2015年11月21日土曜日

国連人権理の「表現の自由」調査、政府がドタキャン 非常識

 日本ではメディアに対する公権力の介入などがあり、言論・表現の自由報道の自由が危機に晒されています。
 昨年の秘密保護法の強行採決も含めて、そうしたことに関心を持った国連人権理事会表現の自由担当デイビッド・ケイ特別報告者(米カリフォルニア大教授)訪日調査が、直前になって日本政府の意向で延期になりました。
 
 ケイ氏は12月1日から8日までの予定で、特定秘密保護法施行や自民党が昨年の衆院選を前に在京テレビ局関係者を呼びつけた問題など、日本の表現の自由をめぐる状況について、政府関係者らに面談して調査することになっていて、政府は10月に一旦は了承していたのですが、17日になって突然キャンセルになり、ジュネーブの日本政府代表部は何んと来年秋まで延期すると示唆したということです。
 延期の理由は「予算編成作業」のためということですが、それで1年も延期になるということは勿論あり得ません。
 
 まことに非常識で非礼な話です。1年も延期しようとしているのはこの時期に国連の人権理事会調査を受けて、厳しい勧告が出されることを怖れたからとしか考えられません
 国内では多数に任せて強権をふるっていながら、この態度は幼稚極まるものでとても一人前の人間のすることではありません。
 
 「まるこ姫の独り言」と「伊藤和子 弁護士」のブログを紹介します。
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国連の表現の自由調査、政府が突然の延期を申し入れ
まるこ姫の独り言 2015年11月20日
やっぱりこういう事ができるのが安倍政権の真骨頂だ。
国連の”表現の自由調査”が日本政府の突然の要請で、延期されていたと。。。。
 
 <国連人権理事会>  秘密保護法など調査 政府申し入れで延期
            毎日新聞 2015年11月19日
 国連人権理事会で表現の自由を担当しているデビッド・ケイ特別報告者(米カリフォルニア大教授)が、来月1日からの訪日調査を日本政府の意向で延期したと明らかにした。ケイ氏は特定秘密保護法施行や自民党が昨年の衆院選を前に在京テレビ局関係者を呼びつけた問題など、日本の表現の自由をめぐる状況について、政府関係者らに面談して調査することになっていた。
 
 国連の調査が急に延期されるのは異例だそうで、”調査に協力を予定していた市民団体関係者は「特定秘密保護法や、政府によるメディア介入などが取り上げられるのを避けたのではないかと批判している。
 
 安倍政権なら調査延期など、何とも思っていないだろう。
 予算編成作業を理由にしているようだが、この国では、ヘイトスピーチは表現の自由があるからと野放しにして来たが、政権批判したら党本部に呼びつけるような国だ。
 権力を持っている方は常に批判に晒されるのが世の常識だとは思っていないようで、批判を悪口と捉えるのだから始末に負えない。
 政権与党が、メディアに介入するのは越権行為だとは思っていないのか、公の場で、何かあればまた次も行うような発言をしている。
 自民党・安倍政権の常識は世界の非常識を地で行く発想だ。
 
 ジュネーブの日本政府代表部は”2016年秋まで訪問を延期すると示唆した”と伝えて来たそうだ。
 10月段階ですでに日本政府は公式訪問をOKしていたのにもかかわらず、突然のキャンセルはなにを意味するのだろう。
 予算編成が真の理由なら、打診された時に即座に断るだろうし。
 最近の政府は、国連の人権機関からの勧告に従わなかったり日本の意にそぐわない登録をしたとユネスコへの拠出金を凍結するとか、NGOの拠出物資に日章旗を付けるよう指示したり国際的に見てどうなんだろうと思うような事がしばしば起きる。
 
 特定秘密保護法施行の経緯や政府のマスメディア介入など、最近の政府の対応は、国連の人権理事会が調査をしたとすると多分、政府が思っている以上の厳しい勧告が出ることが予想される。
 それを回避するために調査を拒んだとすれば、あまりに幼稚な発想と思わざるを得ないが、今の安倍政権にはそれができてしまうから怖い。
 
