2014年2月19日水曜日

年金の完全理解と大改革ー年金は厚生省が使い込む 武田氏ブログ

 「厚生年金保険制度回顧録」によれば、日本に年金ができたとき、当時の厚生省の年金課長は、次のように言ったということです。
 「年金を払うのは先のことだから、今のうちどんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。 貨幣価値が変わるから、昔三銭で買えたものが今五十円だというのと同じようなことで早いうちに使ってしまったほうが得する。」
 これは武田邦彦氏のブログ「年金の完全理解と大改革(シリーズ)」の第1回目に出てくる話です。
 
 勿論、国民に還元するというのではなくて、官僚が自由に使ってしまうことを意味し、そうしても年金の支払いが始まる40年後にはただ同然になっているから、何も問題はないという話です。
 結局は何も解明されなかった年金管理のあの目茶苦茶振りも、それと同根の話だろうと推測されます。いろいろな段階で何兆円かそれ以上の不正があったのでしょう。
 
 また年次の運用益でも一般国民分はしょっちゅうマイナス数兆円を計上しているのに、役人の年金運用分では絶対にマイナスを生じていないいうことなども、彼らの不正操作の一端でしょう。
 
 シリーズはまだ続いていますが、長くなるのでとりあえず(1)~(3)の部分を紹介します。
 音声ブログではもっと詳しく解説されています。
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年金の完全理解と大改革(1) 年金はなくなる
武田邦彦 2014年2月12日
日本に年金ができたとき、当時の厚生省の年金課長は、次のように言っている(厚生年金保険制度回顧録から)。
「・・・年金を払うのは先のことだから、今のうちどんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。 貨幣価値が変わるから、昔三銭で買えたものが今五十円だというのと同じようなことで早いうちに使ってしまったほうが得する。」
 
素晴らしい!! 「素晴らしい」というのは官僚にしては珍しく「本音と真実」を言っているからだ。もちろん、道徳的には下の下だが。
1961年から日本の年金制度が本格的に始まった。その前の日本人は歳を取ったら子供に面倒を見てもらうのが普通で、特別な軍人恩給などを別にしたら、家族単位で生活をしていた。
それから年金に加入した日本人は自分でお金を収め始めた。政府は「揺りかごから墓場まで」というキャッチフレーズで「年金を収めていれば生涯、安心して暮らせる」と言った。しかし、現実にはそれは夢物語であることが当時からわかっていた。
 
この年金課長が言っているように、国民から収められた年金は、厚生省のどこかの金庫に納められる。そしてほぼ40年後に年金を収めた人に対する年金が支払われる。
しかし、現実には「インフレ」が進むから、「昔三銭で買えたものが今五十円」と言っている。40年で1700倍になるという計算だ。少し大げさかも知れないが、当時は高度成長期だったので、平均的なインフレ率は7%ぐらいあった。
一年に7%のインフレが40年続くと、物価は15倍になる。でも年金課長の感覚では40年で貨幣価値は1000分の1ぐらいということだったのだろう。この人は戦争を経験しているから、40年先は貨幣価値はなくなると思っても不思議ではない。
現在はインフレ率が2%だから、40年で貨幣価値は2.2分の1になる。つまり100万円年金をためてももらうときには45万円相当になるということだ。でも、インフレが2%になるとはかぎらない。現在のように日銀がお札を135兆円もすると、数年で貨幣価値が半分になることもありうる。
 
だから、年金課長が言っているように「早く使ったほうが得をする」ということになる。それはどういう意味だろうか?
まず、第一回は「国民が年金を積み立てても、それを集めた厚生省は、年金制度が発足した時から国民のお金を使い込むつもりだった」という衝撃的事実をとにかく納得しなければならない。
道徳的にも、倫理的にも、役人が公僕だということを考えても、腹の虫がおさまらないが、これは「感情」の問題ではなく、現実に日本社会で起こった「歴史的事実」だからである。
この年金シリーズで大切なことは、かつて進化論のチャールズ・ダーウィンが言った言葉、「真実を知るには勇気がいる」ということだ。
 
年金の完全理解と大改革(2) 厚生省が使い込むのは当然?!
武田邦彦 2014年2月12日
年金課長が「年金をしまっておいても意味がないから、使ってしまえ」と言っている理由は、なんだろうか?
 
1)お金を取っておく金庫がない、
2)お金の総額があまりに大きく銀行というわけにもいかない、
 
まずは現実的に集めたお金をしまっておく金庫がない。近い将来は150兆円にもなる厚生年金だから、日銀より大きく、市中の銀行に預けても、銀行をその現金をどうすることもできず、貸し出して焦げ付けば、銀行そのものがつぶれてしまう。
とりあえず現金を金庫にしまっておいたら、政治家が来て「俺によこせ。うまく運用する」と言うだろう。40年もの長きにわたり、とっておくことができないお金なのだ。
 
第二の理由が「インフレ」である。
3)もし1億円の年金が集まると、それを今年使えば1億円の価値がある、
4)もしそのお金を40年間、持っておくとたとえば10分の1になり1000万円の価値しかなくなる、
5)だから、年金課長が言うように「早く使ってしまったほうが得をする」ということになる。
 
