2014年6月28日土曜日

政府の想定問答集には集団安保容認も明記

 憲法9条の解釈変更に向けた閣議決定が7月1日に行われることはほぼ確実になりました。
 公明党幹部は「閣議決定案は、これまでの公明党の議論を反映した部分が相当あり、十分に歯止めが掛かっている」と自信を示しますが、果たしてそうでしょうか。

 26日に明らかにされた想定問題集、それは閣議決定の後に行われる国会審議に向けて政府が作成したものですが、それを見ると、公明党のいう文言の修正などは何の歯止めにもなっていないことが分かります。
 もしもこの政府の見解が通用するものであれば、憲法9条はこの閣議決定で事実上葬り去られることになります。
 
 想定問答集は次のように述べています。
国連安全保障理事会の決議に基づく集団安全保障が「新3要件」を満たすなら、「憲法上」武力の行使は許容される
戦時の機雷掃海は他国の領海内でも可能
・集団的自衛権の行使容認解釈の一部変更であり、解釈改憲ではない
他国の防衛が、我が国を防衛することになることは想定される
政府が示した集団的自衛権に関する8事例は、いずれも憲法上許される
行使容認の地理的制約については自ずから限界はあるが明示はしない
・自衛権発動の新3要件に当たるかどうかは「客観的、合理的に」政府が判断する
 まさに何でもありで政府の判断で何でも出来るというものです。
 これまで70年近く守られてきた「9条=戦争放棄」が根本的に変わることは明らかです。

 公明党はまだ党内の意見集約が出来ていないということですが、自民党の真意がここまで明らかになっても、それに追随するということで意見を集約するのでしょうか。
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想定問答集 政府、集団安保容認を明記 「限定」方針逸脱
毎日新聞 2014年06月27日
 集団的自衛権の行使容認などの憲法9条の解釈変更を国会などで説明するため、政府が作成した想定問答集が26日、判明した。国連安全保障理事会の決議に基づく集団安全保障が「新3要件」を満たすなら、「憲法上武力の行使は許容される」と、集団安全保障での武力行使の容認を明記。さらに戦時の機雷掃海は他国の領海内でも可能とした。集団的自衛権の行使は「時の内閣が総合的に判断」するとし、「限定容認」というこれまでの政府の主張から大きく逸脱する内容だ。
 
 想定問答集は行使容認について「解釈の一部変更だが、解釈改憲ではない」と説明。行使はできないとした1972年の政府見解を挙げ、「この見解の枠内で導いた論理的な帰結」として、同じ見解から逆に行使容認を導き出しても問題はないと強調した。逆の結論に変わる理由は国際的な力関係の変化や技術革新を挙げ、日本の安全保障に「直接影響を及ぼすことがあり得る」ためとしている。
 
 自衛権発動の3要件に代わる新3要件は「自衛の措置としての『武力行使の3要件』」と明記した。「他国の防衛が、我が国を防衛することになることは想定される」とする一方、武力行使は「あくまで受動的で(憲法の)専守防衛は不変だ」と「自衛」のイメージ強調に努めている。
 
 政府が示した集団的自衛権に関する8事例は、いずれも憲法上許されるとし、「実際には状況に応じて判断する」と行使容認の範囲が拡大することを示唆。戦時の機雷掃海や民間船の護衛も新3要件を満たせば許されるとし、さらに邦人が乗っていない船の護衛も可能だとしている。
 
 行使容認の地理的制約については「自(おの)ずから限界がある」とするにとどめ、範囲を明示していない。日本が防衛する「他国」の範囲も、同盟国・米国に加え、政府が「状況に即して判断」するとし、適用の拡大を示唆した。
 
 想定問答は新3要件を厳守することで、「憲法上歯止めがないということではない」とアピールしている。だが、与党の新3要件案は、他国への攻撃でも「国民の権利を根底から覆す明白な危険」があると政府が判断すれば、武力行使が可能となる。想定問答も具体的な歯止めは示さず、新3要件に当たるかどうかは「客観的、合理的に」政府が判断するとした。
 
 集団安保については、▽他国への武力攻撃の直後▽日本が自衛権を行使中−−に国連安保理の決議が出た後でも、「国際法上は決議が根拠(集団安保)だが、憲法上、我が国の自衛の措置として許容される」とし、新3要件に基づけば武力行使できると明言。政府・与党は閣議決定に集団安保を明記しない方針だが、想定問答は、逆に日本政府が集団安保による武力行使に踏み出す可能性を明確に示し、新3要件が歯止めにならない実態を浮き彫りにした。【竹島一登】
 