 本来なら、マスメディアが真っ先に報道するべきニュースが、ほとんど報道されない。
 報道の自由度が低い国ならではのゆえんだろうが、政府の対応も対応なら、マスメディアの表現の自由に対しての危機意識の無さ、国際感覚の無さも、もはや末期的だ。
 
 
国連「表現の自由」に関する特別報告者が突然来日を延期
日本政府が土壇場でキャンセル
伊藤和子弁護士  2015年11月20日
 、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長 
 突然の公式訪問のキャンセル
国連「表現の自由」に関する特別報告者デビット・ケイ氏(米国人・国際法学者)が、12月1日より8日まで日本への公式訪問調査を予定されていました。 
   (中 略)
国連「表現の自由」に関する特別報告者といえば、2013年に特定秘密保護法が多くの反対を押し切って国会で通過した前後の時期に、前任者であるフランク・ラ・ルー氏が、国民の知る権利や報道の自由を脅かす危険性がある、ということで強い懸念を表明し、日本政府に対して再考を求めたにもかかわらず、政府がこうした国連の声を全く顧みずに、採決に進んでしまった経緯があります。 
それに加え、最近日本では、メディアに対する公権力の介入とみられる事態が続き、戦後かつてないほど、言論・表現の自由・報道の自由が危機に晒されているといえるでしょう。
こうした状況もあり、国連「表現の自由」に関する特別報告者の来日はまさに時機を得たものだと言えるでしょう。 
ところが、驚いたことに、つい最近になってこの公式訪問が日本政府の都合でキャンセルになったとのことです。 
前代未聞のことで私はとても驚きました。 
ケイ氏自身が11月18日付のTwitterでDisappointedとこのキャンセルについてつぶやき、多数リツイートされるなどして既に国際的にも問題になっています。 
 
 どうしてキャンセルなのか
ではどうしてキャンセルなのでしょうか。デビット・ケイ氏本人が事情を説明しています。 
彼のブログを英語ですが紹介しましょう。 
   (中 略)
・・これを和訳してみますと、 
「10月に国連総会第三委員会でプレゼンテーションをした際、私は日本政府が、12月1日から8日にかけての私の公式訪問に対する招待を日本政府から受け取ったことをアナウンスすることが出来た。この訪問は、国連自由権規約委員会が昨年懸念を表明した2013年制定の「特定秘密保護法」の実施、インターネット上の権利、報道の自由、知る権利などの日本の表現の自由に関する一定の側面を評価する重要な機会となりえただろう。」
 
この文章は以下のように続きます。 
   (中 略)
・・これを和訳してみますと、 
私たちは、会合の設定や訪問準備に深く関与してきた。先週金曜日、残念ながら、ジュネーブの日本政府代表部は、関係する政府関係者へのミーティングがアレンジできないため、訪問は実施できないと伝えてきた。日本政府は、2016年秋まで訪問を延期すると示唆した。私は日本政府当局に対し、彼らの決定を再考するように要請した。しかし、ジュネーブの日本政府代表部は昨日、公式訪問は実施できず、今やキャンセルされたと確定的に伝えてきた。 
 
 浮かび上がる疑問
しかし実に不思議な話です。10月段階ですでに日本政府は公式訪問をOKしていたのです。その段階で、ミーティングがアレンジできないという事情はなかったはずでしょう。そのような事情があれば、OKを出す前に伝えるはずです。 
実は福島原発事故後に国連「健康に対する権利」特別報告者のアナンド・グローバー氏が来日調査を行いましたが、2011年秋に訪問したいと言ったところ、日本政府は「まだ震災復興で日本全体が大変な状況で、対応できません」と述べて一年延びたことがあります。 
今回は特にそのような事情もなく、10月時点でOKを出していたわけで、なぜ事情が変わったのでしょうか。 
 
