2014年3月21日金曜日

「はだしのゲン」を市長要請で回収 泉佐野市

 昨年8月松江市教委が、戦争や原爆の悲惨さを描いた漫画漫画「はだしのゲン」「暴力描写が過激だ」として市立小中学校の図書室で閲覧を制限していたことが問題になりました
   ※ 2013年8月27日「はだしのゲン 閲覧制限を撤回 
2013年8月25日官に盲従は戦前と同じ はだしのゲン 閲覧制限 
 
 この1月、大阪府泉佐野市教委が「はだしのゲン」を市立小中学校の図書室から回収し、子どもたちが読めない状態になっていました。作品に「差別的表現が多い」とし千代松市長(40)の要請により、中藤教育長が回収を指示したためです。
 教委が市立小中学校のうち「ゲン」を所有する小学校8校、中学校5校に対し、市教委に漫画を持ってくるよう指示し集めた作品は市教委が保管していました。
 
 市教委は20日、各校に回収した図書を返すとともに、差別的表現について何らかの指導をするよう求める方針だということです
 
 千代松市長取材に対し「漫画の内容ではなく、きちがい乞食ルンペンなどの差別的な表現が問題だと思った」と語ったということです
 一方、泉佐野市立校長会は1月23日、「特定の価値観や思想に基づき、読むことさえできなくするのは子どもたちへの著しい人権侵害だ」として、回収指示の撤回と漫画の返却を求める要望書を教育長に提出していました。
 
 それにしても、まだ「差別的用語」の概念が一般化しなかった時代の作品中には、いくらでも差別的用語は登場するのに、なぜ「はだしのゲン」だけがそうした扱いを受けるのでしょうか。差別的用語に極端にこだわれば、所謂「言葉狩り」になるという批判もあります。
 そもそも「大量の蔵書から不適切な表現が含まれる作品を拾い出し、語句を逐一訂正指導するようなことは不可能」だと、同市の市立校長会は述べています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大阪・泉佐野、市長要請で「ゲン」回収 「差別表現」理由
東京新聞 2014年3月20日
 大阪府泉佐野市教育委員会が今年一月、原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」に差別的な表現が多いとする千代松大耕(ひろやす)市長の要請を受け、市立小中学校の蔵書を回収していたことが二十日、分かった。
 
 中藤辰洋教育長によると、千代松市長や市教委は昨年から、漫画に「きちがい」「こじき」などの表現が使われていることを「差別を助長する」と問題視。小中学校の保有状況を調査し今年一月、小学校八校、中学校五校の蔵書を回収し、児童、生徒が閲覧できない状態になった。市立校長会は一月二十三日と二月十日、文書で「一方的な回収は理不尽だ」などと抗議していた。
 
 千代松市長は二十日、市役所で記者会見し「作品には不適切だと思える表現が多く存在する。学校現場で放置されるべきではなく、適切な指導、教育が必要だ」と意図を説明。表現の自由を制限する行為との指摘に対し「そのような批判があるのも事実で、どう折り合いをつけるか、悩ましい問題だ」と話した。
 
 中藤教育長は取材に、二十日中にも各校に蔵書を返却し、これ以上の閲覧制限はしない考えを示した。その上で「作品自体を否定するつもりはないが、表現に問題があるのは事実だ。回収という手段は望ましくなかったが、教育委員に蔵書の実態を見てもらおうと考えた」と釈明した。
 
 教育委員らは回収した蔵書を確認したが、その後の対応について結論を出していなかった。中藤教育長は近く、問題とする表現を使用しないよう児童、生徒を指導するための全校集会開催を各校に求める考えを示した。
 
 はだしのゲンは、漫画家の故中沢啓治さんが自身の被爆体験を基に描いた。作品をめぐっては、松江市教育委員会が二〇一二年十二月、市立小中学校に閲覧制限を要請。「戦争の悲惨さを学ぶ機会が失われる」といった批判が相次ぎ、市教委は一三年八月に開いた教育委員の臨時会議で「手続きに不備がある」として要請撤回を決めた。
 
 
「なぜゲンだけなのか」 回収協力の校長「悔やんでる」
朝日新聞 2014年3月20日
 
 大阪府泉佐野市の小中学校図書室から、子どもたちの知らない間に「はだしのゲン」が消えていた。きっかけは作品の「差別的表現」を問題視した市長の意向だった。市長の価値観で教育行政が左右された事態を校長らは批判。市教委は20日に返す方針を示した。
 
 「いかなる理由があっても、市教委が一方的に蔵書の閉架や回収を行うことは校長として違和感を禁じ得ず、到底受け入れられない」
 市立小中学校の校長でつくる市立校長会は1月23日、強い調子で回収に抗議する文書を中藤辰洋教育長に手渡した。だが教育長は市長の意向を理由に「何らかの指導が必要」と譲らず、「閲覧記録を確認するなどして読んだ子を特定し、個別に指導できないか」と打診したという。
 校長会はこれを拒否。「不適切な表現があるからといって一律に閲覧制限をするのは教育になじまない」「大量の蔵書から不適切な表現が含まれる作品を拾い出し、語句を逐一訂正指導するようなことは不可能」などとする文書を再び教育長に出し、回収指示の撤回と本の返却を求めていた。
 校長の一人は「教育長の指示とはいえ、回収に協力してしまったことを悔やんでいる。差別的表現のある本はほかにもあるのに、なぜゲンだけなのか。狙い撃ちにされたとしか思えない」と話す。
 別の校長は「昨年夏、松江であれだけゲンの閲覧制限が問題になったのに……。市教委はあの教訓から一体何を学んだのか」。
 
 千代松大耕(ひろやす)市長は2011年4月の市長選に市議から立候補し、現在1期目。教職員に入学式や卒業式での君が代の起立斉唱を義務づける条例を大阪府・市に続いて制定したほか、府独自の学力テストの学校別成績を市教委の反対を押し切って公表したり、教育行政への首長の関与を明文化した条例を制定したりするなど、以前から教育行政に強い関心を持ってきた。
 
 「ゲン」の中には、君が代や天皇制を批判する箇所も出てくるが、市長は「そこを問題視したわけではない」と説明している。
 20日に返す方針について、中藤教育長は「早く返すべきだとは思っていた」と説明。返す際の「指導」の内容については「検討中」としている。(編集委員・西見誠一、倉富竜太)