2015年2月19日木曜日

「人質救出に自衛隊」は無責任 と自衛隊機関紙も指摘

 イスラム国に人質が拘束されたことが明らかにされたときに、安倍首相は好機とばかりに「こうした人質を救出するために自衛隊を海外に派遣し、そこで制約のない行動を取れるようにする必要がある(要旨)」と強調しました。
 
 しかし独立国が他国の軍隊の入国を許可する筈はないし、仮に入国できたとしても所在地すら分からない人質を救出することが出来る筈もありません。単に人質を危険に晒すだけのことです。
 
 勿論憲法の制約があるので元々不可能なことなのですが、仮にその制約が取り払われたとしても、「なんとまた非現実的な、乃至は幼稚な考えなのだろうか」というのが、殆どの人たちの率直な感想だったと思います。
 
 LITERAによれば、自衛隊の機関紙に相当する週刊新聞『東雲』が、「人質救出に自衛隊は無責任と」する記事を掲げたということです。
 総理大臣は自衛隊の“最高指揮官”に当たります。その人物から無茶苦茶な話が飛び出したとなるとさすがに無視したままでは過ごせないと判断したのでしょう。
 しかしながらモロに首相を批判するわけにも行かないので、「そういう間違った質問が出た」という話にすり替わっているというのには笑わされますが、この問題は「そういう人をトップに持つと・・・」というような話では済ませられないことです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自衛隊の機関紙が安倍首相の非現実的安全保障政策を批判!
「人質救出に自衛隊」は無責任と
LITERA 2015年2月18日
「朝雲」は1952年に警察予備隊(自衛隊の前身)の機関紙として創刊された日本で唯一の自衛隊専門紙だ。現在は民間の朝雲新聞社に発行元が委譲されているものの、今も防衛省共済組合を通じた自衛隊内での購読がほとんどで、紙面も自衛隊の訓練・活動報告や隊員の寄稿が中心。事実上の自衛隊機関紙といっていいだろう。
 その「朝雲」が連日の国会での机上の空論のような安全保障論議が聞くに堪えなくなったのか、チクリと安倍政権批判を展開し、防衛関係者の間で話題となっている。
「朝雲」は毎週木曜日発行で、問題のコラム「朝雲寸言」が掲載されたのは先週2月12日付の紙面だった。
 
〈過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件は残念な結果となった。悔しい気持ちはわかるが、自衛隊が人質を救出できるようにすべきとの国会質問は現実味に欠けている。〉(同コラムより)
 と、書き出しからいきなり「国会質問は現実味に欠ける」とバッサリ。以後、軍事力による人質救出がいかに不可能かが論理立てて書かれている。
 それによると、米軍が昨年、米国人ジャーナリスト救出のために精鋭の特殊部隊「デルタフォース」を送り込んだが、そもそも人質の居場所さえ突き止められずに作戦は失敗したという。米軍は当然「イスラム国」の通信を傍受し、ハッキングも駆使しながら情報収集してもダメだった。さらには地元協力者を確保し、方言を含めたあらゆる言語を操れる工作員を潜入させていた。米軍の武力行使は自衛隊と違って制限がない。それでも、人質を救出はできず失敗した。
 
 〈国会質問を聞いていると、陸上自衛隊の能力を強化し、現行法を改正すれば、人質救出作戦は可能であるかのような内容だ。国民に誤解を与える無責任な質問と言っていい。〉(同コラムより)
 文章の名目上、批判の矛先は「質問者」に向けられる形になっているが、真のターゲットが安倍晋三首相であることは疑いない。なにしろ、「人質救出に自衛隊を」と言いだしたのは、安倍首相本人だからだ。事件発覚直後の1月25日、NHKの『日曜討論』に出演し、通常国会での安全保障と集団的自衛権関連法案の成立に向けた意気込みを問われ、いきなりこう言いだしたのだ。
 
 「この(テロ殺害事件)のように海外で邦人が危害に遭ったとき、自衛隊が救出できるための法整備をしっかりする――」
 
 大手メディアはほとんどスルーだったが、とんでもない発言だ。安倍首相の頭の中では安全保障や集団的自衛権とテロ人質事件がごっちゃになっているようなのだ。その点、前出のコラムは論点をきちんとこう整理している。
 〈これまで国会で審議してきた「邦人救出」は、海外で発生した災害や紛争の際に、現地政府の合意を得たうえで、在外邦人を自衛隊が駆け付けて避難させるという内容だ。今回のような人質事件での救出とは全く異なる。〉(同コラムより)
 
 そして、次の結論を安倍首相も心に刻むべきだ。
 〈政府は、二つの救出の違いを説明し、海外における邦人保護には自ずと限界があることを伝えなければならない。私たちは、日本旅券の表紙の裏に記され、外務大臣の印が押された言葉の意味を、いま一度考えてみる必要がある。〉(同コラムより)
 
 いまさらこんな当たり前のことを指摘されなければいけないような人物が自衛隊の“最高指揮官”だというのだから、なんとも恐ろしい話ではないか。 (野尻民夫)