2015年12月13日日曜日

13- 大手紙は消費税のアップを主張しながら新聞を軽減税率に

 大手の新聞は民主党政権時代から国民に消費税増税の必要性を説き続けてきましたが、その一方で、新聞の消費税については、この3年間 新聞大会の度に「社会・文化の発展と読者の負担軽減のため、消費税に軽減税率を導入し、新聞の購読料に適用するよう求める」などとこじつけながら「新聞への軽減税率適用を求める特別決議」を出し続けています。
 国民の低所得層は収入が増えないのに消費税が上がれば、その分耐乏生活の度合いが強まることになります。それを冷然と強制する論陣を張りながら、一体どの面を下げてそんな決議を出し続けたのでしょうか。
 
 当然政権とは裏取引をしてきたわけで、食料品でも生活必需品でもないのに新聞がチャンと軽減税率の対象になったということです。当然その見返りは政権批判をより慎むということなのでしょう。新聞側にはそれしか譲歩できるものはありません。
 
 日本の「報道の自由度」のランキングは世界で第61位ですが、実質的にはさらに低下することになります。世に死語と言われるものは数多くありますが、「新聞は社会の木鐸」はその最たるものと言えます。
 
 LITERAが大手紙の卑劣さを取り上げています。
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朝日、読売、日経が「新聞に軽減税率」決定を書かない理由
   …消費増税主張しながら自分達は政権と取引する卑劣
LITERA 2015年12月11日
 消費税の軽減税率をめぐり、自民・公明の両党は、減税の対象を酒を除いた全ての食料品とすることで一致した。
 軽減税率を生鮮食品だけに限定しようとする自民党と、すべての食料品に導入しようという公明党の対立に官邸が割って入り、公明党に譲歩することを決断したかたちだが、しかし、食料品に全部軽減税率を適用しても、逆進性、低所得者の負担増が食い止められるわけではない。それ以前に、経済の専門家の多くは景気が頭打ちでデフレ傾向も出てきている中で、増税をすること自体がありえないと指摘している。
「今回の流れはそういう反発を抑え込むための猿芝居ですよ。来年の参院選を考えたら、公明党案に乗るしかないことは最初から決まっていた。でも、官邸はその決断を国民へアピールするために、自公に大立ち回りをさせたあげく、最終的に安倍首相の“鶴の一声”で決着を見るというパフォーマンスをしたんですよ。シナリオを書いたのはもちろん菅(義偉)官房長官です」(政治ジャーナリスト)
 しかし、新聞・テレビはそんな裏話をおくびにも出さず、まるで、安倍官邸のPR話を垂れ流すように、数日にわたって軽減税率をめぐるやりとりを大々的に報道してきた。
 だが、その一方で、彼らがまったく報道しなかった問題がある。それは、他でもない、新聞が軽減税率の対象になるという事実だ。
「すでに政府関係者が新聞と書籍を軽減税率の対象とする発言をしています。しかも、これは昨日今日決まった話ではない。10月には、菅官房長官や公明党の山口(那津男)代表が新聞への軽減税率適用を示唆していましたし、自民党新聞販売懇話会も範囲に含めることを求めた要望書を宮沢洋一税制調査会長へ出していました。ようするに“後はタイミング”という段階だったのです」(前同)
 
 ところが、この数日、新聞もテレビもこれについてはほとんど報道していない。昨日、TBSと日本テレビがようやく“新聞も軽減税率の範囲内になる”と報じたが、新聞は一切報じなかった
 そして、今朝も全国紙5紙の一面は軽減税率が食品全般で大筋合意に達したことを伝えるものだったが、「新聞」への軽減税率適用の話題は無視か、あるいは申し訳程度に触れるだけだった。
 具体的には、読売、朝日、日経の3紙は、外食との線引きや財源確保の問題、そして16年度税制改正大綱の内容を大きく扱っておきながら、「新聞」の話題は“完全にスルー”。また、毎日と産経は“政府関係者は10日夜に軽減税率の対象品目に「新聞」が含まれているとの認識を示した”というストレートニュースを数行書いたに過ぎなかった。無論、他業界との影響の比較などは一切ない。
 ようするに、新聞各紙はこれに触れたくないのだ。というのも、もともと新聞業界は与党と政府に、新聞に軽減税率を導入するよう強く働きかけてきた経緯があるからだ。
 
