2015年3月22日日曜日

クリミヤ訪問問題 何故一方的な批判になるのか

 日本のマスメディアの報道姿勢は、欧州などと同様に、アメリカの目線に沿わせるということで統一されていますが、それは日本の政府や官僚などの体制側がそうであるからということに他なりません。メディアが体制側に付き従うということは何よりも避けるべきことですが、現実はもう久しくそうなっています。
 そしてその傾向は恐ろしいまでに激しくて、鳩山由紀夫元首相のモスクワ・クリミヤ訪問に同行した高野孟(はじめ)氏は、「政府、与野党、マスコミ挙げてのバッシングは常軌を逸している。政府に対する一切の異論を許さない戦時下の統制社会の再来を思わせる」と述べています。
 
 日本が戦時中に「挙国一致」の画一的な状態になってしまったことについて、戦後、それは国民の中でまだ「民主主義」が十分に育っていなかったからだとか、天皇制や軍部の力が強すぎたからだとか、旧憲法下の政府によってメディアが沈黙させられたからだというような総括が行われましたが、平時におけるこの状況を見るとどうもそうしたことだけではないように思われます。
 
 ウクライナやクリミヤは日本から遥かに離れたところの話なので、もっと冷静で多面的な見方があってもよい筈なのですが、なぜこうまで画一的、一面的になるのでしょうか。ここでも例の不可解な「同調圧力」が働いているようです。
 
 高野氏が「なぜ鳩山元首相だけが叩かれるのか」を日刊ゲンダイに載せました。以下に紹介します。
 また植草一秀氏も、ウクライナ~クリミヤ問題について、歴史的背景に触れながら、やはり国内の論調が一方的になっていることを批判していますので、併せて紹介します。
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なぜ鳩山元首相だけが叩かれるのか 永田町の裏を読む 
 高野孟 日刊ゲンダイ 2015年3月19日
 鳩山由紀夫元首相のクリミア・モスクワ訪問に対する政府、与野党、マスコミ挙げてのバッシングは常軌を逸していた。「軽率」「迷惑」くらいならまだしも、「国賊」「日本人ではない」「パスポートを取り上げろ」などの言葉までが飛び交い、行く先々で待ち構えたメディアが「どう責任をとるんですか!」とマイクを突き付ける。自宅には連日、右翼の街宣車が押しかける。
 この騒ぎは、政府に対する一切の異論を許さない戦時下の統制社会の再来を思わせるものだった。
 
 とはいえ、鳩山に同行した私や新右翼団体「一水会」の木村三浩代表、それに昨夏クリミアを訪れて「ロシアの実効支配の下でクリミアは平穏」などと最近の週刊文春で2回続きのリポートを書いた池上彰などは、とくに名指しの攻撃に遭っているわけではない。やはり「元首相たるものが政府の方針に逆らう言動をするのはけしからん」というに尽きるのだろう。
 
 しかし、民主党政権の首相だった彼が自民党政権の言うとおりにしなければならないという法はないし、むしろ「元首相であって今は一民間人」であるからこそ、膠着しきった日露の外交関係改善の糸口を政府とは別の角度から探るという役割もあって、それはまたひとつの責任の果たし方なのではあるまいか。
 米大統領を辞めてからのカーターが、北朝鮮はじめ難しい国や地域を訪れて解きほぐし役を務めている例もある
 
 総じて日本の外交は建前ばかりにしがみつく「一枚板」でしかない。建前はそうでも、一枚めくるとちゃんと裏パイプでの本音ベースの模索は続いていて、さらにもう一枚めくると最後の落としどころは密かに用意されているという具合に、どの国も二枚腰、三枚腰でやっているのが外交というものである。
 
 とりわけウクライナ危機とクリミア問題をめぐっては、日本では、米欧の立場から見た「ロシアが悪い」一本槍の情報しか流れていない。安倍晋三首相は、せっかくプーチン大統領と親交を積み上げて北方領土問題を打開するチャンスを手にしておきながら、極めて安易かつ軽率に米欧の対露経済制裁に馳せ参じてしまい、身動きがとれなくなっている。
 西側の言い分はそうとして、ではロシア側はどういう言い分で、現地の実情はどうなのかを探りに元首相が出かけて行くというのは十分、国益に沿ったことだと思うのだが、それが通じないのがこの国だ
 
 なお、鳩山、木村、私ほかの共著「ウクライナ危機の実相と日露関係」(花伝社)が今週発売された。この問題に興味があれば、ぜひご一読いただきたい。
 
▽〈たかの・はじめ〉1944年生まれ。「インサイダー」「THE JOURNAL」などを主宰。「沖縄に海兵隊はいらない!」ほか著書多数。
 
 
鳩山元首相への激しい攻撃は巨大影響力の証し
植草一秀の「知られざる真実」2015年3月20日
鳩山友紀夫元首相がクリミアを訪問して現地の住民の受け止め方を視察した。
現地で住民の声を聞いて、すべてが分かるわけではないが、百聞は一見に如かずとも言う。
現地に入って、自分の目と耳で現実を確かめるという手法の意義は否定されるものではない。
 
