2015年11月25日水曜日

パリ・テロ事件を利用する安倍政権の共謀罪成立の策謀(後)

 24日付の前編に続く後編です。
 ここでは共謀罪が必然的に盗聴法の拡大につながることを述べるとともに、安倍首相が言している緊急事態条項の創設にも触れています。
 “テロ対策”名目とした共謀罪の新設の策謀なのですがそれは特定秘密保護法、盗聴法の改正、そして超危険な緊急事態条項の創設と相俟って、民主運動を弾圧するのにこれ以上はない一連の武器となるものです。
 
 そうした策動がいま静かに、あるいは部分的には声高に進められようとしています。
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パリ同時多発テロを利用する安倍政権の危険な策謀(後編)
LITERA 2015年11月24日
共謀罪、盗聴法、マイナンバーのセットで「監視社会」実現、憲法に緊急事態条項…安倍政権はヒトラーと同じだ
 
 パリの同時多発テロ事件の余波は、日本にも確実に及んでいる。
 前回、自民党が“テロ対策”の名目で新設しようと目論む共謀罪の危険性について述べた。また、高村正彦副総裁らが言う“テロ対策の国際条約批准のため共謀罪を定める国内法が必要”という主張が、いかにペテンにまみれているかについても説明した。
 おさらいすると、共謀罪とは、実行せずとも、2名以上が犯罪行為について話し合い、合意しただけで摘発されるというもの。ここでいう「合意」とは、たとえ目配せ等であっても、捜査当局や裁判所から“暗黙の共謀”と解釈されうることが、過去に廃案となった法案の国会審議から判明している。その基準は極めて曖昧だ。しかも現在、共謀罪が適用されるであろう犯罪は実に700近くに及ぶ。もちろん“テロ”とは無関係のものがほとんどだ。すなわち捜査当局の恣意的な運用により、人々をいずれかの犯罪の“共謀”に仕立てることで、われわれの思想・良心の自由、言論の自由がいとも簡単に奪われてしまいかねないのだ。
 
 そして、実のところ、安倍政権が熱望する共謀罪は、別の法律・法案と掛け合わせて考えると、おおよそ民主主義国家とは思えない“監視社会”をつくりだすものでもある。後編では、引き続きこの問題に詳しい山下幸夫弁護士の解説を交え、その恐怖の現実を追及していきたい。
 
 まずは視点を替えてみよう。共謀罪は、逆に当局からしてみれば、その前提となる「犯罪行為について話し合う」という行為自体をいかにして把握するのかというのがポイントになる。実はこの夏の国会では、世の中の話題を席巻した安保法制の審議の裏で、あるひとつの法案が国会に上程されていた。通信傍受法、いわゆる“盗聴法”の改正案だ。現行法では薬物、銃器、集団密航の4つに限り警察が電話やメールの通信を傍受することができたが、改正案ではそれを詐欺や窃盗など、一般犯罪にまで拡大しようとしていた。山下弁護士がこう説明する。
「当然、共謀罪を取り締まるためには盗聴が不可欠です。共謀罪の法案が通れば、適用される600から700の犯罪について、すべて盗聴できるようにするため法改正することは間違いないと思います。さらに、今回の通信傍受法改正案には入りませんでしたが、室内盗聴という部屋のなかの会話の盗聴も必要になる。これは会話傍受とも呼ばれます。さらに、街角の防犯カメラも比較的新しいものは、人の声も捕捉することができると言われています。したがって、公園等で会話しているものもすべて記録されてしまうことも考えられる。こうしたかたちで監視が強化されると、そのなかで、共謀にあたる可能性がある、ということで摘発される例がでてくると思います」
 
 さらに、こうした共謀罪、盗聴に関わる情報は、もちろん捜査当局の情報として扱われるが、これに関係するのが昨年12月に施行された秘密保護法だ。防衛、外交、特定有害活動(すなわちスパイ)、テロリズムの4つを「特定秘密」として、これらに関する情報を漏らした公務員に最高懲役10年の罰則を設けた秘密保護法だが、条文が非常に曖昧で、政府により「特定秘密」が恣意的に指定されうると多くの法律専門家が指摘している。さらに市民側も「特定秘密」の取得を「共謀」すると最高5年の懲役が科せられると明記されており、これもまた解釈を拡大して、摘発が濫用される恐れがある。
 
 共謀罪、盗聴法、秘密保護法を接続し、俯瞰するとどうなるか。ひっきょう、市民は言論の自由、プライバシーの権利、知る権利の3つを、がっちりと政府に押さえ込まれてしまうことになる。加えて山下弁護士が警鐘を鳴らすのは、来年1月から開始されるマイナンバー制度の存在。これが全体像を捉える補助線となる。
 
「さらに言えば、マイナンバー制度が来年から動き出しますが、これも実は、国民のさまざまな情報、特に経済的なお金の流れなどを捕捉することができますし、将来的には銀行のお金の流れも把握できるようになります。一応、第三者機関が不適切な運用がないかチェックするとされていますが、警察の捜査に関する場合は、その対象外です。つまり、警察がマイナンバーを捜査に利用することが想定されているわけですね。警察がお金の流れを把握して、これを犯罪の資金として集めていると見なせば、そこには共謀があるはずだと考える」
 決してSFの話ではない。現代ではある種のクリシェとなっている“監視社会”という言葉だが、これは現実に施行された法律、あるいは成立一歩手前の法案の話なのだ。「そういう世界を狙っているのが共謀罪。これができれば、ある意味でほぼ完成形だと思うんです」と山下弁護士は言う。これらは同時に運用されることによって、その本質を見せる。安倍政権は“テロ防止のため”と繰り返すが、それはほんの一面にすぎないのだ。
 