【ことば】新3要件
 日本が武力行使をする際の条件として、自民党の高村正彦副総裁が与党協議会に示した。(1)日本、または密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある(2)国の存立を全うし国民を守るために他に手段がない−−場合に、(3)必要最小限度の実力行使−−を認める内容。憲法9条の下での武力行使は「自衛の措置としての武力の行使に限られる」と説明している。
 
 
「解釈改憲でなく再整理」 集団的自衛権めぐる「想定問答集」の概要判明
産経新聞 2014年6月27日
 集団的自衛権の行使容認をめぐり、政府・与党が有権者向けに作成した「想定問答集」の概要が26日、明らかになった。与党が実質合意した閣議決定の原案について、公明党への配慮から「解釈改憲ではない」と強調し、「解釈の再整理という意味で一部変更」として位置づけている。自民、公明両党はこの概要をたたき台に、それぞれ詳細な問答集をまとめる方針だ。
       (中 略
 《問答集のポイント》
 ・閣議決定案は昭和47年の政府見解の枠内で導き、「新3要件」を満たす場合に限り武力行使も憲法上許される。要件の適否は政府が判断。
 ・機雷掃海や民間船舶護衛は「新3要件」を満たせば憲法上許される。外国人が乗った船舶の護衛も外国との共同計画下なら可能。他国領海内の機雷掃海も憲法上許されないわけではない。
 ・米国以外の「わが国と密接な関係にある他国」は新3要件に照らし、個別具体的な状況に即して判断。
 ・「新3要件」を満たす活動中に国連安保理が集団安全保障措置としての決議を採択しても、活動を中断しなければいけないわけではない。活動が集団的自衛権を根拠とする場合より広がることはない。
 
 
社説公明党の転換 「平和の党」どこへ行った
毎日新聞 2014年06月28日
 実態は陥落であろう。集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈の変更に慎重姿勢を示していた公明党が容認に転じた。
 
 海外での武力行使へ歯止めをかけられない内容の閣議決定案の受け入れはこれまで培った「平和の党」の党是にもとる。9条の根幹維持よりも自民党との連立を優先した判断と言わざるを得ない。
 
 「二重、三重の歯止めがきき、拡大解釈のおそれはない」。山口那津男代表はこう語り、解釈変更の閣議決定の核となる「新3要件」受け入れを明言した。だが、「解釈改憲ではなく憲法解釈変更だ」(北側一雄副代表)と強調すればするほど説明の苦しさが逆に浮き彫りになる。
 
 もともと山口氏は「(解釈変更は)国民に何も聞かず一方的にやることになり、憲法の精神にもとる」と主張していた。公明党はこれまでも安全保障政策の見直しを重ねてきたが、海外での武力行使を可能とする議論はまったく次元が異なる。政府が挙げた事例ごとに、従来の個別的自衛権の範囲で対応できるかどうかを時間をかけて検証すべきだとした当初の主張は筋が通っていた。
 
 ところが、早期決着を譲らぬ安倍晋三首相の強硬姿勢に押される形で1972年の政府見解を根拠とする行使容認に踏み切った。今やタガは外れ、執行部は収拾を急いでいるようにすら見える。
 
 政府の想定問答が物語るように、同党が強調する「歯止め」はまやかしに過ぎない。同党が難色を示す戦時の機雷掃海も認められている。新3要件次第では集団安全保障による武力行使も可能だ。とても山口氏が胸を張るような成果を勝ち取ったとは言えまい。
 
 こうした対応に党所属国会議員や地方組織、支持団体の創価学会などから批判が出ても当然だ。山口氏はかつて「公明党はどこまでも自民党についていく下駄の雪」との批判に「(切れると歩けなくなる)下駄の鼻緒だ」と反論してみせた。だが、今回の経緯を見る限り結局は99年以来続く自民党との連立を壊せない判断ありきだったのではないか。連立離脱のカードを持たない限り、足元をみられるだけである。
 
 公明党はさきの特定秘密保護法制定においても与党内で歯止め役を果たせなかった。与党でいる限り自民党から際限なき譲歩を迫られ、変質を続けるのではないか。今回の転換は憲法9条を尊重し歩み続けた党のあり方に大きく影響する。その重さをわきまえるべきだ。