば、どこからいつ発射されるか分からないものを。
 
 毎日新聞の社説も、「その対策が効果的なものなのか、慎重に検討する必要がある」として、「2段構えをとっている」「日本のミサイル防衛システム」について説明しています。「まず、イージス艦に搭載した海上配備型迎撃ミサイル(SM3)で、高度100キロ以上の大気圏外で迎撃する。そして、失敗した場合に、地上配備型の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で、高度十数キロの大気圏内で撃ち落とすという態勢だ」というわけです。
 これに対して、「北朝鮮が移動式発射台から前兆なくミサイルを撃つため、兆候を把握しにくくなっていること」、「北朝鮮がミサイルを通常の軌道よりも高く上げて近くに落とす撃ち方を始めたこと」で「この方法で日本に撃たれると、高く上がった分だけ落下速度が増し、今のシステムでは迎撃は難しくなる」という二つの問題点を指摘しています。
 いずれも、対応する時間が十分にあるという前提での議論ですが、そんな時間はありません。発射されてから着弾するまで10分以下しかないのですから。
 
 この「時間の壁」を突破できるということが証明されない限り、MDについての議論は荒唐無稽なものとなります。しかも、発射台に設置されたロケット以外では、これまでミサイル発射の事実が10分以内に確認されたことは一度もありません。
 そのような情報が確認されるのは、何時間も経ってから韓国を通じてというのが通例です。これで、どうしてミサイル発射に対応できるのでしょうか。
 もしそれが可能であったとしても、迎撃ミサイルよりも多くの数が発射されれば対応できず、射程距離以外には届かず、届いたとしても速度の速いミサイルを撃ち落とすのは技術的に難しく、日本国内で破壊すれば残骸が国土の上に降り注ぐことになります。これらの問題を解決できるのでしょうか。
 
 しかも、この社説が指摘しているように、「どれだけ強化しても北朝鮮がその裏をかくようなミサイル技術を開発する可能性はある。際限のない競争になりかねない」というのが現実です。そして、すでにこのような無益な「競争」は始まっています。
 北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返し、それに対抗するということで韓国はTHAAD(高高度防衛ミサイル)を配備しようとしています。米韓両軍による合同軍事演習も行われ、それへの対抗として北朝鮮は潜水艦発射ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、さらに、それへの対抗措置として自衛隊隊がMDの開発・配備のための多額の防衛予算を要求しているというのが現状です。
 このような軍拡競争によって軍事的緊張は激化し、不穏な情勢が高まり、日本の安全度が低下し続けていることは明らかです。必要なことは、それをさらにエスカレートさせるのではなく、逆転させることではありませんか。
 
 そのためには、無駄なMD構想などで国民に幻想を持たせず、外交的手段しか解決策がないことを明言しなければなりません。北朝鮮を軍事的に挑発することのないように韓国やアメリカに進言し、直ちに直接対話に応ずるようアメリカに要求するべきです。
 また、韓国との関係を改善して連携を強めることも必要であり、広島を訪れたオバマ大統領と同様に、安倍首相は従軍慰安婦問題の解決のために訪韓してナヌムの家を訪問し、元慰安婦の方とハグするぐらいの行動をとるべきではないでしょうか。安倍首相としてはやりたくないことでしょうが、極東の平和や国の安全のためにこれくらいの行動をとることができなければ一国の指導者とは言えません。