2015年9月3日木曜日

岡山大、弘前大、国際基督教大 教職員有志の安保法案反対声明

 憲法研究者共同ブログに改めて投稿された上記3大学の声明文を紹介します。
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安全保障関連法案に反対する岡山大学有志の会 声明文
 
 安全保障関連法案が衆院本会議で強行採決されました。集団的自衛権の行使を認める本法案は他国の戦争への荷担につながり、平和国家としての日本のあり方を大きく変えるものです。私たちはこれに強く抗議し、法案の撤回を求めます。
 
1 民主主義とは、議会での多数者の支配を無条件に認めることではありません。私たちは、多様な意見に耳を傾ける政治を求め、立憲主義に基づく民主主義を要求する全国的な抗議の声に連帯を表明します。
2 私たちは「高度な知の創成(研究)と的確な知の継承(教育と社会還元)を通じて人類社会の発展に貢献する」という岡山大学の理念にもとづき、大学人として社会的責任を全うするために行動します。
3 学問は人類が長きにわたって継承・発展させてきた人類共通の財産です。私たちはこれを世界の平和と人々の共存のために用いるべきだと考え、二度と戦争に利用することを認めません。
4 岡山大学は戦前、歩兵第十連隊などの駐屯地でした。多くの若い兵士がこの地から出征し、命を失いました。アジアの戦地でも、住民に多大な損害を与えました。私たちはこの負の歴史を見つめ、被害と加害の悲劇を二度と繰り返さないと誓います。
5 岡山大学で学ぶ私たちは、いま戦争への道が開かれるのではないかという不安を抱いています。戦後70年をへて、あたりまえの日常だったこの平和をいかに未来へとつなげていくのか、ともに集い、自らの問題として考え、声をあげ続けていきます。
私たち岡山大学の教職員・学生有志は、ここに安全保障関連法案への反対を表明します。
2015年8月21日
安全保障関連法案に反対する岡山大学有志の会
呼びかけ人・賛同人の名簿は省略します
 
安保関連法案の法制化に反対する弘前大学教員有志アピール
 
今、国会で安保関連法案が成立しようとしています。法案が成立すれば、平和国家・日本の根幹が揺らぎかねません。
 
今回の議論の手法は、あまりにも乱暴です。多くの国民が慎重に審議することを求めています。憲法学者の大多数だけでなく、複数の元内閣法制局長官ですら違憲であると指摘しています。そもそも、この法案がなぜ必要なのか、この法案が成立することによって自衛隊員や日本の人々が攻撃対象になりやすくなる可能性はないのかについて、十分かつ誠実な説明がなされたとは言えません。
 国会で多数の議席を占めていると言っても、主権者や専門家の声に耳を傾けず、野党の質問をはぐらかして誠実に説明しようとしない姿勢は、立憲主義や民主主義の精神とは相容れるものではありません。
 
この法案が成立すれば、自衛隊の役割が大きく変わり、海外での自衛隊の活動範囲や活動内容が大幅に広がる可能性があります。国際関係が決して良好とは言えない東アジアでは対立があおられることも考えられますし、自衛隊が活動する地域でも日本に対する感情が悪化する可能性があります。この法案によって、日本の人々がかえって危険にさらされるおそれがあります。
 
これまで長年積み重ねられてきた政府解釈に従えば、今回の法案は憲法9条に違反します。したがって、憲法改正の手続を経てもいないのにこの法案を成立させることは、許されません。私たちは、真理を探究し教育を担うものとしてこの法案を憂慮する多くの人々の声に耳を傾けるものであり、世論はこの法案に強い懸念を持っていることを感じています。平和だからこそ大学の研究や教育は成り立ちます。そのため、戦後日本が守ってきた専守防衛を逸脱させ、憲法9条に反するこの法案を撤回することを求めます。
2015年8月1日
呼びかけ人・賛同人の名簿は省略します
 
