2016年8月12日金曜日

12- 生前退位問題で安倍政権がしなければならないこと

 安倍首相は「お気持ち」の表明があった直後に、憤然とした様子で「天皇陛下のご公務のあり方などについてしっかり考えて決めなければいけない(要旨)」と語りました。菅官房長官も同じ日に、同趣旨の発言をしています。
 しかし天皇は公務の削減などでは解決にならないと仰ったのですから、官邸の意向はその「お気持ち」を完全に無視するものです。いずれ有識者会議を立ち上げて対策を検討するということですが、そうした下心の元に人選するのであればそんなものは全く無意味で何の役にも立ちません。
 
 虚心に「お気持ち」に向き合えば、そこには何一つ不条理も理不尽さもありません。それだからこそほとんどの国民が生前退位に賛意を示したわけです。それを自分たちの理不尽な「願望」(または「主義」)に反するからと阻止しようというのでは国民は納得しません。
 若しも会議のメンバーの中に少しでもまともな人たちが含まれるのであれば、是非とも議論をリードしてまともな結論が出るようにして欲しいものです。
 
 ジャーナリストの高野孟氏は、天皇の「お気持ち」表明についての識者コメントで、いちばんひどかったものとして、「退位を希望する理由が公務負担の重さなのであれば、減らせばよい」というのと、「憲法に根拠がない公的行為は憲法違反の二つを例に挙げました。確かに余りにも浅薄で呆れ返るほど不誠実な受け止めです。一体何を聞いていたのでしょうか。
 また姑息な手段でなく、皇室が未来にわたって安定的に存続していけるような抜本的な皇室改革を行うべきで、そのためには安倍首相が以前にボツにした「女性天皇・女系天皇」の容認や「女性宮家」の創設にも取り組まなければならないと述べています。
 
 「世に倦む日々」氏は、ツィッターで、「有識者会議の設置は必要ない。政府と国会はすみやかに皇室典範を改正すればいい」、「有識者会議では何も決まらない。安倍晋三と麻生太郎の意向を受けた右翼の論者が、全てを白紙に戻す策動をするだけだ」、「国民的合意なんてもうとっくにできている。今、生前退位に反対する人間なんて、世論調査で5%もいないだろう」、「生前退位の意向というのは、数年前から宮内庁を通じて政府に上げられ、天皇陛下はずっと黙ったまま実現を待っていた」、と述べています極めて明快です。
 
 この問題で安倍政権がしなければならないことは明々白々です。いま安倍首相が深謀をめぐらせているものこそ、天皇制の政治利用であることを自覚すべきです
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「お気持ち」に応えれば改憲戦略は先延ばししかない
高野孟 永田町の裏を読む  日刊ゲンダイ 2016年8月11日
 天皇の「お気持ち」表明についての識者コメントで、いちばんひどかったのは2人の憲法学者で、ひとりは横田耕一・九大名誉教授の「退位を希望する理由が公務負担の重さなのであれば、減らせばよい。極端に言えば、国事行為だけをしていれば問題ない」(日経9日付)というもの。もうひとりは浦田賢治・早大名誉教授の「憲法に根拠がない公的行為は憲法違反」(東京9日付)だ。
 
 いったい何を聞いていたのだろうか。天皇はメッセージを通じて、国事行為以外の、被災地慰問、戦跡地慰霊はじめ公的行為で全国各地を歩き、人々とじかに触れ合うことこそが「天皇の象徴的行為」として最も大切なのであって、「全身全霊をもって」それを果たせなくなるのでは天皇の座にあることに意味がないと訴えているのである。「国事行為や公務を限りなく減らしていく」ことや、「摂政を置く」ことは、そのことの解決にはならないとも明言している。
 憲法にある国事行為は、元首であった明治憲法下の天皇の行いを、形の上だけで引き継いだもので、もし公務を減らして解決するなら、こちらを廃止するのが筋である。この学者どもは、憲法の条文が何より大事で、天皇の心や体がどうなろうと知ったことではないという倒錯に陥っている。
 
 さて、摂政はダメだと言われてショックを受けているのは、安倍晋三首相だろう。皇室典範の見直しとなると、10年前の「女性天皇・女系天皇」や野田政権時の「女性宮家」の議論が蘇ってきかねない。「男系男子」一筋で「万世一系」神話を守りたい安倍やその背後の日本会議系の右翼は、それを何より嫌っていて、現典範の摂政条項の拡大解釈か、1回限りの特別立法で切り抜けようと模索していた。
 
