2015年12月30日水曜日

慰安婦問題 日韓合意 首相の豹変と韓国政府の懸念

 28日の慰安婦問題に関する日韓外相会談での合意で、日本政府が「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」、「安倍総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」としたのは、多くの人々を驚愕させました。
 
 何しろ安倍首相は、20年前の若手自民党議員の勉強会で、韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけで・・・かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかと・・・と述べ、2006年第一次安倍政権が発足すると、早速「狭義の強制性はなかった」「強制性を証明する証言や裏付けるものはなかった」などと主張して河野談話の見直しを宣言しました
 そして12年9月に党総裁選への出馬を表明した際にも、「新たな談話を出す必要がある。子や孫の代に不名誉を背負わせるわけにはいかない」と宣言し第二次安倍政権になってからも、安倍自身はアメリカなどの圧力によって最終的には河野談話を引き継ぐとしたものの、実際には慰安婦の存在そのものを否定するような動きを放置してきました。いわばそういう彼が、という驚愕です。
 
 ブログ〝日本はアブナイ!”は、「これまで日本の政府や軍は、慰安婦の強制連行に関与したことはないと断固として否定し、河野談話を批判し撤回や見直しを要求すると共に、国として謝罪は不要政府として金銭を出すのはダメ」とさんざんアチコチで主張しまくっていたため、日韓の協議がなかなかスムーズに進められなかったのに、いったいどのラ下げて軍の関与を認めた上で、反省や謝罪を口に10億円もの大金を国が出したりするというのか。あまりの節操のなさに開いたクチがふさがらない(要旨)」、と述べています。
 また慰安婦問題に関する日韓外相会談を様々に批判している元外交官の天木直人氏も、ブログで、安倍首相が「日本政府は責任を痛感し日本国の首相として改めて・・・心からおわびと反省の気持ちを表明する」としたのは、首相とその子分たちが繰り返してきた従来の主張の全面的撤回であり豹変だ。これまでの方針の全面否定であり、完全な転換である。・・・ 私の最大の関心事は、慰安婦強制などなかったと強弁して来た安倍支持者の右翼たちがどう反応するかだ。・・・ それほど大きな意味を持つ、安倍首相の方針転換の衝撃である」、と述べています。
 
 ところでこの日韓外相会談の合意事項の文書化は、韓国側の意向で行われなかったということです。
 共同記者会見もお互いがその立場を述べあうという形で終わり、質問は一切受けつけられませんでした。(米国を交えた内容確認の文書の作成を日本側は提案したようですが、米国が難色を示し歓迎声明を出すということに落ち着きました)
 韓国はまず日韓合意の内容を国内に流して世論の動向を見てから進めるという意向のようです。
 きっと韓国政府としてはこの合意内容で事態を収めたいものの、国民がそれで納得するという自信がないのでしょう。問題は何が韓国政府の最大の懸念事項なのかということですが、やはり合意事項の中に日本の「法的責任」が欠落していることではないかと思われます。
 
 外相会談に先立つ27日に、「日本軍慰安婦研究会設立準備会」が「日本軍『慰安婦』問題、早まった『談合』を警戒する」という声明を出しました。
 そのなかで「慰安婦問題で重要なのは、『事実の認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰』であり、それが四半世紀をかけて確立された『法的常識』である。それを実行することではじめて日本の『法的責任』が終わることになるのであり、韓国政府の公式な立場も『日本政府に法的責任が残っている』というものである」と述べています
 そして、韓国政府は2005年8月26日「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」の決定を通じて、「日本軍慰安婦問題など、日本政府・軍等の国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定によって解決されたものと考えることはできず、日本政府の法的責任が残っている」という立場をはっきりと表明したと述べています
 
 今回の外相会談では韓国側からそこまでの表明はなかったようですが、成り行きによってはその問題と向き合わされる可能性は残っていると言えます。もともと加虐という犯罪行為がその場しのぎの言い回しで無かったことにされると考えること自体が被害者への冒涜です。
 
