2014年9月20日土曜日

司法取引導入の危険性について

 法制審議会(法相の諮問機関)は18日、警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや通信傍受の対象拡大とともに、司法取引の導入を柱とした法改正要綱を採択し、松島法相に答申しました。
 しかし司法取引は、容疑者が他人の犯罪を供述したり証拠を提出することで、自らの罪を軽減ないし無罪化しようとするもので、冤罪を生み出す温床になる惧れのあるものです。
 
 19日のブログ:「法と常識の狭間で考えよう」が、司法取引導入の危険性についてとても分かりやすく解説しているので紹介します。
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司法取引導入の危険性について考える
法と常識の狭間で考えよう 2014年9月19日
 2014年7月9日、法制審議会の刑事司法制度特別部会は、最終とりまとめ案を了承した。2014年9月18日に開催される法制審議会総会において了承されて法務大臣に答申され、来年の通常国会に、刑法・刑事訴訟法改正案等が提出される見込みである。
 ところで、最終とりまとめ案には、取調べの録音・録画制度や通信傍受の合理化・効率化などと並んで、いわゆる司法取引に関する制度として、「捜査・公判強力型協議・合意制度」と「刑事免責制度」の導入が盛り込まれている。これは、特別部会の当初から、法務省は何として導入したいという強い意向を示していたものである。
 
 最終とりまとめ案の中では、通信傍受の合理化・効率化が重大な問題を有するものであるが、それと並んで、実は、司法取引の導入も大きな問題を孕んでいる。そこで、今回は司法取引に絞って、その危険性について考えることにしたい(紙幅の関係で刑事免責については今回は触れないこととする)。
 
 「捜査・公判協力型協議・合意制度」が、典型的な司法取引である。通常、司法取引には、自己の犯罪について供述したり証拠提出するなどの協力をする自己負罪型と、他人の犯罪について供述したり証拠提出する捜査協力型があるが、今回の最終とりまとめ案は後者だけを採用している。
 
 それは、今回の特別部会の課題が、被疑者自身の供述に過度に依存しない捜査・公判を目指すということから、他人の犯罪事実(ここて想定されているのは別の共犯者)について供述や客観的証拠を得ることにあったためである。
 
 そのため、ターゲットとされる他人の犯罪事実についての証拠収集方法を拡大するために、「捜査・公判協力型協議・合意制度」が新設されることになったのである。
 
 問題なのは、特別部会は、2013年1月29日に採択した「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」において、被疑者の供述に「過度に」依存しない刑事司法制度を目指すとして、これまでの被疑者を取り調べて、その供述を獲得してきたことを高く評価し、今後も被疑者の供述を獲得する取調べをやめることなく続けることを明言していた点である。
 
 そのため、今後も、被疑者を取調べの客体として扱い、取調べ受忍義務を課すことを前提として、「過度に」依存しないようにするとしたのである。被疑者の取調べについては、そのごく一部(裁判員裁判対象事件や検察官独自捜査事件など全ての起訴事件の約2%)についてだけ取調べの録音・録画を義務化するだけで、取調べ時間や取調べ方法に対する規制は何ら議論されず、弁護人の立会いも認められなかった。このように、被疑者の取調べについては何らの抜本的な改革がなされず、旧態依然とした被疑者取調べが今後も続けられることになったが、このような状況の中で、今回、他人の犯罪のための司法取引が認められようとしている。
 
 「捜査・公判協力型協議・合意制度」が使える対象事件は、経済・財政事件(公務執行妨害罪、文書偽造・有価証券偽造の罪、汚職の罪、詐欺津亥・恐喝罪、マネロン犯罪)や組織的犯罪(爆発物取締罰則、薬物犯罪、銃砲刀剣類所持等)であり、いずれも取調べの録音・録画が義務付けられていない犯罪である。
 
 通常の取調べの中で、弁護人が立ち会っていない中で、検察官から、取引をすることが提案される。最終とりまとめ案では、警察官(司法警察員)も検察官から授権を受けて、その提案をすることができる。そのため、取調べの中では、司法取引に応じれば、不起訴になるかもしれないとか刑が軽くなることなどが示唆され、利益誘導されることになる。その上で検察官において、被疑者が他人の犯罪事実について供述している内容が、その他人の刑事事件において有利に利用できると判断した場合には、協議手続に入ることになるが、その場には弁護人にも立ち会うことになるが、その過程は録音・録画はされない。
 
