2015年2月1日日曜日

政府批判抑制の異様な同調圧力の中で

 安倍首相は国会でも記者会見でも、口を開けば「テロには屈しない」を繰り返しています。その意味は言うまでもなく「人質救出のための身代金要求には応じない」ということです。
 それは大筋の原則としては正しいことですが、現実に人質・脅迫事件が起きている中でああまで頻繁に口にすべきことではありません。それがアメリカの意向に忠実に従っていることをアピールするためだとすればあまりにも無思慮です。そんなふうにいわれれば相手国が態度を一層硬化させるのは自明のことです。
 国には自国民を保護し救出する義務があります。それをアメリカの意向に従って人質救出の努力を放棄してしまうのでは国の使命は果たせません。
 
 脅迫問題が発生して以降も結局日本独自の交渉は何もありませんでした。いまはひたすら相手側の言い分に便乗する形で、一切をヨルダン政府におっかぶせているというのが実情です。ヨルダン政府は極めて好意的・献身的に対応してくれているようですが、自国のパイロットの救出で手一杯なのに本当のところはいい迷惑の筈です。
 
 自らの手足を縛って独自の救出交渉を放棄した以上、安倍首相はせめて相手国を刺激しないようにすべきであるのですが、事実はそれと正反対のことを行ってきました。

 一人目の湯川さんがイスラム国で拘束されたことを家族が外務省から知らされたのは昨年8月17日でした。つまり国はそれ以前に人質が拘束されたことを知っていました。 
 しかし安倍首相は9月下旬国連総会に出席した際に、ニューヨークでエジプトのシシ大統領と会談(23日)し、「米軍による過激派イスラム国掃討を目的としたシリア領内での空爆について国際秩序全体の脅威であるイスラム国が弱体化し、壊滅につながることを期待する」と述べました。
 またイラクのマスーム大統領と会談25日)した際には、「日本は,イラク政府も含む国際社会のISILに対する闘いを支持しており,ISILが弱体化され壊滅されることにつながることを期待する」ことを表明しました。
 
 そう1月17日に、エジプト開かれた「日エジプト経済合同委員会」で「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束しますと述べて、ついにイスラム国から手痛い反撃を受けたのはご承知のとおりです。
 安倍首相の言動はとても2人の人質が拘束されている国のリーダーのものとは思えません。こういうリーダーを持った国民は不幸というしかないし、それが無神経に由来するものであれば非常時に最も不向きなリーダーということになります。 
 
 先に米人ジャーナリストがイスラム国で殺害されたとき、彼らは「空爆に対する報復」だと述べていました。イスラム国への有志国連合による空爆は、9月23日に開始されてから1月22日までの4ヶ月で2000回近くに及ぶということです。1日平均16回の空爆が丸4ヶ月間休みなく続けられているということになります。それもまたイスラム国の民衆にとってはこの上なく過酷なテロ行為です。
 もしも「テロに屈しない」を座右の銘にしているというのであれば、こういう面にも思いを致すべきです。
 
 いま、 「こういうときに政府を批判するな」という「同調圧力」が日本社会を支配しています。そして不思議なことにマスメディアのみならず、野党までがそれに同調し切っています。
 兵頭正俊氏は、これだったら、中東へ自衛隊が派遣されたら、お国のために()自衛隊が頑張っているのだから、政府批判はするなとなる。・・・・ ヨルダンの捕虜の父親は、もし息子が生きて帰らなかったら、政権はもたないと怒る。日本の母親は、拘束された子どもについて世間様に謝罪する。これが日本の異様さだ。 同調圧力の象徴である」 と批判しています。
 そんな異様な政府批判自粛のなか安倍首相は29日の衆院予算委で、自衛隊による在外の邦人救出について、「領域国の受け入れ同意があれば、自衛隊の持てる能力を生かし、救出に対して対応できるようにすることは国の責任だ」と述べました。
 自衛隊が人質を救出する・・・一体何を想定してそれが可能だと思っているのか理解に苦しみますが、この事件を好機として政策転換「ショック・ドックトリン」を行おうとする意欲は明白です。
(↑五十嵐仁の転成仁語 1月31日http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31 
 それを進める上で安倍首相には何の躊躇もありません。つまり安倍首相の場合は、周囲が批判の自粛を行ってもそれを考慮して何かを抑制するという気持ちなどは全くなくて、それをいいこと幸いに、自分の思っていることに向かってひたすら邁進するだけです。
 
 田中龍作ジャーナルが、キャンドルを手に首相官邸前に集まり、静かな抗議の意思を表抗議集会を伝えています
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「FREE KENJI」 同調圧力の中、静かな訴え
田中龍作ジャーナル 2015年1月30日
 イスラム国が後藤健二さん解放の条件として突き付ける女性死刑囚が、今なおヨルダンにいることが明らかになった。予断を許さない厳しい膠着状態が続く。
 
 後藤さんの無事を祈る人々が今夜30日)、キャンドルを手に首相官邸前に集まり、静かな抗議の意思を表した。それは静かな抗議集会だった。
 (写真の)女性は一昨日の集会にも参加した。「みんな(日本国民)、自分の家族のこととして考えてほしい」。
 
 「政府は懸命に人質解放交渉に取り組んでいるのだから、安倍政権批判は慎むべきだ」・・・本末転倒の自粛ムードが共産党にまで蔓延している。ネット世論も同様だ。
 今回の事件を呼び込んだのは安倍首相の中東歴訪中の不用意な発言であることは、言を待たない。にもかかわらず記者クラブメディアは安倍首相の姿勢を批判しない。
 政界、ネット世論、マスコミの主導する自粛ムードが、同調圧力となって国民にのしかかっている。
 
 ヨルダンでは人質となっている空軍パイロットの解放を求めて、パイロットの出身部族が集会を開き激しく政府を突き上げた。パイロットの父親も記者会見を開き政府を批判した。
 同じように人質を取られている国でありながらあまりに対極的だ。日本は本当に先進国なのだろうか?
 
 寒風の中、後藤さんの解放を願う人々が集まった。「何としてでも生きて帰ってほしい」。
 
 50代の女性(会社員)は「こういう事(人質事件など)があると、(バッシングや自粛論が)必ず出るが、日本人として恥ずかしい。野党は何をやっているんだという感じ」と憤った。
 
 40代の女性(ケアマネージャー)は「ヨルダンの国王は家族に会ったが、日本は対応がおかしい。自分の回りには被害者家族を悪く言う人はいない。表に出て助けてくださいと言う。静かにしてろと言うのは、言論の自由を奪うことだ」と涙ぐみながら語った。
 
 集会の呼びかけ人の一人でフォトジャーナリストの豊田直巳さんがマイクを握った―
 「後藤さんはカメラを持っていたが、武器は持っていなかった。それが後藤さんの命を助けているのではないだろうか…(中略)問題は武力では解決しないことを示している」
 紛争地域取材の経験豊富な豊田氏は、今回の事件を奇貨として日本を「戦争ができる国」にしようとしている安倍首相を批判した。
 
 本末転倒の自粛ムードは安倍首相が進める軍国主義化に手を貸すものであることは言うまでもない。