2013年11月28日木曜日

民意をおそれぬ強行採決は民主主義の土台を壊す

 27日の各紙社説は、特定秘密法案の衆院強行採決への批判の一色でした。
 例えば朝日新聞は(要旨)「数の力におごった権力の暴走で、前日の公聴会で全員から反対の訴えを聞いたばかりなのに、そうした民意を踏みにじる採決強行である。
 大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられ、「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。疑問を抱いた公務員の告発や、闇に迫ろうとする市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかるという不合理と不正が現出する。
 法案はツワネ原則(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則)にもことごとく反している。それなのに『知る権利を担保すれば個人の生存や国家の存立が担保できない』などという欺瞞を口にして恥じない。決して成立させてはならない法案である」と述べ、合わせて4面あまりを批判の記事で埋めています。
 他の各紙も同様な記事仕立てにしたのではないでしょうか。
 
 一方日刊ゲンダイは26日の夕刊で、(要旨)「大マスコミは、いまになってこの法案の危険性について反対キャンペーンを張っているが、あまりにも遅すぎる。首相がこの悪法を国会に提出する意向を表明したのは、半年以上も前の衆院予算委である。法案の骨格はとっくの昔にできていて、その危険性は弁護士らが早くから指摘していた。それから7ヶ月間、大マスコミがが法案の危うさを徹底的に暴き、国民に周知させ、憲法無視の悪法を葬り去るためのキャンペーンを張れば、事態は変わったはずなのだ」と、取り組みの遅さを批判しています。
 確かにその通りで昨年末の参院選でも、NHKを先頭にマスメディアは「ねじれ」の解消がテーマとばかりに、自民党の補完勢力どころか翼賛勢力であることが明らかにされた、みんなの党や維新の会の勢力伸張に熱心に協力したのでした。
 
 それはともかくとして、いまはなにより参院での成立の阻止に向けて、マスメディアも全力を注いで欲しいものです。
 
◇27日の主な社説タイトル
特定秘密保護法案 国民軽視の強行突破だ  東京新聞  
秘密保護法案強行 暴挙が危険性浮き彫りにした しんぶん赤旗
秘密保護法案衆院通過 民主主義の土台壊すな  毎日新聞  
特定秘密保護法案 民意おそれぬ力の採決  朝日新聞  
秘密保護法案の採決強行は許されない  日経新聞  
特定秘密法案採決 強行は国民主権の冒涜だ  新潟日報  
秘密法衆院通過 世紀の悪法を許すな 良識の府で廃案目指せ  琉球新報  
秘密法案衆院通過 数の暴挙は許されない  沖縄タイムス  
秘密法案衆院通過 強行採決は巨大与党の横暴  熊本日日新聞  
秘密法案衆院通過 問題は残されたままだ  佐賀新聞 
秘密保護法案衆院通過「知る権利」の後退は確実だ  宮崎日日新聞  
秘密保護法案 あらためて廃案を求める  西日本新聞  
秘密保護法案衆院通過 強行採決は説明責任の放棄だ  愛媛新聞  
秘密法案衆院通過 「知る権利」 踏みにじるな  徳島新聞  
秘密保護法案 将来に禍根残す強行採決  高知新聞  
秘密保護法案採決 国民の懸念置き去りに     中国新聞  
秘密保護法案 なぜ拙速に成立急ぐのか  山陽新聞  
秘密法案採決「数の力」 で押し切るのか  神戸新聞  
秘密保護法案 数の横暴は許されない  京都新聞  
特定秘密保護法案 国民の「知る権利」が危機  岐阜新聞  
特定秘密保護法案強行可決 強権政治、知る権利どこへ  福井新聞
秘密保護法 採決強行 議会政治の自滅行為だ  信濃毎日新聞  
秘密法の衆院可決 立法府の魂を捨てるな  神奈川新聞  
秘密保護法案衆院通過「知る権利」極めて危うい  茨城新聞  
秘密保護法案 禍根を残す採決強行だ  秋田魁新報  
秘密法案衆院通過 恐ろしい社会への一歩  岩手日報  
秘密法採決強行/疑念払拭へ審議を尽くせ  河北新報  
国民の懸念を置き去り「秘密法案」 衆院通過  東奥日報  
秘密保護法案、衆院通過 ノーを突き付けて廃案に  北海道新聞  
 
 朝日新聞と毎日新聞の社説を紹介します。
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特定秘密保護法案 民意おそれぬ力の採決
朝日新聞 2013年11月27日
 数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。
 民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。
 特定秘密保護法案が、きのうの衆院本会議で可決された。
 報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。
 ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。
 そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議を求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。
 繰り返し指摘してきたように、この法案の問題の本質は、何が秘密に指定されているのかがわからないという「秘密についての秘密」にある。これによって秘密の範囲が知らぬ間に広がっていく。
 
■温存される情報の闇
 大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられる。それが妥当であるのか、いつまで秘密にしておくべきなのかを、中立の立場から絶え間なく監視し、是正を求める権限をもった機関はつくられそうにない。
 いま秘密にするのなら、なおのこと将来の公開を約束するのが主権者である国民への当然の義務だ。それなのに、60年たっても秘密のままにしておいたり、秘密のまま廃棄できたりする抜け穴ばかりが目立つ。
 こうして「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。
 「これはおかしい」と思う公務員の告発や、闇に迫ろうとする記者や市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかる。
 本来、政府が情報をコントロールする権力と国民の知る権利には、適正なバランスが保たれている必要がある。
 ただでさえ情報公開制度が未成熟なまま、この法案だけを成立させることは、政府の力を一方的に強めることになる。
 
