2014年5月10日土曜日

米元高官が秘密保護法を批判 (米元高官講演 続報)

 来日した国家安全保障会議(NSC)元高官モートン・ハルペリン氏が、講演で秘密保護法がなくても、日米政府間の安全保障に関する協力に障害はなかった。法律は不要だった」と述べるとともに「日本政府はきちんとした手続きを踏んでおらず、急いで成立させた。民主社会であるべき協議をしていない」と政府の姿勢を批判し、「21世紀に民主国家で検討されたもののうち最悪レベルのもの」と断じました。
 米国などでは秘密法の制定や改定に費やしたということです。
 
 また、秘密保護法が民間人に刑事罰を科し、政府の不正を秘密にしてはならないという要件や内部告発者の保護などが明確でない、という欠点をもっていると指摘しツワネ原則が国際的に認知されていないとの日本政府の主張については「世界の民主的な国で実行されているものを踏まえた原則である」と批判しました
 
 ツワネ原則は、50項目からなる「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則のことで、「安全保障のための秘密保護」と「知る権利の確保」という対立するつの課題の両立を図るため、世界70か国以上から500人を超える専門家が2年以上の歳月をかけて作成したもので、ハルペリン氏も深く関わりました。
 
 安倍首相は秘密保護法審議の際に質問を受けたときに、「ツワネ原則国際的に認知されたものではな」と一蹴しましたが、秘密保護法の制定を主張する人間がそのような認識でいるとはあきれる話です。
 安倍氏は全く「ツワネ原則」に目を通していないか、通してもその意味するところが理解できなかったのかのどちらかです。いずれにしても知性のほどが疑われる話です。
 
 米国では秘密法の制定に当たって、公正で独立したしかも十分な規模を持った監視機関を設立しています。それに対して日本では特定秘密保護法が12月に施行されるにもかかわらず、政府や国会が設置する計五つの監視機関のうち、四つの組織の内容がほとんど決まっていないという状態です
 何よりも致命的なのは、政府側に監視機関の意味が理解されていないことで、官僚をそのメンバーに当てるなどということが平然と口にされていることです。
 そうした低レベルの政権のごり押しで、特定秘密保護法が制定されたという「悲劇」を、私たちはよくよく認識しておく必要があります。
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ツワネ原則関わった米元高官 秘密保護法を批判
東京新聞 2014年5月9日
 国家が秘密にする情報の明確化などを求めた、安全保障と知る権利に関する国際ルール「ツワネ原則」の策定に深く関与したモートン・ハルペリン氏(75)が八日、国会内で講演した。昨年十二月に成立した特定秘密保護法について「日本政府はきちんとした手続きを踏んでおらず、急いで成立させた。民主社会であるべき協議をしていない」と政府の姿勢を批判した。
 
 ハルペリン氏は外交政策や核戦略論などが専門の政治学者で、米国家安全保障会議(NSC)の元メンバー。ニクソン政権時代に沖縄返還時の核密約にも関わり、クリントン政権時代には大統領特別顧問を務めた。昨年公開されたツワネ原則の策定にも主要な役割を果たした。ハルペリン氏は、米国などでは秘密法の制定や改定に二、三年費やしたことを説明。秘密保護法が民間人に刑事罰を科し、政府の不正を秘密にしてはならないという要件や内部告発者の保護などが明確でない欠点を指摘した。
 
 ツワネ原則が国際的に認知されていない、との日本政府の主張については「世界の民主的な国で実行されているものを踏まえた」と反論。「秘密を守る法律がないことを根拠に、米政府が日本との協議や情報共有に及び腰になると決めた事実はない」と疑問を呈した。
 
 
元米政府高官 「秘密保護法なくても安全保障交渉に支障ない」
田中龍作 2014年5月8日 
 日弁連などの招きで来日した元米政府高官がきょう、衆院会館で「特定秘密保護法」の危うさについて語った。
 モートン・ハルペリン氏(1938年生まれ)は、ジョンソン政権で国防次官補代理、ニクソン政権とクリントン政権で国家安全保障会議のメンバーを務め、ニクソン政権時には「沖縄核密約・返還交渉」にあたった。
 米国の安全保障の生き証人であり、日米交渉の舞台裏を知り抜いた人物である。
 特定秘密保護法の国会上程にあたって安倍首相や政権幹部はことごとく「日米の安全保障、特に防衛機密の漏えいを防ぐために欠かせない」と説明してきた。だがハルペリン氏の話を聞く限りでは、それは全くウソだった。
 ハルペリン氏の証言は冒頭から強烈だった。「特定秘密保護法制定にあたって日本政府に米国政府から大きな圧力があったと理解している」としながらも「事実として言えることは、秘密保護法がなくても最もセンシティブな安全保障交渉に支障はなかった。現政権と日本との協議でもそうだ」。
 「私はジョンソン政権から今に至るまで、長い間アメリカ政府側担当者として、またアメリカ政府のアドバイザーとして日米関係に関与してきた。日本の秘密保護に関する強い法律がないために協議ができないということは、一度たりとも誰の口からも聞いたことはない」。ハルペリン氏は畳みかけた。
 「(核交渉でさえ)この新しい法律(秘密保護法)は必要ない」とまで言った。実際に核密約の交渉にあたったハルペリン氏の指摘は説得力があった。
 特定秘密保護法で懸念されているのが「知る権利」の侵害だ。国家機密をスッパ抜いたジャーナリストが罪に問われることになる。ハルペリン氏は次のように警鐘を鳴らす―
 「一番問題だと思われるのは、ジャーナリストが政府から情報を得て公開(記事に)することに刑事罰を与えることだ。ツワネ原則(※)は市民が国家安全保障に関する情報を漏らした時に刑事責任を問うてはならないと明確にしている。アメリカでもNATO諸国(同盟国)の多くでも国家安全保障に関する情報を漏洩したからと言って刑事罰を問うようなことは設けていない」。
 国家機密を暴いたジャーナリストが罪に問われない、とは本当だろうか? 質疑応答の時間が設けられたため、筆者は「メキシコの麻薬戦争」に関する調査報道をしていたフリージャーナリストが2012年9月、FBIに拘束されたことをハルペリン氏に質問した。
 ハルペリン氏は「事実を知らないのでコメントできない」と答えた。一介のフリージャーナリストの身柄拘束なんぞはベタ記事にさえならないため、氏も知らないのだろうか。
 特定秘密保護法には「取材報道の自由」が書き添えられた。ただし報道機関とは記者クラブメディア(大新聞、大放送局、大通信社)のことである。権力とお友達の取材報道活動の自由は保証されるが、権力のコントロールが効かないフリーランスが特定秘密に触れた場合は罪に問われる、ということだ。
 安全保障を知り尽くしたハルペリン氏もそれは知らなかったようだ。
(※)ツワネ原則
 「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」。国家安全保障上の国家秘密に関する法津制定と国民の知る権利の保護の両立をはかるための国際的な指針。2013年南アフリカのツワネで採択された。