2014年11月26日水曜日

安倍政治の2年を問う

 21日、国民の7割がなぜ今解散するのか分からないというなかで衆議院が解散しました。
 内閣支持率が落ちかけてはいるもののまだ余力があるうちに総選挙を行い、その後4年間政権の座について、最終的に憲法の改正を狙うのではないかという観測すらあります。
 再選されることはほぼ間違いないとしても、その後4年間政権の座につくのは先ず無理と思われますが、それは兎も角として安倍政権はこの2年間何をやってきたのでしょうか。
 
 安倍政権が行っているアベノミクスで、日本は2013年時点で日本で百万ドル(現時点では1億1千8百万円)以上の資産を持つ富裕層が、前年から42万人増えました。その資産の総額は約127兆円も増え、652兆円に膨張しました。
 しかし安倍首相が言うように、そうした富が社会に還元されて好景気になるというトリクルダウンは一切起きていません。単に一握りの富裕層へ富が集中するだけで、多数の国民はいま円安による物価の高騰に苦しめられています。
 この事態を生んだ「アベノミクスの信任が選挙の争点だ」と安倍氏は自らが言いましたが、その発想自体が実に理解しがたいことです。
 
 その一方で安倍政権が登場すると、やにわに、そして極めて強引に一連の安全保障政策を進めました。
 意味の良く分からない積極的平和主義を標榜しながら、米国の組織をモデルとした国家安全保障会議(日本版NSC)を創設し、国民の知る権利を侵す恐れがある特定秘密保護法を成立させ、集団的自衛権行使容認の閣議決定を行いました。
 
 その結果は、憲法を守る活動をする組織に町の施設を貸すことを公然と拒否する自治体が次々に生まれるなど、すっかり息苦しい世の中になりました。
 来年春の一斉地方選挙を控えて、今年は集団的自衛権行使容認の閣議決定に伴う関連法案の国会審議はありませんでしたが、来年夏以降はそれらの審議が始まり、その正体が明らかになります。
 
 東京新聞が23日~25日の3日間、シリーズで安倍政権の「経済政策・くらし」、「安全保障・憲法」、「原発」のテーマごとに安倍政権の2年間を検証しています。
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<安倍政治 2年を問う(上)> アベノミクス・くらし
東京新聞 2014年11月23日
 安倍晋三首相が「アベノミクス」と呼ぶ経済政策。安全保障・憲法。そして再稼働の手続きが進む原発。日本は三つの岐路に直面している。首相はこれら三テーマについて、自らの信じる道を一直線で進んできた。十二月二日公示の衆院選を前に、首相が行ってきた政策や政治決断を検証し、日本の現状を点検しながら「安倍政治」の二年間を問う。 
 
 「予算は一億円ぐらいです」。東京・西新宿のタワーマンション展示場。モデルルームに毎週末約百組が訪れる。医師の男性(36)は言う。会社員男性(51)は一戸建て住宅から買い替え予定。「持っている株が値上がりした。売却して購入資金に充てます」
 自動車販売が減り続ける中、フェラーリなど高級輸入車も前年より好調だ。
 安倍首相のアベノミクスによる日銀の金融緩和や円安を追い風にした大企業の収益増で、政権発足以来、日経平均株価は約七〇〇〇円上昇。カナダ・ロイヤル銀行(RBC)などによると二〇一三年時点で日本で百万ドル(現時点では一億一千八百万円)以上の資産を持つ富裕層は、前年から四十二万人増えた。彼らの資産(株や預貯金、投資用不動産)の総額は約百二十七兆円も増え、六百五十二兆円に膨張。一握りの富裕層へ富が集中し、彼らの消費は消費税増税後も盛んだ。
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 「二百五十円」の旗がはためく。金融緩和を繰り返す日銀に近いJR神田駅の商店街。格安弁当を求める人たちが店の外にあふれる。「二年で時給は十円上がっただけ。物価は円安や消費税でどんどん上がる」。焼き肉店のアルバイト男性(21)は節約のためここで昼食を済ます。二百個の弁当が二十分で完売した。
 