■まずは国家ありき
 「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」という文書がある。
 この6月、南アフリカのツワネでまとめられた。国連や米州機構、欧州安全保障協力機構を含む約70カ国の安全保障や人権の専門家500人以上が、2年にわたって討議した成果だ。
 テロ対策などを理由に秘密保護法制をととのえる国が増えるなか、情報制限の指針を示す狙いがある。
 国家は安全保障に関する情報の公開を制限できると認めたうえで、秘密指定には期限を明記する▽監視機関はすべての情報にアクセスする権利を持つ▽公務員でない者の罪は問わないなど、50項目にのぼる。
 法案は、この「ツワネ原則」にことごとく反している。
 安倍首相は国会で、欧米並みの秘密保護法の必要性を強調したが、この原則については「私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズされていない」と片づけた。
 これだけではない。国会での政府・与党側の発言を聞くと、「国家ありき」の思想がいたるところに顔を出す。
 町村信孝元外相はこう言った。「知る権利は担保したが、個人の生存や国家の存立が担保できないというのは、全く逆転した議論ではないか」
 この発言は、国民に対する恫喝(どうかつ)に等しい。国の安全が重要なのは間違いないが、知る権利の基盤があってこそ民主主義が成り立つことへの理解が、全く欠けている。
 
■世界の潮流に逆行
 一連の審議は、法案が定める仕組みが、実務的にも無理があることを浮き彫りにした。
 いま、政府の内規で指定されている外交・安全保障上の「特別管理秘密」は42万件ある。特定秘密はこれより限られるというが、数十万単位になるのは間違いない。
 これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。
 与党と日本維新の会、みんなの党の修正案には、秘密指定の基準を検証、監察する機関を置く検討が付則に盛り込まれた。
 首相はきのうの国会答弁で第三者機関に触れはしたが、実現する保証は全くない。
 有識者会議の形で指定の基準を検証するだけでは、恣意(しい)的な指定への歯止めにはならない。役所が都合の悪い情報を隠そうとする「便乗指定」の懸念は残ったままだ。
 独立した機関をつくるならば、膨大な秘密をチェックするのに十分な人員と、指定解除を要求できる権限は不可欠だ。
 この法案で政府がやろうとしていることは、秘密の保全と公開についての国際的潮流や、憲法に保障された権利の尊重など、本来あるべき姿とは正反対の方を向いている。
 論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。
 
 
社説:秘密保護法案衆院通過 民主主義の土台壊すな
毎日新聞 2013年11月27日
 あぜんとする強行劇だった。
 衆院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案が採決された場に安倍晋三首相の姿はなかった。首相がいる場で強行する姿を国民に見せてはまずいと、退席後のタイミングを与党が選んだという。
 与党すら胸を張れない衆院通過だったのではないか。採決前日、福島市で行った地方公聴会は、廃案や慎重審議を求める声ばかりだった。だが、福島第1原発事故の被災地の切実な声は届かなかった。
 審議入りからわずか20日目。秘密の範囲があいまいなままで、国会や司法のチェックも及ばない。情報公開のルールは後回しだ。
 国民が国政について自由に情報を得ることは、民主主義社会の基本だ。法案が成立すれば萎縮によって情報が流れなくなる恐れが強い。審議が尽くされたどころか、むしろ法案の欠陥が明らかになりつつある。
 この法案について首相はさきの参院選で国民に十分説明せず、今国会の所信表明演説でも触れなかった。ところが今、成立ありきの強硬路線をひた走っている。衆参のねじれ状態が解消して4カ月での与党のおごりである。
 一部野党が安易な合意に走ったことも消せぬ汚点だ。日本維新の会、みんなの党両党との修正合意は法案の根幹を何ら変えていない。維新の会と「検討する」と合意した秘密指定の妥当性を判断する第三者機関の設置も確約されたとは言えない。
 秘密指定の最長期間が60年となるなど、改悪となりかねない部分すらある。これではまるで与党の補完勢力ではないか。
 衆院は通過したが、法案の必要性を改めて吟味する必要がある。
 国の安全が脅かされるような情報を国が一定期間、秘密にするのは理解できる。
 情報漏えいを禁じる法律は、国家公務員法、自衛隊法、日米相互防衛援助協定(MDA)秘密保護法があり、懲役の最高刑はそれぞれ1年、5年、10年だ。一方、政府は、過去15年で公務員による主要な情報漏えい事件が5件あったとの認識を示した。この三つの法律の枠内で、起訴猶予になったり、最高刑を大幅に下回る刑の言い渡しを受けたりしている。
 現行法の枠内で、情報が漏えいしないような情報管理のシステムを各行政機関内で構築して規律を守ることが先決だ。
 法案では、防衛・外交情報のほか、テロ活動防止などの名目の公安情報も特定秘密の対象となる。監視活動が中心の公安捜査は、国民の人権を制約する。
 情報を知ろうとする国民が処罰されるような強い副作用を覚悟の上で、新たな法律を今作る必要が本当にあるのか。
 「知る権利」に対する十分な保障がなく、秘密をチェックする仕組みが確立されていないなど問題点や疑問はふくらむばかりだ。