 しかし、そういう姑息な手段でなく、皇室が未来にわたって安定的に存続していけるような抜本的な皇室改革を考えてもらいたいというのが、お気持ちの根本趣旨であるから、安倍は有識者会議を編成して本格的に議論し、しかも早急に結論を出さなければならない。漫然と先延ばししているうちに万が一、天皇が病に伏すようなことがあれば、切腹では済まないことになるからである。
 むしろ、秋に憲法審査会を開いて、来年にも「環境権」か何かでお試し改憲を、という安倍の改憲戦略のほうを、大幅に先延ばしせざるを得ないのではないか。安倍が天皇のお気持ちとそれを支持する世論に応えようとすれば、日本会議系からの安倍批判がますます激しくなるという股裂き状態に追い込まれつつある。 
 
  高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。 
 
 
「生前退位」問題 (世に倦む日日 ツイッターより)
世に倦む日々 2016年8月9日
産経を含むマスコミが、有識者会議の設置は難しいと言っている。有識者会議の設置は必要ないよ。天皇陛下があれだけストレートに意思と希望を表明したのだから、政府と国会はすみやかに皇室典範を改正すればいい。皇室典範改正以外の選択肢はない。時間を無駄にするな。早くやれ。
 
考えなきゃいけないのは、退位後の天皇の地位と秋篠宮の地位だ。おそらく、これについても天皇陛下の方から意向のリークが出るだろうし、それで方向性が決まるだろう。有識者会議では何も決まらない。安倍晋三と麻生太郎の意向を受けた右翼の論者が、全てを白紙に戻す策動をするだけだ。右翼は無用。
 
天皇陛下がまさに弁慶の仁王立ちのようになって、日本国憲法を守っている。平和憲法を破壊しようとする者の行く手を阻んでいる。国民を守っている。昨夜のNHKの特番での「そうじゃないんだ。それではだめなんだ」の言葉はよかった。今度はわれわれが天皇陛下を支える番だ。生前退位の即実現を
 
戦後民主主義の別名である「民主主義の永久革命」。その思想と運動の体現者として、天皇陛下ほどぴったり該当するイメージの存在はない。永久革命してますよね。象徴天皇制をより理想的なものに。平和憲法の日本国をより本来的で普遍的なものに。82歳でも諦めずに理想を追い求めている。革命家だ。
 
生前退位について、安倍晋三の息のかかったマスコミや政治家は、国民的合意が必要だとか慎重な議論が必要だとか言うが、国民的合意なんてもうとっくにできている。今、生前退位に反対する人間なんて、世論調査で5%もいないだろう。慎重な議論なんかしてたら、天皇陛下がお年で死んでしまう。
 
朝日の記事やNHKの報道でも出ているが、生前退位の意向というのは、数年前から宮内庁を通じて政府に上げられ、天皇陛下はずっと黙ったまま実現を待っていた。いつまで経っても政府が棚上げして動かないから、とうとう我慢できなくなって、国民に直接メッセージすることを決断したものだ。
 
前にアリストテレスの統治形態の三類型論を紹介した。アリストテレスは言った。どれがいいってもんじゃなくて三つは相対的なんだと。言い得て妙だ。東アジアを見て下さい。中国、アリストクラティアですよね。北朝鮮、バシレイヤですよね。日本、デモクラティアなんだけどオクロクラティアですよね。
 
推測だが、NHKの会長と経営委員長、極秘で皇居に呼ばれたんじゃないかな。天皇陛下に「よろしく頼みます」と頭を下げられたら、どれほど安倍晋三に忠実な飼い犬でも、天皇陛下を裏切ることはできませんよね。結局、官邸は巻き返すことができず、お気持ち表明の阻止も、文言の骨抜きもできなかった。
 
生前退位の法制化から憲法改正を引っ張り出すのは無理だ。生前退位は皇室典範の改正で済む。安倍晋三もそこまで強引なことはできないし、無理にやろうとすれば失敗して支持率を一瞬で失う。憲法改正が必要だと言っているのは、皇室典範を改正したくない右翼の(右翼だけに通用する)言い訳だ。
 
生前退位の法制化のためには憲法改正が必要だなどと言って安倍晋三が突っ張ったら、安倍晋三は天皇陛下の意向の無視するのかということになり、世論の反発を食らって支持率は一気に落ちる。天皇陛下は護憲。憲法改正を理由にして皇室典範改正を拒むことは、天皇陛下と喧嘩することになる。
 
政府の根回しは済んでなかったんだよ。少なくとも安倍晋三はOKしていない。だから、7月13日の第一報の後、NHKの報道を打ち消すような政府関係者の発言ばかり続いた。そういうこともあるんだよ。そういうことができるのは(この国でそういう権力を持っているのは)天皇陛下だけということだ。