 「結局、ゼロ回答でした」。派遣社員として運送会社で働く男性(45)が言う。月収十五万円。時給九百円前後と最低賃金すれすれ。食費上昇などで生活は苦しく「交通費だけでも支給を」と要求した。だが、派遣先の運送業界も円安による燃料費上昇で倒産続き。要求は簡単に拒否された。
 安倍首相は「一人一人に果実を行き渡らせる」と公約、円安などで企業に稼がせ、恩恵を労働者にもたらすはずだった。だが、頼れる労働組合もない不安定な派遣、パートなど非正規労働者が一三年は前年から九十三万人増え、労働者の約37%に達した。
 
 「貧困国と富裕国の二つの国をつくっているようだ」。立命館大学の高橋伸彰教授が言う。設備投資や輸出が増え、雇用や賃金も改善する好循環が軌道に乗らない中、富裕層や大企業に富が偏り、中低所得者は豊かさを実感できない。金融資産を持つ余裕のある人は69%に低下、「貯金ゼロ」の人が増える。小泉政権下の派遣法改正は格差拡大のきっかけとなった。アベノミクスは金融資産も含め格差を広げており、大和田滝恵(たきよし)上智大教授は「日本を支えてきた中間層がさらに縮小するおそれがある」と指摘する。 (木村留美、我那覇圭)

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<安倍政治 2年を問う(中)> 安全保障・憲法
東京新聞 2014年11月24日
 衆院解散直前の週末、東京都内の公園で市民イベントが開かれた。「今だからLove
  Peace」。音楽やアートを通じ、平和について考える催しだ。
 企画した中野区の松井奈穂さん(60)が最も問いたかったのは「憲法」や「集団的自衛権」。しかし、チラシに書くことはできなかった。「憲法の大切さを訴えると政治的な催しとみなされ、公共の施設を使わせてもらえなくなる。いつからこんなに物を言いづらい世の中になったのか」。息苦しさにため息をつく。
 父母から、学徒出陣や疎開の戦争体験を聞いて育った。他国を武力で守る集団的自衛権行使容認に対しては「子や孫を戦場に送ることになる」と、首相官邸前での抗議行動に参加した。「おかしいことには、ノーと言い続けなくては」
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 「私は、私の愛する国を『積極的平和主義』の国にしようと決意している」
 二〇一三年九月、安倍晋三首相は外遊先のニューヨークでの講演で、こう宣言した。
 この二カ月前の参院選を経て、与党は衆参両院で過半数を獲得しており、首相は一連の安全保障政策に着手。米国の組織をモデルとした国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法や、国民の知る権利を侵す恐れがある特定秘密保護法を成立させた。集団的自衛権行使容認も、改憲手続きを踏まずに解釈変更で閣議決定。松井さんが感じる息苦しさは、こうした政策の積み重ねと無関係ではない。
 
 積極的平和主義について、首相は「米国などと手を携え、世界の平和と安定にこれまで以上に貢献していく」ことと説明。軍事的な「貢献」の拡大を意味しており、日本が戦後、憲法に基づいて貫いてきた平和主義とは異質なものだ。
 日本は戦後六十九年間、海外の戦闘で一発の銃弾も撃たず、他国民を含めて一人の死者も出してこなかった。自衛隊の海外派遣は近年拡大してきたが、イラク戦争でも人道復興支援の名目だった。
 積極的平和主義の象徴ともいえる集団的自衛権は、日本が直接攻撃されていなくても、他国を守るために武力を使える権利。閣議決定では、他国軍への支援の要件も緩和しており、今後これらの具体的な法整備が進められようとしている
 柳沢協二元内閣官房副長官補は「(集団的自衛権行使は)他国の戦争、内戦への不介入という日本の原則を放棄するもので、『平和国家日本』のブランドを毀損(きそん)する」と懸念。「平和」の意味が変わろうとしている。 (安藤恭子、金杉貴雄)
 
追記  <安倍政治 2年を問う(下)>は「原発」がテーマのため、「原発をなくす湯沢の会」ブログに掲載します。