2016年2月17日水曜日

アベノミクスの成長シナリオが「たった数日」で吹き飛んだと英国紙

 アベノミクスは結局、「円安になれば株価が上がる」(=各社の株価総額は本来簡単に変動しない)というグローバルな株価の原理に便乗して株価を吊り上げたものに過ぎませんでした。株価吊り上げのためには禁じ手である年金積立金まで株式購入資金に充てて結局巨大な損失を招きました。
 
 15日の英紙「カーディアン」(中道左派の大手紙)が、「アベノミクスの成長シナリオ吹き飛ぶ – 日本経済再々度不況に転落」とする記事を掲げました。
 
 リード(文)で、「たった数日の市場の混乱により吹き飛んだ・・・株価、円安による輸出企業の利益
アベノミクスによる日本経済の立て直しは原則失敗 関係者は責任をとらなければならない」と述べています。
 極めて当然の主張です。国内のマスメディアも姿勢を正して見習って欲しいものです。
 
 植草一秀氏の「アベノミクス下の日本経済は超低迷という現実」も併せて紹介します

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アベノミクスの成長シナリオ吹き飛ぶ – 日本経済再々度不況に転落
  星の金貨プロジェクト 2016年2月16日
 
『日本経済の好循環』はいったいどこに?
たった数日の市場の混乱により吹き飛んだ、上昇を続けてきた株価、円安による輸出企業の利益
アベノミクスによる日本経済の立て直しは原則失敗 関係者は責任をとらなければならない
 ジャスティン・マッカリー  ガーディアン(英)2016年2月15日
 
 日本経済は2015年最終の第4四半期、年率換算でマイナス1.4%を記録したことを政府発表が明らかにしました。これは大方の予想を覆す厳しい数値です。
そして、景気低迷にあえぐ日本経済の底上げを図る安倍政権にさらなる一撃を加えることになりました。
 世界第3位の規模を持つ日本経の成長のマイナス幅は、事前の予測1.2%を上回りました。
 その主な原因は、国内消費の落ち込みを新興国市場への輸出によってカバーしようという目論見通りいかなかったことが原因です。
 
 内閣府の発表によれば、日本経済は10月~12月の第4四半期、その前の期に比べさらに0.4%縮小してしまいました。その最大の原因は国内需要の低迷、そして輸出の不振です。
この結果は、安倍政権が進めてきた企業設備投資や個人消費を増加させる政策がうまくいっていないことを表しています。
 
10月~12月にかけ国内総生産の60%を占める個人消費は、0.6%の縮小という大方の見通しをさらに下回り、0.8%下落しました。
 しかし一方で一部のアナリストは2017年4月に予定されている消費税の8%から10%の引き上げ前に、国内消費は必ず上向くと予測しています。「しかしそうした効果は飽くまで一時的なものであり、いったん消費税が引き上げられれば、日本国内の各種の経済活動が落ち込むことはほぼ間違いありません。」
 キャピタル・エコノミクス( https://www.capitaleconomics.com/ )マルセル・シーリアント氏がこう語りました。
 「今回の結果は、日本の物価を上昇させるため、日本銀行がやらなければならない仕事が山ほどあることを明らかにしました。」
 
 日経平均株価は週明け月曜日、アメリカの小売高に加え、先週末に欧米市場の株価が回復したことを受け、3%以上上昇しました。
 日本国外のアジア太平洋のMSCI株価は、先週末4%の下落に対し、0.7%値を戻しました。
 しかし、月曜日に公表された経済指標の中には、日本経済の回復に関しほんのわずかな光明しか見えません。
 原油輸入価格の下落したことに助けられ、日本の純輸出額は0.1%上昇する一方、設備投資額は事前の予測であった0.2%をはるかに上回る1.4%の上昇を記録しました。
 しかしインフレ率調整後の2015年1年間を通しての日本経済の成長率は、0.4%という微妙なものでした。
 さらに急激に進んだ円高が輸出関連企業の利益を大きく目減りさせる間、2月第2週には国内の株価がこの7年間で最悪の下落幅を記録しました。
 
 こうした状況のいったい何がアベノミクスの失敗を決定づけることになるのでしょうか。
 アベノミクスは金融緩和策、財政刺激策に国内の構造改革を加えた3つの政策を柱とするものでしたが、2012年に安倍氏が首相になって以来上昇を続けてきた株価も、円安誘導策も、ここ数日続いた市場の混乱によりすべてが吹き飛ばされてしまいました
 
