2013年11月5日火曜日

秘密保護法 市民はこんなことで逮捕されて・・・

 4日の信濃毎日新聞が、「司法の闇 市民が逮捕される日」と題した社説で、特定秘密保護法案成立施行されるとこんな事態も起こり得るとして、市民が逮捕されて有罪判決を受けるまでの様子が、仮定のことながらも生々しく描写されています。

 これは極端な例などではなく極めて起こりうるケースです。街頭のシールアンケートの結果をみると「分からない」と答える人たちがかなりいまが、そういう人たちの身辺でも、です。 
 秘密保護法案の怖さを分かりやすく説明した社説です。
 (仮定のストーリー部分は、分かりやすいように事務局で枠で囲いました)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説) 司法の闇 市民が逮捕される日
信濃毎日新聞2013年11月04日
 
 201X年11月の早朝。長野市はヘリコプターのごう音と振動に包まれた。多くの住民が驚き目を覚ました。
 平和運動を進める団体の代表Aさんもその一人だ。窓を開けて上空を見上げると十数機の自衛隊ヘリが北に向かっていた。
 
 県庁に問い合わせたが「訓練の連絡は来ていない」との返事。「住民に何も知らせず、大掛かりな飛行訓練をするのは問題だ」と感じたAさんは、仲間2人とヘリの離陸地点とみられる隣県の陸自旅団に抗議に訪れた。
 
 具体的な飛行訓練計画を明らかにするよう求めるAさんに担当者は「答えられない」の一点張り。業を煮やしたAさんは語気を強めて「なぜ言えないんだ。住民は迷惑している。問題にしてやるぞ」と迫った。担当者は押し黙ったまま。Aさんたちは何の成果も得られないまま引き揚げた。
 
   <ある日突然、捜査員が>
 数日後の朝、Aさんの自宅を捜査員が訪れ、逮捕状を示した。「罪名 特定秘密保護法違反」―。
 
 
 防衛や外交などの情報を秘密指定して、それを漏らしたり、取得したりする行為を罰する特定秘密保護法案。政府が今国会に提出した法案が成立、施行されると、こんな事態も起こり得る―。自衛隊の活動を調査している県護憲連合事務局長の布目裕喜雄さんや、刑事訴訟法が専門の大出良知・東京経済大現代法学部長(九州大名誉教授)は危惧する。
 
 防衛分野の秘密指定範囲は「自衛隊の運用」などと大ざっぱだ。具体的に何が指定されたか国民には知らされない。市民が知らず知らずのうちに法に抵触。裁判になっても、証拠自体が秘密扱いで審理され、有罪判決が出る恐れがある。大出教授の話を参考に、判決までの流れを想定し、法案の危険性を考える。
 現行の国家公務員法や自衛隊法でも秘密を漏らすと処罰される。今回の法案は秘密を得た側も処罰されるのが特徴だ。
 
 だましたり、暴行したり、脅迫したりして、特定秘密に指定された情報を取得した場合、最高で懲役10年の罰則がある。未遂も対象。秘密を漏らすようそそのかしたり、あおったりしても最高5年の懲役刑だ。
 
 
 Aさんが問題にしたのは、実は日本海有事に備えた自衛隊員の大量輸送訓練で、防衛相が秘密指定していた。Aさんは、それを脅して取得しようとした罪(未遂)に問われ、起訴された。
 
 裁判が始まった。Aさんは「脅していないし、求めたものが特定秘密とは知らないので、犯罪の故意がない」などと無罪を主張した。ところが、一番肝心な証拠が開示されない可能性が高い。
 
 
   <証拠は裁判でも秘密>
 “前例”がある。
 6年前に発覚したイージス艦情報流出事件の裁判だ。特別防衛秘密(特防秘)を別の自衛官に漏らしたとして海上自衛官が逮捕、起訴された。1954(昭和29)年施行の日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪で初めての起訴だ。
 検察側は「機密は裁判所にも明かすことはできない」と、機密部分を黒塗りした資料を証拠提出した。裁判長は資料に「極秘」の記載があることなどから特防秘に当たると「推認」できるとし、有罪判決を出した。
 
 この事件で主任弁護人を務めた田中保彦弁護士は「(秘密を取得した方も罰せられる)今回の法案では、被告がどんな情報を取得したかを聞いた弁護人も罪に問われる危険がある」と指摘する。
 Aさんの裁判も同様に進む。
 
 
 訓練の名称自体も秘密なので、検察側が出す証拠の題名さえこんなものになりそうだ。
 
 「■■■■■■■■にかかわる■■■■■■■■■■の計画」
 
 計画の内容は全面黒塗りだ。
 
 裁判長は、資料に「特定秘密」と記されていることや防衛省担当者の証言から特定秘密と推認できると判断。こんな判決を出す。
 
 被告人を懲役5年に処する
 
   <人権侵害の恐れ>
 争点について判決は▽「問題にしてやる」との言葉が「害悪の告知」に当たるなど、脅迫と認められる▽特定秘密の範囲は「自衛隊の運用」と法律に示されており、被告人には、求めた情報がこの秘密に当たるかもしれないという認識(概括的故意)があった―と示した。情状では、反省していないとの指摘も。
 
 未遂なので、最高刑にはならなかったが、懲役3年を超えるので執行猶予が付かず、実刑に―。
 
 
 あくまで仮定の話だが、ここから浮かび上がるのは、自分のした行為が本当に犯罪になるのかすら確認できず、弁護活動も制限され、市民が犯罪者にされてしまう恐れだ。法案は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、憲法に保障された基本的人権さえ危うくする。成立させてはならない。