また、12月1日から8日までという長い間いるわけですから、政府関係機関とのミーティングがアレンジできないというのも不思議な話です。表現の自由を所轄する政府機関はどこで、誰が会えない、会いたくないといったのだろうか、というのも疑問です。 
政府一丸となって、国連と会わないぞ、という姿勢を徹底しているのでない限り、会えないという理由を合理的に説明することは困難なように思われます
 
共同通信等の配信記事によれば、 
外務省は「予算編成などのため万全の受け入れ態勢が取れず、日程を再調整する」と説明している。 
とのことです。しかし、外務省のウェブサイトを見る限り、ひっきりなしに要人が訪れ、もっと予算に関わりそうな話を展開している模様。なぜこの件だけ、事前にOKしたのに、予算を理由に断るのか、理解が出来ません。 
そして、予算が理由であれば、なぜ来年秋までひっぱる理由もないはずで、もっと早期にリスケジュールできるはずです。 
是非、国会で背景事情を質問するなどして聞いていただきたいところですが、臨時国会も開催されていないため、何もできない状況で、様々な意味で日本の現在の状況を象徴する事態となってしまっています。 
 
 民主主義国として極めて異例な対応
日本は、国連の特別報告者によるいかなる調査も受け入れるオープンな国であるという表明を2011年に出しており、このことは国際社会から高く評価されてきました。 
ところが今回、国連の公式訪問に対して正式なInvitationを出しておいて、2週間前に断るという、通常あり得ないことになったわけです。独裁国家ならいざ知らず、国連と合意した公式訪問調査日程をドタキャンするというのは普通の民主主義国、人権を大切にする国ではほとんど例を見ない、極めて遺憾なことです。 
 
近年、日本政府が国連の人権機関からの勧告に従わないどころか、敵対的な姿勢を示すことがしばしばであり、国際的にも問題視されつつあります。そうした歴史に新たな負の一ページをつけ加えてしまうことはとても残念です。 
特定秘密保護法や政府の言論介入など、最近の政府の対応に対しては、厳しい勧告が出ることが予想されますが、仮に、厳しいことを言われたくないので調査を拒んだとすれば、あまりに幼稚というべきではないでしょうか。 
日本政府には国際社会との人権に関する対話の道を閉ざす方向に進んでほしくない、と切に願います。 
また、国連特別報告者の来訪というのは大変貴重な予算や資源を使った重要な機会であるのに、それを無駄にしてしまったということも考えてみなければならないでしょう。 
 
表現の自由に関しては、日本以外にもとても深刻な問題を抱えている国もあります。こんな直前のドタキャンでなければ、ほかの国に行けたかもしれないのに、結局貴重な訪問枠を潰してしまったことになるわけです。 
海外の深刻な言論弾圧に関する活動もしている私たちヒューマンライツ・ナウとしては、そうしたことにも思いを馳せざるを得ません。 
 
 メディアこそ、もっと取り上げるべきでは。
ケイ氏のブログはこのように終わっています。 
   (中 略)
和訳すれば・・
もちろん、私も新しい訪問日程のスケジュールが決まることを希望する。同時に、日常的な意思疎通や、ジュネーブ、ニューヨークでの会合やその他の機会を通じて、日本政府には他の政府と同様に関与を継続していく。 
とのことです。 
 
NGOの間でも外務省に問い合わせたり、早期訪問を求めるなど、相談をしているところです。 
しかし今回の問題はメディア、表現の自由に関わること、日本のメディアこそが、こうした事態をきちんと報道したほうがいいのではないでしょうか。 
そもそも、高度な言論・表現の自由が保障されてきた日本で、報道の自由、言論の自由が危機的な状況に陥り、国連が心配して調査に入るような事態になってしまったこと自体深刻に受け止めるべきです。そして、その調査についても政府が突然ドタキャンしてしまう、そのような動きも報道せず、スルーするということで、果たして権力へのチェック機能がきちんと果たせるのでしょうか。 
政府のあり方も、メディアのあり方も、問われています。