国際基督教大学教職員有志声明
安全保障関連法案の撤回を求める
 
1. 安倍政権の強行採決に抗議する
 国際基督教大学は、第二次世界大戦終結直後、再び戦争の惨禍を繰り返してはならないとの切実な願いから、世界平和を願う日本とアメリカのキリスト教会および数多くの民間人の寄付によって「明日の大学」として設立された。このような献学の経緯をふまえ、私たち教職員有志は、将来の日本、東アジア、世界に禍根を残す怖れのある安全保障関連法案の撤回を強く求めたい。
 この間の審議を見ると、安倍政権の答弁は誠意と責任ある説明からはほど遠く、審議すればするほど問題点が噴出した。国民の大多数が今国会での可決に疑問を覚える中での強行採決は、民意を無視した国会内の「多数者の専制」であり、議会制民主主義を葬り去る暴挙と言わざるを得ない。一連の安保法案および、その審議過程は、立憲主義・民主主義・平和主義を根底から覆しかねないものであり、参議院での建設的な審議による法案の撤回もしくは廃案を求めたい。
 戦後日本は、憲法9条の下、政府として非戦型安全保障を追求してきたのであり、自国への侵攻という極限・例外状況においてのみ、「専守防衛」(個別的自衛権の発動)という必要最小限の自衛力を行使する基本的政策を維持してきた。平和憲法は同時に、アジア・太平洋地域で1500万人から2000万人といわれる犠牲者(数は未確定)を出し、自国でも310万人の戦死者を出した先の「十五年戦争」への悔恨に基づき、多数の国民の合意の下で選択した戦後の基本方針であった。それはまた、一面、その戦争で日本の侵略によって多大な惨禍を受けたアジア・太平洋諸国の政府と国民に対する戦争謝罪と戦争責任の取り方、国際社会に対する責任の履行をも意味していた。
 この「平和国家」の路線が、今や葬り去られようとしている。集団的自衛権行使を容認するこれら一連の法案は、自衛隊が地域的限定を越えて世界各地に派兵される大きな危険をはらんでいる。同時に、軍事的脅威に対して軍事力で対抗するその参戦型安全保障政策は、東アジアや世界に政治的緊張を強いることになる。それはまた、戦後日本が培ってきた「非戦国家」としての世界規模の信頼をみずから打ち壊す行為でもある。
 
2. 立憲主義と民主主義の否定は許されない
 この安保法案は、日本を「戦争する国」へと変え、戦後70年の夏にこの国を引き返せない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)に追い込むものである。
 現政権は国会で多数を占めることで、以下の点で、立憲主義と民主主義を無視しているように思われる。(1)内閣法制局長官を恣意的に交代させる。(2)長年にわたって踏襲されてきた政府の憲法解釈を一片の閣議決定によって葬り去る。(3)国会審議の開始前に今回の安保法案の成立を対米公約する。(4)安保法案の違憲性を指摘する専門家の良識ある声を無視する。(5)憲法59条4項による60日ルールの適用を可能にするため、国会の会期を95日間も延長し、強行採決への下地作りをする。(6)法案の実質的審議の深まりとは関係なく時間が来たという理由で強行採決を断行する。
 いま、私たちが目にしているのは、国家権力に縛りをかける立憲主義そのものを破壊する憲法無視の政治である。それだけでなく、議会制(間接)民主主義と民意(直接)民主主義の双方を破壊しかねない政治である。
 民主主義を成り立たせている表現の自由、国民の知る権利の保障に不可欠の報道機関の報道の自由に対して、脅迫的放言が政権与党の国会議員たちの研究集会においてなされたという事態も震撼に値する。この件は、そもそも表現の自由への政権与党の無理解をはからずも露呈する事件だった。現政権が、対米公約を優先させ、国民の声に耳を傾けることなく、安保法制の強行突破のみを念頭に置いているのは、民主主義の破壊でしかない。
 
3. 日米同盟の強化より平和育成に全力を注げ
 日本は平和憲法の下、平和路線を維持しつつ、「人間の安全保障」に世界各地において寄与し、国連平和維持活動にも1992年以降、専ら非軍事の分野で貢献してきた。
 現政権の諸政策には、高圧的で右傾化の印象を国内外に与え、軍事的対立を招来しかねないものがいくつかある。近隣諸国との関係は今回の強行採決によりさらに悪化し、日中韓3国が協調し、東アジアの平和と安定に寄与する将来的見通しは残念ながら遠ざかるおそれがある。
 日本は平和を熱心かつ効果的に支援し育成する国として世界的に高く評価され、その面でのさらなる国際貢献が期待されている。政府には、従来からの非軍事と国連との連携を基軸とした平和路線を堅持しつつ、近隣諸国との共通利益を把握し、信頼醸成、予防措置、平和外交に基づく安全保障協力を追求してほしい。
 さらに重要なことは、視座を世界に広げ、日本が1998年以降、力を入れてきた「人間の安全保障」と、世界的変容に対応して生まれた「協調的安全保障」を基盤にして、新しい平和育成国家日本のビジョンを構想し実践することである。国連のグローバル公共政策を基軸に、各国政府、議会、自治体、市民社会、企業と連携し、核兵器廃絶を含む軍縮をはじめ多彩な平和育成活動を目指す日本発のキャンペーンが急務であると私たちは考える。それにより平和の配当を創出し、紛争防止、平和構築、沖縄その他世界各地の外国軍基地削減、持続可能な開発、極度の貧困の解消、子どもの教育の普及、ジェンダー間の平等の達成、富の分配面での格差是正などに振り向けることこそが、本来の積極的平和イニシアティブであると考える。
 
 第二次世界大戦への深い反省、キリスト教平和主義の理念、世界人権宣言の原則に立って献学された国際基督教大学で教育研究の推進に携わる者として、今回の法案がかかえる一連の問題は到底看過できるものではない。安倍政権の衆議院での強行採決に強く抗議し、法案の撤回を求めたい。
2015年8月20日
国際基督教大学教職員有志
呼びかけ人・賛同人の名簿は省略します