この発言は、良く言えば「国民も自分も同じ家族だから、40年後に1000万円の価値のものを国民に渡すぐらいなら、家族である自分が今、1億円を使ったほうが得だ」ということになり、悪く言えば「国民から集めたお金を自分のお金と思っている」ということになる。
いずれにしても、年金課長の言っていることは「腹立たしいが正しい」。だから最初から「積み立て型年金」に反対しなければならなかった。だれが「揺りかごから墓場まで」などと言ったのか?!
「国民一人一人が年金を収めると、40年後にそれが返ってくる」というのは現実的にはあり得ず、「国民一人一人が年金を収めると、その10分の1ぐらいは返すことができるかも知れない」ということだ。
 
でも、そう言ったら、国民は年金制度に反対するだろう。そうなるといつまでも日本には年金制度はできない。だからここは国民をだまそうと言うことになった。その時に、年金を解説した東大教授や専門家はもちろんこの仕組みを知っていたが、「国民はだますしかない」と思い、わかりにくい年金の仕組みなどを説明してお茶を濁した。
「集めたお金はどこの金庫にしまっておくの?」
「お金はしまっておいたら価値が下がるんじゃないの?」
ぐらいの質問はすべきだったのだ。
 
年金の完全理解と大改革(3) 経済学者の反論(非現実的だが)
武田邦彦 2014年2月15日
少し金融の知識のある人は1回目、2回目の年金の解説を「経済を知らない馬鹿な奴だ」と笑うだろう。「お金をそのまま金庫にしまっておく人がいるものか。「運用」というのがあるんだ」と言うだろう。
確かに年金を取り扱う機関、たとえば社会保険庁に「資金運用部」というのを作り、そこで150兆円に上る年金資金を運用すればよいと思う。もし年金の運用益が平均として4.3%になれば、これまでのインフレ率をカバーすることができるし、現金を金庫にしまっておく必要もないので、積み立て型年金は成立するということになる。
 
実は、この世のことで議論をすると騙されるのがこのような瞬間である。経済学者の言うことは筋が通っている。「お金が集まる→金庫に入れておく手はない→運用する→運用先から利息を得ることができる→それが4.3%以上なら年金は減らない」ということだ。
実にまともに見えるけれど、実はこのことは現実にならなかった。なぜ、このような「一見して、まとも」なことが「現実」にならないのだろうか? 昔はこれを「絵に描いた餅」といった。いかにも食べることができるように見えるお持ちが、現実には食べられないということだ。
 
1)お金を運用すると失敗することがある、
2)銀行なら失敗すると倒産するが、国の場合、逮捕される、
3)国が使うお金はその94%が赤字だから、国の資金運用部が貸したら回収できない、
4)お金を貸して儲けるというのは「危険なところを見分ける力」であり、だれが見てもお金を持っていて借りそうにないところに貸しても利息は取れない、
5)郵便局が成立したのは、利息5.5%で強制的に国の機関などに貸し付けていたからだ、
6)優れた人材で長くリスクを負ってお金を貸してきている銀行に比べて、役人がお金の運用などできるはずもない、
7)その銀行の定期預金ですら、利率は0.5%を下回るのに国の運用部が4.3%以上の運用益を出すはずもない、
8)年金から、厚生省の天下り費用、社会保険庁の経費、政治家のピンはね分などを出すので、4.3%の運用益を出すには5%以上の粗利益を出さなければならない。
 
つまり、不可能なのだ。その一例が、AIJ投資顧問会社の年金崩壊事件で、17の年金基金から計約250億円をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われたが、検察側は「年金資金の運用に苦労している基金を食い物にした極めて悪質な犯行」と主張している。
求刑は主犯格が懲役8年だ。被害基金の加入員が約14万人に上り、資金回収は全体の6%程度しかできなかった。「被害額は類を見ないほど大きく、『わが国の厚生年金基金制度を崩壊させた』といえるほど社会的影響は甚大」と言われている。
資金の貸出先の回収の見込みがなくなった時、「完全な自転車操業状態に陥ってもファンドの販売を強力に継続し、被害を拡大させた」とされている。つまり焦げ付いた分を回収しようとしてウソを繰り返した。
 
 また、長野県建設業厚生年金基金の資金を着服した元事務長も潜伏先のタイの首都バンコクで逮捕されている。
 この事件は「たちが悪かった」のだろうが、もし良心的でも同じ結果になる。年金基金の運用を引き受けて、銀行の定期預金が0.5%の時に、5%の運用益を出すのはむつかしい。無理して融資すると焦げ付く。焦げ付かないように安全なところに貸し出せば0.5%以下になる。だから「悪質でなくても同じ結果になる」ということだ。
 
 方法がないのだから、経済学者の「当たり前の経済常識」の方が間違っていて、それを国民が聞いたので間違ったことがわかる。次回で明らかにするけれど政府は少なくとも年金を90兆円も食いつぶした。運用も失敗した。
それに対して日本のマスコミがたたきに叩いたAIJの社長はたった?250億円の運用に失敗し、一部を私用に使ったに過ぎない。巨悪は良いが、小悪は罰するというのがマスコミだ。
では政府はいったい何をしたのだろうか?それは犯罪なのか、または「やむを得ないことなのか」? ことは年金がなくなるかどうかなので大きな問題である。