 「アジア女性資料センター」HPに掲示された同声明を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本軍「慰安婦」問題、早まった「談合」を警戒する
日韓国交正常化50周年である2015年の暮れに、日本軍「慰安婦」問題をめぐる日韓両国政府の慌ただしい動きがメディアの報道を埋め尽くしています。
 
日本の安倍晋三総理が岸田文雄外相に訪韓を指示し、日韓両国は12月28日に外相会談を開催し協議することにしたと伝えられています。また、この背後には李丙琪青瓦台秘書室長と谷内正太郎国家安全保障局長による水面下の交渉があったといいます。
すでに高齢である被害者たちが存命中に問題を解決することが最善であるという点については異議を差し挟む余地はありません。しかし時間を理由として早まった「談合」をするのならば、それは「最悪」になるでしょう。
 
1990年代初めに日本軍「慰安婦」問題が本格的に提起されてからすでに四半世紀が過ぎました。この長い月日に渡って、被害者たちと、彼女たちの切なる訴えに共感する全世界の市民たちが問題解決のための方法を共に悩み、それによって明確な方向が定まってきました。「事実の認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰」がそれです。このことこそが、これまで四半世紀をかけて国際社会が議論を重ねてきた末に確立された「法的常識」です。
日本軍「慰安婦」問題の「正義の解決」のために、日本政府は「日本の犯罪」であったという事実を認めなければなりません。この犯罪に対し国家的次元で謝罪し賠償しなければなりません。関連資料を余すところなく公開し、現在と未来の世代に歴史の教育をし、被害者たちのための追慕事業をしなければなりません。そして責任者を探し出し処罰しなければなりません。そうすることではじめて、日本の「法的責任」が終わることになるのです。
 
私たちは日本軍「慰安婦」問題に対する韓国政府の公式的な立場が「日本政府に法的責任が残っている」というものであることを再び確認します。韓国政府は2005年8月26日「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」の決定を通じ「日本軍慰安婦問題など、日本政府・軍等の国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定によって解決されたものと考えることはできず、日本政府の法的責任が残っている」という立場をはっきりと表明しました。また、これは2011年8月30日の憲法裁判所の決定と、2012年5月24日の大法院判決でも韓国政府の公式的な立場として重ねて確認されました。
 
私たちは1995年に始まった日本の「女性のためのアジア平和国民基金」が失敗したことは「日本の責任」を曖昧な形でごまかそうとしたためであることをもう一度確認します。国民基金は日本国民から集めた募金で「償い金」を支給し、日本政府の資金で医療・福祉支援を行い、内閣総理大臣名義の「お詫びの手紙」を渡す事業でした。しかし日本政府が「道義的責任は負うが、法的責任は決して負えない」と何度も強調し、まさにその曖昧さのせいで多くの被害者たちから拒否されたのです。
 
今、日韓両国政府がどのような議論をしているのかは明らかではありませんが、メディアによって報道されている内容は上述のような国際社会の法的常識と日本軍「慰安婦」問題の歴史はもちろん、韓国政府の公式的な立場とも明らかに相容れないものです。1995年の国民基金の水準さえも2015年の解決策とはなりえません。それ以下であるのならば、さらに言うまでもありません。何よりもそれはこれまでの四半世紀の間、「正義の解決」を訴えてきた被害者たち
の願いをないがしろにするものです。
 
今から50年前、日韓両国政府は「経済」と「安保」という現実の論理を打ち立て、過去清算問題に蓋をすることを「談合」しました。まさにそのために今も被害者たちは冷たい街頭で「正義の解決」を訴えざるをえなくなりました。50年前と同じ「談合」をまたしても繰り返すのであれば、これは日韓関係の歴史に大きな誤りをまたひとつ追加する不幸な事態になってしまうでしょう。
2015.12.27.
日本軍「慰安婦」研究会設立準備会