2016年5月14日土曜日

米国の核政策の真剣な再検討を 志位委員長(共産)

 サミット後の今月27にオバマ大統領が広島訪問をすることを10夜に日米両政府が発表した時には、テレビは速報テロップを流して伝え、大新聞は翌日一面で大々的に伝えました。日刊ゲンダイは、「大マスコミの異常な“政権ヨイショ報道”」だとしています。なんとオバマ大統領の広島訪問が実現したことで勢いに乗る安倍政権が衆参ダブル選に打って出るという噂まで流れているということです。
 
 歴代の米大統領が1人も訪れなかった広島に、オバマ大統領が初めて足を運ぶということはそれなりに評価できることかも知れませんが、そこで謝罪が約束されているわけでもない点は、大いに広島訪問の意義を低めるものです。その背景には、米本国の世論はまだまだ圧倒的に「当時米が原爆を日本に投下したのは正しいことだった」に傾いている現実があると言われます。そのこと自体もまことに驚くべきことです。
 
 共産党の志位委員長は12日、米国のオバマ大統領の広島訪問について記者会見し、要旨
 米国政府核兵器禁止条約の国際交渉開始に背を向けてきたこれまでの態度をあらためるべき
 米国は率先して核兵器禁止条約の国際交渉に反対する態度をとってきたが、そうした米国の核兵器政策を真剣に再検討するべき 
 日本政府は、国連核兵器禁止の国際交渉開始を求める決議案に対して、1996年以降20年連続で「棄権」しているが、こうした姿勢を根本的にあらためるべき
とする見解を発表しました。
 
 しんぶん赤旗の記事のほか、日刊ゲンダイの記事と植草一秀氏ブログ「知られざる原爆投下の真実とオバマ広島訪問」も併せて紹介します。
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米国の核政策の真剣な再検討を  オバマ米大統領の広島訪問について
しんぶん赤旗 2016年5月13日
 日本共産党の志位和夫委員長は12日、国会内で記者会見し、米国のオバマ大統領の広島訪問について、見解を発表しました。
 
(1)
 オバマ大統領が、アメリカ大統領として初めて被爆地広島を訪問することになったことは、重要な前向きの一歩である。それはまた、「米大統領に、被爆の実相をじかに知ってほしい」という被爆者と被爆地の願いにこたえる行動である。
 同時に、この一歩を、「核兵器のない世界」の実現へとつなげるためには、米国政府が、核兵器禁止条約の国際交渉開始に背を向けてきた、これまでの態度をあらためることが必要であることを、率直に指摘しなくてはならない。
 
(2)
 「核兵器のない世界」の実現のためには、核兵器廃絶・禁止を正面からの主題とした国際条約――核兵器禁止条約の国際交渉を開始することが不可欠である。それは、毎年の国連総会で、加盟国の圧倒的多数の賛成で決議されている国際社会の声である。それは、被爆者と被爆地の強い願いである。
 ところが、米国は率先して、他の核保有国――英仏中ロとともに、「核抑止力」論にたって、「段階的アプローチこそ核軍縮に向けて前進するための唯一の実際的な選択肢」として、核兵器禁止条約の国際交渉に反対する態度をとってきた
 核軍縮の個々の部分的措置を前進させることは重要だが、そうした部分的措置の積み重ねだけでは、「核兵器のない世界」に到達できない。そのことは、核兵器問題をめぐる外交の全歴史が証明していることである。
 日本共産党は、「段階的アプローチ」の名で核兵器廃絶を永久に先送りする核兵器固執論を抜本的に再検討することを、核保有諸国に求める。米国・オバマ大統領に対して、広島を訪問するのであれば、被爆者の声に誠実に耳を傾け、原爆投下による残酷きわまる実相を直視し、これまでの米国の核兵器政策の真剣な再検討に踏み出すことを求める
 