 東京に本部があるジャパン・マクロ・アドバイザーズの責任者である大久保琢史氏は次のように語りました。
 「アベノミクスは実際に効果を発揮しましたが、現在は逆向きに作用しています。」 「日本経済の持続的な成長が可能なしっかりした体質になるために本当に必要なことを、日本の政治家・政策担当者たちはしてこなかったということです。彼らは原則失敗したのです。責任をとらなければなりません。」
 市中の銀行が企業や個人への貸し出しを促進するよう採られた日本銀行の最近の決定、マイナス金利の採用も、望むような効果を発揮していません
 
 コンサルティング企業テネオの政治的リスクのアナリストであるトビアス・ハリス氏は、これまで実現した日本国内の経済的成果が、結局は安倍氏が首相に就任して以来日本銀行が繰り出す予想外の金融政策に対する否定的反応により、すべて脅かされることになったと指摘しました。
 「外的要因による円高、中国の景気減速とその事が新興国市場に与える影響、そして先進各国の経済圏における需要の後退、これらがもたらす影響については、安倍政権あるいは日本銀行がいかなる政策を採用しても、その打撃を多少緩和するという程度が精一杯のところでしょう。」
 
http://www.theguardian.com/world/2016/feb/15/japans-economy-shrinks-again-as-shinzo-abe-kickstart-plan-is-blown-off-course
 

アベノミクス下の日本経済は超低迷という現実
植草一秀の「知られざる真実」 2016年2月16日
昨日2月15日、昨年10‐12月期のGDP統計が発表された。前期比年率14%のマイナス成長になった。事前予想通りのマイナス成長になったが、マイナス幅は事前予想を超えた。
アベノミクス相場が始動したのは2012年11月14日である。
2012年10-12月期から2015年10-12月期までの13四半期のうち、6四半期がマイナス成長になった。経済を浮上させたと自画自賛する安倍晋三首相だが、現実のデータはこの自画自賛を否定している。
 
第二次安倍政権が始動してから実現した事実は 円安と株高 である。
8664円の株価が20868円にまで上昇した。しかし、これは上場企業の企業収益の増加を反映したもので、日本経済全体を反映するものではない。
かつては、株価が経済全体を反映することが多かった。経済の浮き沈みと株価の浮き沈みが連動していた。
しかし、今回は違う。ここにアベノミクスの本質が表れている。経済全体は超低迷を続けるなかで、大企業の企業収益だけが拡大し、上場企業の株価だけが上昇したというわけである。
 
安倍首相は労働者の賃金も増えたと自画自賛するが、これも大企業の正規社員の所得が増えたことを言っているに過ぎない。中小企業庁が示す日本の企業数412万社のうち、大企業は12000社しかない。東証1部上場企業は1942社しかないのであり、企業数全体の0.05%でしかない。
 
労働者の4割は非正規労働者である。
国税庁の公表数値によると、正規労働者の年収平均は471万円であるのに対し、非正規労働者の年収平均は170万円に過ぎない
日本社会全体の、本当に上澄みの上澄みの部分だけが浮上しているのであって、大半の国民はアベノミクスによって下流に押し流されているのだ。
 
昨年10-12月期のGDP統計の特徴は中身の悪さにある。
実質GDP成長率は前期比年率でマイナス17%になった。
需要項目別の成長率を見ると、
民間最終消費支出  前期比年率 -33%
民間住宅投資     前期比年率 -48%
国内民間需要     前期比年率 -24% になった。
景気を決定する核心である個人消費が大幅に下落したのである。
暖冬で季節消費が伸びなかったこともあるが、最大の要因は所得環境の悪さである。大企業の利益は増えたが、国民の所得はまったく増えていない
 
昨日は先週末のNY株価上昇の影響を受けて日本株価が上昇した。想定通りの動きである。
株価は一気に急落したから、急落後の反動高はあるだろう。
しかし、こうした短期の変動とは別に、中期の変動の見極めが重要である。
アベノミクス下の2013年から2015年の3年間、日本経済は停滞を続けたが、株価は上昇した。それは、円安とインフレ誘導が大企業の利益を増大させたからである。円安の進行なくして日本株価の上昇はあり得なかった。
 
しかし、この環境が変化している。為替変動の基調が円安から円高に転換していると考えられるのだ。
円高に転換している最大の理由は、日本円が円安に振れすぎたためである。振り子の振動と同じように、一方向に大きく揺れれば、必ず反対方向に逆戻りする。
この状況を金融政策の対応だけで対処することに無理がある。結局、安倍政権は財政政策の軌道修正を迫られることになる。すでに、安倍政権は追加的な経済政策発動の検討に着手した模様である。政策はブレまくりなのだ。
   (後 略
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