 検察官が協議手続に入るためには、当然、他人の犯罪について検察官が望む内容を供述することが求められるだろうから、場合によっては検察官のストーリーに沿って供述することを約束させられ、真実とは異なり、他人を罪に陥れるような内容の供述を約束させられる恐れがある
 
 協議をして合意が成立した場合には、その被疑者は、他人の犯罪事実についての供述調書を作成することになるだろうし、その他人の刑事裁判に証人として出廷して証言することまで求められる可能性がある。取調べにおいて他人の犯罪について供述する取調べは録音・録画されない可能性か高く、その供述過程を後で検証することは困難である。
 
 捜査・公判に協力することを合意した被疑者は、その協力行為を終えるまで、不起訴等の恩典を受けられないし、一旦合意したにもかかわらず、その合意から離脱すると、むしろ不利益を受ける可能性があり、それを理由に合意から離脱しないように圧力を受け続けることになる。しかも、他人の刑事裁判に出廷して、そこで違う内容を証言したら、虚偽供述罪として5年以下の懲役という罰則を科せられる。
 
 このように、被疑者にとっては、司法取引をしなくても不利益を受けるだろうし、一旦、協議して合意した場合には、その合意にがんじがらめに縛られて、合意からの離脱が極めて困難な状況に追い込まれてしまうと考えられるのである。
 
 このように取引をする被疑者にとっては、検察官から、他人の犯罪についての都合の良い供述を引き出す手段として活用されるだけになると予想される。弁護人は司法取引をするかどうかについて助言することになるが、諸外国と異なり、特に捜査段階においては、弁護人にも主要な証拠も一切開示されないことから、その被疑者にとって、司法取引をしなければならないような証拠状態かどうかを知ることができない状況の中で助言することになるが、多くの場合、被疑者が司法取引に応じたいと言われれば、それを積極的に断るように説得することは困難であると予測される。
 
 他方、ターゲットとされた他人の側では、その司法取引の過程も全く可視化されないし、その供述過程も全く可視化されないことから、司法取引に基づく供述や証言を弾劾することは極めて困難であるし、法廷での証言を弾劾することに成功しても、その場合には、その者の供述調書が、相反供述であるして、刑訴法321条1項2号書面として採用されてしまい、その供述調書の方か信用できると判断される可能性が高い
 
 このように、どちらの立場にとっても、色々に問題が山積しているが、これはひとえに、被疑者の供述の採取について何らの抜本的な改革を行いわないままで司法取引を導入することが原因であると考えられる。そのため、司法取引をする被疑者には、司法取引をするかどうかについて自由かつ任意の決定権が事実上与えられないまま、検察官から求められれば、司法取引に応じざるを得ない立場に追い込まれ、一旦、司法取引をしてしまうと、恩典を受けられなくなったり、報復的に不利益な取扱いを受けないために、検察官から求められるままに、その意向に沿った供述・証言を維持するしかなくなってしまうと考えられるのである。
 
 かねてから、「共犯者の自白」は巻き込みにより冤罪を産む恐れがあるとして危険であることが指摘されていたが(裁判所は共犯者の自白も「自己の自白」でないとして、共犯者の有罪の証拠として利用できると判断しているために、多くの冤罪が産まれてきた)、「捜査・公判型協議・合意制度」は、その問題点をより増幅させるだけであると考えられる。
 
 したがって、このような司法取引制度が新たに導入されることにより、新たな冤罪を産む恐れがあるのであり、取調べの在り方を抜本的に改革することなく、最終とりまとめ案の内容で司法取引制度を導入することには強く反対せざるを得ない。最終とりまとめ案の中では、司法取引について大きく取り上げられることはないが、この制度がそのまま制度化された場合には、検察官に新たに強大な権限(武器)を与えるものであり、被疑者の人権という観点からは、その人権侵害性は極めて高。私たちは、司法取引制度にも大きな問題があることを認識した上で、2015年の通常国会に提出される法案に対する反対運動を展開していく必要がある。