(3)
 安倍首相は、今回のオバマ大統領の広島訪問について、「核兵器のない世界に向けて大きな力となる」と述べている。しかし、核兵器問題をめぐって、日本政府の姿勢が、きびしく問われていることを、指摘しなくてはならない。
 日本政府は、国連総会で圧倒的多数の賛成で採択されている、核兵器禁止の国際交渉開始を求める決議案に対して、1996年に初めて提案されてから、昨年の2015年の総会に至るまで、20年連続で「棄権」している。
 核兵器禁止条約を求める国際世論の高まりを背景に、昨年の国連総会では、「核兵器のない世界」を実現するための「法的措置」を討議するための作業部会を求める決議が採択され、現在、スイスのジュネーブで作業部会が開催されている。この会議は、大多数の国が、核兵器禁止条約の必要性を強調する、画期的会議となっている。しかし、核保有国がこの会議をボイコットするもとで、日本政府はこの会議で、「核保有国の参加する場で議論をすべきだ」「段階的アプローチが現実的」などと主張し、世界の大勢に背を向けて、核保有国の代弁者というべき役割を果たしている。
 これらは被爆国日本の政府として、恥ずべきものである。こうした姿勢を根本的にあらためることこそ、日本政府に強く求められていることを、強調したい。
 
 
核兵器開発を容認するオバマ大統領が広島を訪問するワケ
 日刊ゲンダイ 2016年5月13日
「核兵器のない世界を目指す国際的機運を盛り上げる上で、極めて重要な歴史的機会になる」
 
  菅官房長官は11日の会見で、オバマ米大統領の広島訪問をこう“絶賛”していた。オバマが広島で核兵器廃絶を世界に向けてブチ上げるのではないか――と期待してしまうが、大間違い。世界最大の「核武装国家」である米国が、そう簡単に核兵器を手放すハズがない。
 オバマは09年4月、チェコの首都プラハで行った演説で「核なき世界」を訴え、ノーベル平和賞を受賞した。ロシアと競い合って核開発を主導してきた大国の“英断”に世界は拍手喝采だったが、米国はその後も核爆発を伴わない「臨界前核実験」を続けている。さらに新型核兵器を今も着々と開発中だ。
 
 「英エコノミストは今年1月、オバマ政権が今後30年かけて1兆ドル(約108兆円)を投じて核戦力の更新を計画している、と報じています。主な中身は、核攻撃型巡航ミサイル・トマホークの後継とされる新型長距離巡航ミサイル『LRSO』の開発です」(軍事ジャーナリスト)
 核兵器廃絶どころか、新型兵器の開発を認めているオバマ。これじゃあ、広島で核廃絶を訴えるワケがない。実はオバマは、09年11月の初来日の際にも広島訪問を検討したが、当時の外務省・薮中三十二事務次官が「時期尚早」と突っぱねていたことが、内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電で明らかになっている。
 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「もし09年に広島訪問が実現していれば、核軍縮など、その後の米国の防衛政策も変わった可能性があった」と言い、こう続ける。
 「米国内で大きな力を持つ軍産複合体が、オバマ大統領の当時の広島訪問を許さなかったのでしょう。米国の軍産複合体と日本の外務省は近しい関係なので、米国側の意向を忖度して広島訪問を断ったのだと思います。それが今回、一転してOKとなったのは、軍産複合体の関心は次期大統領に移っていて、もはやオバマ大統領は『終わった人』と見られているからだと思われます」
 「歴史的訪問」なんて大ハシャギしているのは、日本政府だけだ。
 
 
知られざる原爆投下の真実とオバマ広島訪問
植草一秀の「知られざる真実」 2016年5月 7日
伊勢志摩サミット参加のために来日するオバマ米大統領による広島訪問についての情報が観察されている。
米国はオバマ大統領の広島訪問を検討していることを明らかにしている。しかし、謝罪はしないとの方針も明示している。
オバマ大統領が広島を訪問することになるとすれば、伊勢志摩サミットを散会した直後の5月27日午後、あるいは5月28日朝になるとの情報もある。
ただし、オバマ大統領が広島を訪問することになるとしても、そのアナウンスは訪問直前になるだろうとの見方も浮上している。
 
