2013年9月23日月曜日

秘密保護法案はかつて来た道をたどる懸念

 信濃毎日新聞の22日の社説は、1937(昭和12)年2月にたった10日間の審議で成立し、その後5年足らずで太平洋戦争に突入したというかつての軍規保護法改正案と、集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲に余念のない安倍首相が、いま成立を目指している「秘密保護法案」とは二重写しに見えると述べています。
 秘密を広く指定し、そこに触れようとする行為は厳罰に処すという「秘密保護法案」とかつての軍機保護法には、底流に同じ発想があります。

 そうした歴史的視点からの批判には説得力があります。歴史は繰り返すといわれ、右翼に位置する為政者の意図は似たものなのでしょう。

 また国家公務員の情報漏えいは、現に国家公務員法や自衛隊法で禁止されていて罰則もあるので、新たな法の網をかぶせる必要などはないと断言しています。このことは日弁連をはじめ多くの批判者たちが指摘するところです。
 秘密保護法には、外交や防衛上の国家秘密はありうるという国民の善意にかこつけて、この際政府にとって不都合なことは一切秘密にして、国民の知る権利を奪い言論を抑しようという胡散臭さがどうしてもつきまといます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説) 秘密保護法 かつて来た道たどる懸念 
信濃毎日新聞 2013年9月22日
 1937(昭和12)年2月、軍機保護法改正案が帝国議会に提出された。軍事機密の漏えいを防ぐための法律を全面改正しようというのである。日中戦争の発端となった盧溝橋事件の5カ月前のことだった。
 なぜ改正するのか、杉山元(はじめ)陸軍大臣が説明している。
 日本の国力向上に伴い、各国の諜報活動が活発化している。兵器開発競争も激化している。40年前に制定された今の法律では十分に対応しきれない―。
▽外国に漏らす目的で機密を探知、収集する行為の罰則強化
▽業務上知り得た秘密をうっかり漏らす行為への処罰化
▽漏えいを「扇動」する者に対する処罰の新設―
などが改正の中身だった。衆院は10日間のスピード審議で改正案を成立させている。

 以上の経緯は2011年12月発刊の防衛研究所紀要に詳しい。

   <「知る権利」が危うい>
 安倍晋三内閣が特定秘密保護法の制定に向け準備を加速させている。10月召集予定の臨時国会で、国家安全保障会議(日本版NSC)を新設する法案とセットで成立させたい考えだ。
 安倍首相は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しも目指している。そんな首相の姿勢と照らし合わせるとき、秘密保護法がかつての軍機保護法と二重写しに見えてくる。
 それは杞憂(きゆう)、心配のし過ぎなのだろうか。
 私たちは社説で秘密保護法の危うさを繰り返し指摘し「法制化は断念を」と訴えてきた。
 保護法のどこが問題か、あらためて確認しておきたい。第一は、秘密の範囲が政府の勝手な判断で広がりかねないことだ。
 秘密とする対象は「行政機関の長」が指定することになっている。防衛大臣や外務大臣の腹一つで、不都合な情報を隠すことができるようになる。
 どんな種類の情報を秘密にするかは「別表」で特定するという。政府の説明資料の「別表」を見ると、例えば「自衛隊の運用」と書いてある。こんな漠然とした規定では、自衛隊についての情報は一切秘密となりかねない。
 秘密にする期限は5年で、延長できる。無期限で非公開とすることも可能な仕組みになる。
 問題の第二は厳罰化だ。秘密を漏らした公務員には最高10年の懲役が科される。内部告発者への威嚇効果を狙ったものだろう。
 第三に、国民の「知る権利」が制約される心配も大きい。「秘密の保有者の管理を侵害する行為」は「未遂、共謀、教唆、扇動」を含め罰せられる。報道機関の取材が違法と見なされ、処罰される可能性が否定できない。
 秘密を広く指定し、そこに触れようとする行為は厳罰に処す。かつての軍機保護法と秘密保護法には底流に同じ発想が流れている。杞憂で済むとは言い切れない。

   <「尊重」のごまかし>
 日本弁護士連合会や日本ペンクラブは、保護法に反対する声明を発表している。自民党内には、法律に「知る権利」を尊重する旨を書き込むことで批判をかわそうとする動きがある。
 「知る権利」の尊重をうたっても、法律の危うさが解消されるわけではない。小手先のごまかしを受け入れるわけにはいかない。
 本来国民に開示すべき情報まで隠してきたのが政府のこれまでの姿勢である。例えば沖縄返還に伴う密約だ。日本が1億ドル規模以上の裏負担を受け入れる約束を、米国と密かに結んでいた。
 政府はいまだに密約があったことを認めない。交渉に当たった元外務省高官が法廷でその存在を証言しても、「確認できない」の一点張りだ。

 例をもう一つ挙げる。航空自衛隊幹部が懲戒免職になった2007年の事件である。南シナ海での中国潜水艦の事故を一部メディアが報じた。記者の質問に応じ事故について説明した1等空佐が、自衛隊警務隊の強制捜査を受けたあと、情報漏えいで処分された。
 記者に話をすることが罪に問われるとなれば、取材を受ける公務員はいなくなる。「知る権利」や「表現の自由」に無理解な体質を裏書きする出来事だった。

 こんな政府に秘密保護法という“劇薬”は持たせられない。

   <自由を守るために>
 秘密保護法が成立したら自衛隊や在日米軍の動きがこれまで以上に見えにくくなる可能性が高い。例えばオスプレイを監視する活動も制約を受けるだろう。
 特定秘密に指定された情報を扱う担当者は「適性評価」の対象となり、飲酒の程度や借金の有無まで調べられる。秘密情報に触れる機会のある民間人も秘密保持を義務付けられる。日本は息苦しい社会になりそうだ。原発に関する情報も「テロ防止」の名目で秘密にされるかもしれない。
 国家公務員の情報漏えいは国家公務員法や自衛隊法で禁止されている。罰則もある。新たな法の網をかぶせる必要はない。