2014年2月20日木曜日

衛藤首相補佐官らが米国を批判 靖国問題などで+


 安倍首相を取り巻く籾井勝人NHK会長、長谷川三千子・百田尚樹 両NHK経営委員の問題発言が注目されたばかりですが、今度は衛藤晟一首相補佐官の首相靖国参拝に関する発言が物議を醸しています。
 
 衛藤補佐官は「ユーチューブ」に投稿した国政報告で、安倍首相の靖国神社参拝に「失望」声明を発表した米政府に対して、「むしろ我々の方が『失望』だ。中国に対する言い訳として失望と言ったに過ぎない」と指摘しました。
 
 衛藤氏は自身が昨年11月に訪米し、国務省のラッセル次官補やアーミテージ元国務副長官らに「首相はいずれ参拝する。ぜひ理解をお願いしたい」と伝え、また12月初旬には在日米大使館にも出向いて「(参拝時には)できれば賛意を表明してほしいが、無理なら反対はしないでほしい」と要請したことを理由にして、アメリカの「失望」の表明に「失望した」と述べています。
 しかしいずれの場合も米側からは慎重な対応を求められたということですから、了解させたというわけではありません。だから自分が事前に挨拶に行ったのにという言い分は通らないし、近隣諸国との関係悪化を懸念するアメリカの方が正しいのは明らかです。
 
 衛藤氏は安倍政権発足以来、一貫して首相に参拝を促してきたといわれるので、参拝に関して米国に了解を得るのが重要な任務であった可能性がありますが、そんな感覚の持ち主ではとても役目は果たせません。首相補佐官には当然首相が任命した筈ですが、どうも一つひとつの人選に疑問が生じてしまいます。
 
 また自民総裁特別補佐の萩生田光一氏も先月、党内の講演会で、アメリカの「失望」発言に対して「共和党政権時代にこんな『揚げ足』をとったことはない。民主党のオバマ大統領だからだ」と名指しで批判したということです。
 政府関係者によれば、こうした米政権への不満は実は首相自身が抱いている不満だということです。そもそも首相には、参拝の前日に普天間飛行場の辺野古移設の見通しを立てたので、アメリカは表立って批判しないだろうという読みがあったと言われています。
 そうするとアメリカに伝わることを見越した発言ということになりますが、なんとも低次元な恨み言、子どものような言い分ではないでしょうか。
 
 アメリカに反論すべきことは反論するというのは当然のことですが、こと「靖国参拝問題」に関しては、こうした独りよがりの言い分や恨みがましい発言は、とても成熟した政治家のものとも思えません。
 まさに「空気の読めない人たち」です。
 
 衛藤氏は菅官房長官に言われて19日午後、「ユーチューブ」に投稿した米国批判の発言を削除したということです。
 
 ところで米紙ウォールストリート・ジャーナルは19日付の電子版で、本田悦朗内閣官房参与のインタビューを掲載し、そのなかで「本田氏はアベノミクスの背後にナショナリスト(国家主義者)的な目標があることを隠そうとしない。日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだと語った」と伝えたということです。
 なんとも恐ろしい話です。

+高知新聞社説を追記
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<衛藤首相補佐官> 動画サイトで米国批判 靖国問題で
毎日新聞 2014年2月19日
 衛藤晟一首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」に投稿した国政報告で、昨年12月26日の安倍晋三首相の靖国神社参拝に「失望」声明を発表した米政府を批判していることが18日、分かった。衛藤氏は、米側には事前に説明していたとして「むしろ我々の方が『失望』だ。米国はちゃんと中国にものが言えないようになっている。中国に対する言い訳として(失望と)言ったに過ぎない」と指摘した。
 衛藤氏は投稿で、自身が昨年11月20日に訪米し、国務省のラッセル次官補やアーミテージ元国務副長官らと会談した際、「首相はいずれ参拝する。ぜひ理解をお願いしたい」と伝えたことを紹介。12月初旬には在日米大使館にも出向いて「(参拝時には)できれば賛意を表明してほしいが、無理なら反対はしないでほしい」と要請したことを明らかにした。いずれも米側からは慎重な対応を求められたという。
 
 そのうえで、中国による東シナ海上空の防空識別圏設定を挙げ、「(日本が)いくら抑制的に努力しても、中国の膨張政策はやむことはない。ぎりぎりの中での首相の決断があった」と強調。「同盟関係の日本をなぜこんなに大事にしないのか」と米政府への不満を語った。
 衛藤氏は安倍政権発足以来、首相に参拝を促してきた。【村尾哲】
 