ウクライナで政変があった。
この政変によって樹立された政権については、その正統性について疑義がある。
このことが背景にあり、クリミアでは住民投票により住民の意思が確認されてロシアへの編入が決定された。
このことについて、クリミアのロシア編入に反対する勢力が、ロシア編入の正統性を認めていない。
しかし、そもそも、問題の原点にあるウクライナの政変についての正統性認定に疑義があるのだから、ウクライナのロシア編入の正統性についても意見対立が生じるのは当然のことであると言えるだろう。
日本がウクライナのロシア編入を認めていないのは、米国がこれを認めていないからである
 
クリミア併合後、米国はロシアへの制裁を決めた。
ロシアとの経済的結びつきが強く、ロシアが供給する天然ガスへの依存度が高い欧州は渋々米国主導の対ロシア経済制裁に従ったのである。
 
安倍政権は鳩山元首相のクリミア訪問について、ロシアによるクリミア併合を認めない立場から激しく非難している。
菅官房長官は、
「総理まで経験した政治家として、あまりにも軽率で極めて遺憾。厳しく批判したい」
と口汚くののしった。品格を欠く発言である。
安倍氏も菅氏もクリミアのロシア編入について、力による国境線変更で正統性がないと主張するが、歴史的に見れば、「領土保全」と「民族自決」のせめぎ合いは数多く存在し、クリミアのロシア編入を国際法違反と断じることはできない
日本のメディアは、対米追従報道を展開するだけで、もっとも重要な「真実」、あるいは「現実の多様性」をまったく伝えない。
メディアが激しく鳩山元首相を攻撃するのは、鳩山元首相の行動が米国隷従ではないこと、そして、鳩山元首相の影響力が依然として極めて巨大であることを如実に示す証左になっている。
 
「【日米激怒】 鳩山クリミア訪問、モスクワ在住の識者はどう見てる?」
にも記述があるが、そもそも、ウクライナ自身が、住民の判断で旧ソ連からの分離独立を勝手に決めた経緯を有する。
ウクライナ最高会議がソ連からの独立を宣言したのは1991年8月24日。
ソ連が崩壊したのは1991年12月25日である。
ウクライナはソ連崩壊の4ヵ月前に「中央政府の意志に反して一方的に」独立を宣言したのである。そして、1991年12月1日に「住民投票」を実施して、「独立」についての住民の承認を得た。
この行動は、当時の中央政府であるソ連政府の意思に反して行われたものである。
このウクライナが、クリミアの行動を非難することができるのか。
このウクライナが、クリミアの独立を国際法違反と避難できるのか。
 
多くの日本国民は、偏った情報しか入手できていない。
日本のメディアが偏っているから、その偏った情報だけが耳に入り、市民は知らぬ間に「洗脳」状態に陥ってしまっているのだ。
日本のメディアに良心と能力があれば、ものごとについて、多面的、かつ、正確な情報を提供するだろう。
ところが、日本のメディアの大半がコバンザメ、あるいは、茶坊主のような存在ばかりであるため、ものごとについての正確、かつ、多面的な情報を提供できないのである。
 
ウクライナは旧ソ連崩壊後、東側と西側の対立の前線に立たされてきた国家である。
このために、ウクライナの政情そのものが不安定で、政治権力も右に振れ、左に振れてきた。
ヤヌコヴィッチ政権は親露政権であり、米国にとっては邪魔な存在であった。
米国はCIAなどの諜報機関をも活用して、ウクライナのヤヌコビッチ政権の転覆工作を執拗に仕掛けてきたと見られている。
その結果としてヤヌコビッチ政権が転覆され、ポロシェンコ政権が樹立されたわけだが、基本的には欧米西側陣営の傀儡政権であると言える。
クリミアの住民の多くがロシア系であり、住民多数がウクライナの政変に賛同していない。
この住民が住民投票を実施して、クリミアのロシア編入を決定したのである。
したがって、絶対に一方が正しく、絶対に他方が間違っていると判断すること自体が間違いなのである。
 
米国のポチ政権が米国の言いなりに行動するのは、むべなるかなというものだが、すべての日本国民が米国のポチになる必要など微塵も存在しない。
鳩山友紀夫元首相は、米国の言いなりにはならない、この国では稀有の、独立自尊の気概を持つ政治家である。
だからこそ、米国も米国のポチも鳩山友紀夫氏を恐れているのである。
鳩山元首相に対する、常軌を逸した批難攻勢は、図らずもこの真実を浮き彫りにするものになっている。
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