オバマ大統領はワシントンポスト紙への寄稿で
“As the only nation ever to use nuclear weapons, the United States has a moral obligation to continue to lead the way in eliminating them.”
「唯一の核兵器使用国として、アメリカは、核廃絶への道を先導し続ける道徳上の義務を負う」と述べている。
オバマ大統領は大統領就任直後の2009年4月5日、チェコの首都プラハでの演説において、
「核兵器を使用したことのある唯一の核保有国として、合衆国には行動する道義的責任がある」と述べた。そして、
「故に私は本日、信念を持って表明する。米国は、核兵器のない世界の平和と安全を追求するのだと。
私は、甘い考えを持ってはいない。この目標は、直ちに達成される訳ではない――恐らく、私の生きている間は無理であろう。この目標を達成するには、根気と忍耐が必要である」と述べた。
 
3月のワシントンポストへの寄稿文においてもオバマ大統領は、
「人類は核と共存できない。短期的には核不拡散に注力するしかないが、長期的には核廃絶を目指す」
考えを示した。オバマ大統領は、この演説でノーベル平和賞を受賞している。
オバマ氏は大統領任期が残り1年を切るなかで、自ら望んで広島を訪問することになるだろう。
 
こうしたタイミングに、日本への原爆投下を改めて見つめ直すための著書が刊行された。
『核の戦後史』(創元社) http://goo.gl/MiQ6BH
著者の木村朗氏と高橋博子氏は、ともに実証的な視点から平和学に取り組んでいる研究者である。
本書の前編では木村氏が、原爆開発から投下に至るまでの経緯を詳細な史料、データを基に分かりやすく解説している。そして、「原爆投下の知られざる真実」を明らかにしている。
 
後編では高橋氏が、アメリカの機密解除文書の緻密な探索、分析の結果として、アメリカ政府が当初から「放射能の人体への影響はない」との見解を堅持し、それに反する幾多の症例を無視してきた事実を明らかにする。
原爆投下には「人体実験」の側面があり、人体被害は詳細に調査しながら一切の治療を行わず、また原爆による残留放射能を認めなかったことや内部被ばくの存在を認めなかったことなどの衝撃の事実が明らかにされる。
「100ミリシーベルト以下の被ばくは健康に影響がない」という御用学者の主張は、残留放射能や内部被ばくを無視した原爆調査に起源があり、これがICRPの公式見解となり、現在の福島原発事故における健康被害隠蔽につながっている。これらの事実が浮き彫りになる。
 
高橋氏は、日本が政府としてアメリカに原爆使用について公式に抗議したのは、1945年8月10日に、スイス政府を通じてアメリカ政府に伝達した抗議文の1回しか存在しない事実を摘示する。
当時の新聞は「帝国、米に厳重抗議 原子爆弾は毒ガス以上の残虐」の見出しで、日本政府のこの抗議を報じた。
しかし、日本政府による原爆投下に対する抗議は、あとにもさきにも、この1回を除いて存在しないことを高橋氏は明らかにしている。高橋氏は2年ほどの毎日、1945年8月6日以降の新聞を丹念に読み返してみたが、原爆関連の記事がまったくと言っていいほど存在しない。
米国政府が原爆に関するすべての情報が流布しないように統制をかけたからである。
 
終戦期において、日本の降伏は時間の問題であった。しかし、米国政府は日本を最速で降伏させて戦争を終結させることより、別の目的で行動した。木村氏の綿密な分析の行間から浮かび上がるのは、この事実である。
 ソ連の影響を最小限に抑制する。
 しかし、日本が降伏する前に原爆を投下する。
この二つの事項を両立させる方策として、8月6日と8月9日の原爆投下が実行された。
この原爆投下によって無辜の市民が一瞬にして数十万人単位で殺戮され、その後もおびただしい数の放射能被害者を死や苦しみに追い込んだ。このことに日本政府は抗議せず、米国は謝罪していない。
この現実に手を付けぬまま、オバマ大統領の広島訪問だけが実行されようとしている。
欺瞞に満ち溢れていると言わざるを得ない。
以下は有料ブログのため非公開