2015年6月6日土曜日

安保法案を全参考人に「違憲」と指摘されて

 4日衆院憲法審査会自民党が推薦した長谷部恭男早稲田大教授を含む憲法学者3人が、いずれ安全保障関連法案は「憲法違反」と断言しました。
 いつでも、どこででも、アメリカが行うあらゆる戦争に参戦できるようにしようという、安全保障関連法案が憲法9条に違反していることはあまりにも明らかなことです。
 
 しかし改めて指摘されてみると、政府・与党にとって今後の進め方に当然支障が生じるので、長谷部氏を参考人に選任した自民党の船田元自民党憲法改正推進委員長は党の幹部から叱責されたということです。
 先の特定秘密保護法制定の際に、憲法学の泰斗であった長谷部東大教授(当時)が自民党側の参考人として国会で賛成意見を述べた時には、当然反対側に与すると考えていた世間に衝撃を与えました。
 多分船田氏はそうしたことから、此の度も自民党に都合の良い見解を表明するものと思い込んだものと思われます。(^○^)
 
 菅官房長官は早速「昨年月の閣議決定は、有識者の結論をもとに与党で協議して行ったもので、違憲との指摘はあたらない」と弁明しました。しかし首相の単なる私的懇談会の結論が、憲法学の権威たちのそれに対置できる筈もありません。
 
 5日の国会審議では俄然野党が安保法制批判の勢いを強めました。
 中谷防衛相は、「昨年7月の閣議決定は、それまでの憲法条をめぐる議論との整合性を考慮したものであり、行政府における憲法解釈として裁量の範囲内と考えている」と、これまた的外れな説明を繰り返しました。
 
 自民党の高村正彦副総裁は5日午前の役員連絡会で「憲法学者はどうしても戦力不保持を定めた憲法項の字面に拘泥する」と反発したということですが、憲法や法律を、文面に即して解釈することはあまりにも当然のことであって、何を言っているのか理解できません
 安保法案に関する与党協議の座長を務めた高村氏は昨年3月に党内で講演し「自国の存立に必要な自衛措置は認められる」とした砂川事件の最高裁判決を引き合いに、そこでは個別自衛権と集団的自衛権の区別をしていないので「政府この法理に基づいて必要最小限度の自衛権はあると言っている」という珍妙な主張をしています。
 砂川事件の最高裁判決は、今日、当時の田中耕太郎長官がアメリカの圧力に屈して出されたものということが明らかにされていますが、高村発言はその判決のまさに「片言隻句」を歪曲して取り上げた笑止なものでした。
 
 それに比べると、北岡伸一がニューヨークタイムズに投稿した、「憲法9条2項陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めていることについて、「このような制約を自らに課している国はない」と指摘し、安全保障関連法案が成立しても自衛隊は専守防衛の組織であり続け、主要国中で最も制約の多い軍事組織のままだとし「日本が必要な軍事力を確保するには、まず9条2項を改正する必要がある」という主張は、まだしも9条2項が優先されると評価したもので、議論としては正当です
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「解釈変更は政府裁量内」 防衛相、立憲主義を軽視
東京新聞 2015年6月5日
 他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案に関する衆院特別委員会は五日午前、関係閣僚に対する一般質疑を行った。衆院憲法審査会が参考人に招いた憲法学者三人が憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認は違憲だとの見解を示したことを受け、民主党の辻元清美氏は法案の撤回を迫った。中谷元・防衛相は憲法解釈の変更は政府の裁量の範囲内だと反論した。
 
 憲法解釈を一内閣が変更することは、憲法により国家権力を縛る「立憲主義」に反するとの指摘が強い。中谷氏の発言は立憲主義を軽視しているとの新たな批判を呼ぶ可能性がある。
 
 辻元氏は、四日の衆院憲法審査会で与党推薦を含む参考人全員が安保法案を違憲だと明言し、全国の憲法学者二百人近くが法案に反対する声明を出していることを指摘。その上で「法案の根幹が揺らいでいる。政府は撤回した方がいい」と求めた。
 これに対し、中谷氏は集団的自衛権の行使は「国の存立を全うし、国民を守るためのやむを得ない自衛の措置に限られている」と説明。昨年七月の閣議決定による憲法解釈変更は「従来の基本論理を維持したもので、立憲主義を否定してない。憲法解釈(変更)は行政府の裁量の範囲内と考え、これをもって憲法違反にはならない」と述べた。
 
 四日の衆院憲法審では集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」の認定基準があいまいとの指摘も相次いだが、中谷氏は「どういう事態が該当するかは、その時点で判断する」と説明。憲法学者がそろって違憲と明言したことについては「政府として立ち入るべきではないが、出席者がさまざまな角度から意見を開陳した」と述べるにとどめた。
 辻元氏は、自衛隊員の服務の宣誓に「憲法、法令を順守し、身をもって責務の完遂に務める」という文言があることに触れ、「憲法学の権威ある人たちが口をそろえて違憲だと言う状態で、隊員に命を懸けて、他国のために戦えと言えるのか」と追及した。
 
 審議に先立つ理事会では、民主党の長妻昭代表代行が法案の合憲性に関する与党側の見解を明確にするように求めた。長妻氏は「与党が推薦した憲法学者すら違憲だと言っている。与党は腹の底では違憲だと思っているがやっちまえと法案を出しているとすれば茶番だ」と記者団に説明した。
 
◆中谷元・防衛相の答弁要旨
 (集団的自衛権の行使を認めた)昨年の閣議決定は、これまでの憲法九条をめぐる議論との整合性を考慮したものであり、行政府における憲法解釈として裁量の範囲内と考えており、違憲の指摘は当たらない。これまでの憲法解釈の基本的な論理を維持したものであり、立憲主義を否定するものではない。
 
 
「学者は9条字面に拘泥」 高村氏、参考人に反発
東京新聞 2015年6月5日
 安全保障関連法案をめぐり、衆院憲法審査会で憲法学者三人が憲法違反との見解を表明したことに対し、自民党の高村正彦副総裁は五日午前の役員連絡会で「憲法学者はどうしても(戦力不保持を定めた)憲法九条二項の字面に拘泥する」と反発した。高村氏は法案に関する与党協議の座長を務めた。
 
 谷垣禎一幹事長も記者会見で「憲法学者には自衛隊の存在は違憲と言う人が多い。われわれとは基本的な立論が異なる」と反論した。
 
 菅義偉(すがよしひで)官房長官は午前の記者会見で「(憲法解釈を変更した)昨年七月の閣議決定は、有識者に検討いただき与党で協議を経て行った」と指摘。その上で「現在の解釈は、従来の政府見解の枠内で合理的に導き出すことができる。違憲との指摘はあたらない」と重ねて強調した。
 
 
北岡伸一氏がNYT紙に寄稿 「9条2項のような制約課す国ない」
産経新聞 2015年6月5日
 戦後70年の安倍晋三首相談話に関する有識者懇談会で座長代理を務める北岡伸一国際大学長は4日、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に寄稿し、日本は憲法9条の改正が必須だと主張した。
 
 北岡氏は、憲法9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めていることについて「このような制約を自らに課している国はない」と指摘。安全保障関連法案が成立しても自衛隊は専守防衛の組織であり続け、主要国中で最も制約の多い軍事組織のままだとして「日本が必要な軍事力を確保するには、まず9条2項を改正する必要がある」と主張した。
 
 北岡氏は9条2項が「国連憲章で保護されている個別的、集団的自衛権を認めるように修正されるべきだ」と述べ、「憲法の穏当な見直しで日本は普通の国への一歩を踏み出せ、国際秩序を一層効果的に守れる国になる」と持論を展開した。