 もっとも、これらすべてが安倍晋三首相の思惑のうちにあるのかと言えば、それは急激に陰謀論に傾くだろう。しかし、少なくとも各法律は、それぞれの官僚組織の要望を反映させたものなのは確かだ。それが結果として何を導くのかについて、考えねばならない。
 これを踏まえたうえで、パリ同時多発テロをきっかけとして再浮上してきた共謀罪新設と前後して、安倍政権が何を目指していたかについて確認したい。
 11月19日、ポータルサイト最大手の「Yahoo!ニュース」に、こんな見出しの記事が踊った──「日本は『非常事態宣言』ができるか 憲法への緊急事態条項創設が課題」。産経新聞の記事だ。
 記事は、フランスのオランド大統領が、パリ同時多発テロ発生後に「非常事態宣言」を発令したことを口火として、日本でも一時的に国民の権利を制限する国家緊急権の必要性を強調する。曰く、日本国憲法には同種の規定がないがゆえに「『テロとの戦い』の欠陥となっている」と。
 
 一方、安倍首相は今月11日、参院予算委員会で来夏の参院選後の改憲について、「緊急事態条項」すなわち国家緊急権の創設を重視すると明言していた。産経は、パリのテロ事件で機を見るに、明らかに安倍政権による改憲を後押しするための世論をつくりだそうとしたと見ていいだろう。
 だが、本サイトでなんども指摘しているように、緊急事態条項はそれ自体が非常に危険なものである。以下、自民党が公開している「日本国憲法改正草案」の当該箇所を抜粋する。
 
《(緊急事態の宣言)
 第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。(後略)》
《(緊急事態の宣言の効果)
 第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対しても必要な指示をすることができる。(略)
  3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。(後略)》
 
 まず、注目すべきは「緊急事態の宣言」は総理大臣の権限として定められているが、国会では事後承認でもよいとされていることだ。事実上、これは与党による内閣の決定だけで緊急事態を宣言することを意味する。そして、ひとたび宣言されれば、内閣はこれまた事実上の“法律”を好きなだけ発令することができ、税金も使い放題、さらに地方自治をも完全に手中におさめることが可能となる。そして、国民は宣言下での「措置」に「従わなければならない」とくる。
 
 山下弁護士はこの緊急事態条項の本質をこう喝破する。
「つまり、首相が『今が非常事態だ』というふうに考え、宣言すれば、憲法が人々に保障している様々な権利を停止することができるのです。しかも何が緊急事態なのかという判断自体が曖昧。しかしその間、法律と同じ効力のある政令をつくるなど、内閣がいろいろなことを勝手に決められる。そういう意味では非常に危険と言えます。人権を停止するということは、例えば集会の自由などもすべて禁止されてしまう。ゆえに国民は何の意見も述べられないし、反対もできない」
 
 この緊急事態宣言を利用すれば、政府は国民の人権を制約する新たな法律に代わる政令をつくることも可能だと、山下弁護士は注意を喚起する。
「これは、まさにドイツでヒトラーがやったやり方です。かつて麻生(太郎・副総理)さんは『ナチスを見習ったらどうか』と言いました。この発言は国家緊急権について言っていたわけです。緊急事態に関する規定をつくることで、一気になんでもやりたいことをやってしまおう、と。非常に怖い。憲法を停止することで、憲法をなし崩しにできるわけですから」
 ヒトラーがワイマール憲法を骨抜きにした、かの有名な全権委任法は、政府に憲法で制限されない特別な立法権を委ねるものだった。一方の自民党草案では、首相は緊急事態宣言をすることで、事実上、立法権を独占する
 
「ですから、本来そういうものを憲法に書くことが自己矛盾と言えます。いずれにせよ、国民が知らないところで一切の反対を許さない状況のなか、なんでも政府がやりたいことを決められるということですから、憲法がないものになってしまう。今回、フランスでは憲法を改正して緊急事態に関する規定を改正しようという動きもありますが、それはある意味憲法の否定にもなりえること。大変危険な状態ですね。とりわけ、日本はいま安倍首相のもとで、非常に独裁的な事柄が起こっている。緊急事態条項を新設すると、本当に大変なことになってしまう。絶対に認めてはいけないと思います」(山下弁護士)
 
 いずれも“テロ対策”が名目となっている共謀罪の新設、盗聴法の改正、秘密保護法。すべて捜査のために市民の人権を制限するものでありながら、恣意的な運用を許す法文上の瑕疵がある。そして、安倍首相自らが名言した緊急事態条項の創設──。
 
 自民党憲法草案のなかには、首相が緊急事態を宣言するシチュエーションのなかに、《内乱等による社会秩序の混乱》が息を潜めている。この抽象的な文言が意味する“最悪のケース”について、われわれは思考を止めるべきではない。 (梶田陽介)