2016年2月19日金曜日

年金資産毀損の責任は厳しく追及されなければならない

 安倍政権は禁じ手であった筈の年金積立金を株式に投じた挙句に巨額の損失を出していますが、なぜか国内ではそれほど表立って批判する声が上がっていません。理解しがたいことです。
 在ブダペストの経済学者盛田常夫氏が、安倍首相をはじめ彼を囃した学者たちや官僚の無責任を痛烈に批判する文書を発表しましたので紹介します。
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年金資産毀損の責任を追及せよ
盛田常夫 リベラル21 2016年2月18日
(在ブダペスト 経済学者)                           
 株式市場の低迷が年金資産を大きく毀損している。安倍政権は2014年10月末、国民資産である年金積立金を株式投資に向ける割合を大幅に引き上げ、日本株25%、外国株25%へと株式投資の割合を倍増することを決定した。株式を買い増しするために、基金は保有する国債を大量に売却しなければならない。これを可能にするために、日銀は追加的金融緩和政策を決定し、国債購入額を増やす措置をとって、安倍政権の意向に沿った。こうして、政府と日銀が共同歩調をとって、年金資産をリスク資産に投資する道筋が敷かれた。
 安倍政権は、株価引き上げのために、禁じ手を使う「何でもアリ」の無謀な政策を次から次へと編み出してきたが、国民資産を投資リスクに晒すこの決定は、見過ごすことはできない。この政府と日銀の共同歩調を「ハロウィーンの奇跡」と呼んで絶賛した経済学者には驚いたものだが、この政策を歓迎した多くの「アベノヨイショ」の「経済学者」がいたことを忘れてはならない。政府のみならず、学者といえども、政権をヨイショしてきた者には、政策実行の結末に、それ相応の社会的責任がある。言い放しは許されないし、国民はそれを許してはならない。
 
 金融市場が最も発展しているアメリカにおいてすら、年金資産の株式(リスク資産)への投資は禁止ないしは厳しい制限下におかれている。しかし、安倍政権は国民資産である年金積立金からの株式投資を増やすことで、株価の上昇を図り、景気高揚感を醸成しようとしてきた。ただでさえ枯渇が叫ばれている年金積立金である。にもかかわらず、自らの経済政策イデオロギーの実現のために、安倍政権は国民資産を大きな潜在的毀損リスク下においた。この政策決定を行った政治家、官僚、経済学者は、この政策措置の結果責任から免れることはできない。しかも、毀損額は兆の単位になるから、首相退陣や官僚の配置転換などで済まされるものではない。そのことは本ブログで繰り返し批判してきたところである。
 
 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金資産投資のポートフォーリオ変更を公表した2014年10月31日の株式市場(終値)は、前日の日経平均の終値15,553.91円から16,413.76円へ急上昇した。それ以後、株式への運用が断続的に行われた結果、およそ半年後には株価は2万円の大台にまで達した。まさに官製相場の株式市場が形成されてきた。外人投資家にとって、これほど分かりやすい、うま味のある相場はなかった。しかし、このところの世界的な株安の中で、この1年4ヶ月間の株価上昇分は水泡に帰している。このことは、GPIFの新規株式投資分のかなりの部分が含み損を抱えていることを教えている。そして、その分だけ、外人投資家と一部の国内投資家が含み益を抱えているか、すでに含み益を現金化してしまったことを意味している。
 運用比率引上げ分のかなりの部分を短期間に株式投資として実現させた結果、毀損額が大きくなった。まさに武士の商法である。「アホノミクス」と呼ばれても仕方がない。ボンボン宰相が調子に乗って、株価引上げという短期的で近視眼的な政策を強行した結果がこれである。
 
 安倍首相は2016年2月15日の国会予算委員会で、「(株安の進行によって)想定の利益が出なければ当然、支払いに影響してくる」と答弁している。ふざけるな。他人事ではない。アベノミクス実現のために政府がとった政策措置である。その結果責任をどうとるのか。何兆円もの毀損を出しておいて、「利益が出なければ(毀損が生じれば)、年金削減も仕方がない」とは何ごとだ。自らのイデオロギー実現のために国民資産をマネーゲームに投じた責任をどう取るのか。まるで株価低下は外部要因によって生じた天災だから、責任がないかのような態度だ。株式投資はリスク投資だ。だからこそ、なけなしの年金資産をマネーゲームに投じてはならないのだ。安倍家や麻生家の総資産で償っても償い切れない毀損が生じるのだ。
 政治家だけに責任があるのではない。株式投資比率の引上げを決めた当時、日銀の追加的金融緩和とのコンビネーションを「ハロウィーンの奇跡」と呼んだ馬鹿な経済学者がいた。アメリカ経済学に毒され、インフレターゲット論でアベノミクスをヨイショし、挙げ句の果ては年金資産を株式投資へ仕向けた「学者」はどう責任をとるのか。言い放しでアメリカに逃亡することは許されない。
 
 毀損額があまりに大きすぎて、国民も政治家も、責任の所在を明らかにすることができない。野党はもっとしっかりと政府の施策の失敗を追及し、その政治責任を問い詰めるべきだ。さらに、GPIFの責任も追及されるべきだ。GPIFが株式投資のために運用委託会社に支払っている委託手数料の年額は250億円ほどになる。運用委託会社は運用成績に関係なく、委託手数料をもらっている。これでは何のための運用委託なのか説明が付かない。GPIFには100名ほどの職員がいるはずだが、いったいこの組織は何にたいしてどういう責任をもっているのか。少なくとも、運用ポートフォーリオ決定に責任をもつ者は運用結果に責任を取るべきだ。巨額の毀損をだしているにもかかわらず、のほほんと高給を貪ることは許されない。なけなしの国民資産の運用に、重大な責任があることを明確にすべきだ。そうでなければ、GPIFが「第二の簡保」になるのは時間の問題だ。
 アベノミクス実現のために国民資産を毀損させた責任は償いきれないほど大きい。GPIFは運用成績に応じた責任の取り方を明確にすべきだ。アベノミクスをヨイショしてきた経済学者は、頭を丸めて蟄居せよ。国民はもっと賢くなるべきだ。さもなければ、政治家のイデオロギー実現のために、自らが拠出した資産がマネーゲームで雲散霧消してしまうのだ。