 新聞の業界団体である日本新聞協会は昨年、「今後の社会・文化の発展と読者の負担軽減のため、消費税に軽減税率を導入し、新聞の購読料に適用するよう求める」として「新聞への軽減税率適用を求める特別決議」を出している。
 また作家を動員した集会を主催したり、各紙紙面で識者に軽減税率導入を語らせるなど、この間ずっとキャンペーンを張ってきた。
 新聞協会は〈ニュースや知識を得るための負担を減らすため〉〈読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠〉(HPより)を大義名分としている。しかし、実際には、発行部数の急激な落ち込みが理由であることは間違いない。
 事実、ここ10年をみると、一般紙とスポーツ紙を含む発行部数は右肩下がりで、2004年には約5300万部だったのが、2014年には実に約4500万部と、約700万部も減少している。新聞離れは根深く、今後も回復の見込みは薄い。端的に言えば、“斜陽産業”である新聞業界は「増税」による値上げで、これ以上部数を減らしたくないのだ。既得権益の確保と言い換えてもいいだろう。
 しかも、新聞業界の働きかけはこうした表のものだけではなかったようだ。
「裏でも、渡邉恒雄・読売グループ会長を中心に官邸、自民党、公明党にさかんに働きかけをおこなってきました。政治報道のありようなどもからめながら、相当な裏取引があったとも言われています。それが実って、今回、軽減税率の適用が決まった。ただ、各紙ともバツが悪くなって、事実を伏せているんじゃないでしょうか」(政界関係者)
 もちろん、こうしたロビイング活動は新聞業界に限ったことではない。しかし、これら大新聞は、民主党政権のころから消費税法の改正を煽り、昨年の衆院選でも安倍自民党が消費増税の先送りを公約にしたことを社説でそろって批判していた。以降もたびたび、こんな調子の社説を出している。
柱になるのは消費税の増税である。景気にかかわらず増えていく社会保障をまかなうには、税収が景気に左右されにくく、国民全体で「薄く広く」負担する消費税が適している。(中略)
  安倍政権は10%を超える増税を否定するが、それではとても足りない。欧州の多くの国が付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を20%前後としていることからも明らかだ。〉(朝日新聞15年6月30日付「社説」)
〈留意すべき点は、軽減税率の導入で税収が減る規模によっては、消費税率10%時に約束している社会保障充実策(約2兆8千億円)を実現するのが難しくなる可能性があることだ。(中略)
  消費税は社会保障を支える重要な財源だ。日本の巨額の借金や社会保障費を考えれば、長期的には消費税率を10%を超えて上げていくのが避けられまい。軽減税率の設計次第で、将来の標準税率の引き上げ幅が大きくなりかねない。〉(日本経済新聞15年10月25日付社説)
こんな国民への負担をエラソーに説きながら、一方で自分たちの商品だけは軽減税率の対象に含めよと、裏で働きかけるというのは、姑息としか言いようがない。
 しかも、新聞メディアの場合、政界にロビイングをすること自体が、大きな問題をはらんでいる。言うまでもなく、マスメディアは政治権力から独立して、市民のためにその不正や問題点を明らかにする“権力の監視”という責務がある。だが、今回の軽減税率に関しては、ようするに業界団体が政治権力に“頭を下げて”お願いしたという構図だ。当然、政治権力はその見返りを暗に求めるし、“自主規制”という名の圧力も増す。つまるところ、新聞メディアによる政権批判や政策批判などが健全に機能しなくなるという危険性が高い。
 自分たちの既得権益のために、政権批判に手心を加えるようなことがあれば、これはまさに、国民に対する裏切り行為と言っていいだろう。
 いや、それはただの懸念ではすまない。新聞業界ではすでに、今回の軽減税率適用で、参院選までは表立った政権批判はやりづらくなった、との声が出てきている。実際、今回、大新聞が「新聞」の軽減税率適用をひた隠しにしているのは、まさに、その裏切りの自覚があるからだろう。
 たった2%の軽減税率のために、この国の新聞は、取り返しのつかないものを失ってしまったのではないか。   (田部祥太)