 
衛藤首相補佐官「こっちこそ失望」 米の靖国参拝失望声明
東京新聞 2014年2月19日
 衛藤晟一(えとうせいいち)首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」に投稿した国政報告で、昨年十二月の安倍晋三首相の靖国神社参拝後に失望声明を発表した米国について「むしろわれわれが失望だ」と批判していたことが分かった。
 菅義偉官房長官は十九日の記者会見で「あくまで個人的な見解だ。日本政府の見解ではない」と述べた。
 衛藤氏は「安倍政権は、民主党政権で崩れた日米関係修復に非常に大きな力を割いてきた。米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか」と強調。「米国はちゃんと中国にものが言えないようになりつつある。米国の声明は、中国に対する言い訳にすぎない」と指摘した。
 衛藤氏は自らが昨年十一月に訪米し、ラッセル米国務次官補らに首相が参拝した場合、米側に理解を求めたことも説明。十二月初めに在日米大使館を訪れた際には「(参拝に)できれば賛意を表明してほしいが、無理なら反対しないでほしいと伝えた。首席公使からは『慎重に』という言葉が返ってきた」と語った。
 
 
衛藤補佐官が対米批判の発言撤回 官房長官の指示受け
東京新聞 2014年2月19日
 衛藤晟一首相補佐官は19日午後、安倍晋三首相による靖国神社参拝をめぐって、動画サイト「ユーチューブ」に投稿した米国批判の発言を撤回する意向を表明した。投稿も削除した。国会内で記者団に明らかにした。それまでの姿勢を一転させた理由について「発言が政府見解であるとの誤解を与えるため」と説明した。
 
 これに関連して菅義偉官房長官は記者会見で、19日に衛藤氏と電話で会談した上で「個人の見解を発言した部分を取り消すように指示した」ことを明らかにした。4月下旬にオバマ米大統領の来日を控えていることなどを念頭に、首相官邸が事態収拾を急いだ形だ。(共同)


【きしむ日米関係】問われる首相の歴史認識  
高知新聞 2014年02月20日  
 安倍首相の靖国神社参拝をきっかけにきしみ始めた日米関係が、悪化の道へとエスカレートしかねない。首相にごく近い人たちの歴史認識をめぐる発言が、米国の対日不信をあおり続けているためだ。 
 安倍政権はそれらの発言を「個人の立場」によるものと説明するが、米国は首相の姿勢にもいら立ちを隠さない。4月のオバマ米大統領の訪日を控え、首相自身がはっきりとした説明をすべきだ。 
 昨年末の首相の靖国参拝に対し米政府は、日本と中韓両国との関係改善を遠のかせるなどとして、「失望した」との声明を発表した。NHKの籾井勝人会長の従軍慰安婦をめぐる発言や、経営委員の百田尚樹氏による東京裁判に疑問を呈する発言なども問題になった。 
 籾井、百田両氏の発言に米国は、キャロライン・ケネディ駐日米大使がNHKのインタビュー取材を受けないという措置を取った。明らかな対日不信の表明である。 
 今回問題になったのは、衛藤晟一首相補佐官の動画サイトでの発言だ。首相の靖国参拝に対する米国の「失望」声明について「むしろわれわれが失望だ」と真っ向から批判した。 
 この前には自民党の萩生田光一総裁特別補佐が、「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない」と、米民主党のオバマ政権を批判したことが分かっている。 
 首相補佐官や自民党の総裁補佐は、単に首相と親しい人ではなく、政権中枢の重要ポストだ。衛藤氏は発言撤回を表明したが、責任ある立場にある人の一連の発言は、米国の対日不信をさらに深め、取り消したから「なかったこと」とはなるまい。 
 衛藤氏の発言撤回は菅官房長官の注意を受けてのことというが、菅氏の態度も疑問だ。籾井氏や百田氏の発言に対し、菅氏は「個人の立場」を強調して政府とは無関係だとしてきた。そうしたけじめのなさが、言いたい放題を助長し、無責任な発言が首相の側近にまで及んだのではないか。 
 米紙ワシントン・ポストが社説で、首相に「歴史の見直し」の説明を求めたように、問われているのは安倍政権の歴史認識そのものだ。首相は「中韓の誤解」と繰り返すだけでなく、米国の不信感と向き合う、明快な説明が求められている。