2013年9月21日土曜日

秘密保護法案批判 二題

 特定秘密保護法案に関して東京新聞は「筆洗」で取り上げました。
 「編集メモ」的な位置づけで字数も制限されているので、本格的に論ずるという場ではありませんが、端的に問題の本質を衝くコーナーになっています。
 「筆洗」は、「国家秘密」指定は為政者にとって「不都合な真実」を覆い隠す便利な風呂敷で、大臣らが決める法秘密事項が本当に秘密に値するかは、国会も裁判所も検証しようがないと指摘しています。

 また天木直人氏も、「天下の悪法 特定秘密保護法案の最も悪法たるゆえん」と題したブログ記事で、どの情報が「秘密」に該当するかの解釈は政府、官僚に白紙委任されていて、彼等に極端に大きな裁量権が与えられていることが最大の問題だとしています。
 そして裁量権を持った政府は、メディアに流す情報量を制御することでメディアを手なずけ政府の意のままに従わせることができるので、国民の「知る権利」は、最終的に 権力に服従するメディアによって奪われることになると述べています。
 きわめてリアルで恐ろしい話です。

 以下にその二つの記事を紹介します。
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東京新聞 2013年9月20日
 安全保障に秘密は付き物だ。ロシアでエリツィン氏がプーチン氏に大統領の座を引き継ぐ時、核ミサイルのボタンの使い方を教えた。核大国の元首の重責をひしひしと感じている新大統領に、エリツィン氏はそっとささやいた。「実は、あのボタンは壊れている。これは最高機密だ」
▼ロシア流の小咄(こばなし)はともかく、確かに外交や軍事には他国に秘すべきことも多いだろう。しかし、秘密という言葉ほど、為政者にとって「不都合な真実」を覆い隠すのに便利な風呂敷はないというのも、事実だ
▼安倍政権が制定を目指す特定秘密保護法案は、政府に特大の風呂敷を与えるものではないか。何しろ何がこの法律で守るべき秘密かは、大臣らが決める。それが本当に秘密に値するかは、国会も裁判所も検証しようがない
▼そんな法案についての意見公募が、わずか十五日間で締め切られた。多くの法案は公募期間を三十日以上としているのに、こんな重要な法案に半分しかかけないというのは、どういうことなのだろう
▼ちなみに、秘密主義王国のソ連は、こんな傑作小咄も生んだ。…ある男が赤の広場で叫んだ。「ブレジネフ書記長は大ばかだっ」。男は逮捕され、裁判にかけられた。判決は、強制労働十一年。うち一年は名誉毀損(きそん)罪、残り十年は国家機密漏洩(ろうえい)罪として…
▼そういえば、特定秘密保護法案の最高刑も懲役十年だ。


天下の悪法「特定秘密保護法案」の最も悪法たるゆえん
天木直人 2013年9月19日
 10月から始まるらしい臨時国会で、どうやら天下の悪法である特定秘密保護法案なるものが成立することになりそうだ。
 野党がまともに機能していればこんな悪法が成立するはずがないのに、もはやこの国には野党は存在しないも同様だからおそらく成立させられる。
 どこが悪法なのか。
 それはもちろん憲法で保障されている言論の自由、報道の自由、知る権利が否定されるからだ。
 しかし、この法案の本当の悪いところは、法律の正体が法文を読んでも分からない仕組みになっているところだ。
 その典型例が秘匿対象とされる情報の定義である。
 法案では防衛、外交、スパイ、テロの4分野が「特定秘密」に指定されているらしい。
 しかし実際にどの情報がそれらに該当するかの解釈は政府、官僚に白紙委任されている
 ただでさえ法案の解釈については政府、官僚が大きな裁量権を持っているというのに、特定秘密保護法案についてはそれがあまりにも極端だ。
 そして、きょうの朝日新聞「秘密保護法案 読み解く」という解説記事が見事にこの法案の最も卑劣な部分を浮き彫りにしている。
 その記事は「記者の取材活動も処罰される?」という見出しでこう文句をつけている。
 政府関係者は「通常の取材活動が罰せられる事はあり得ない」と強調しているが秘密を漏らした公務員らの罰則が厳しくなるのだから、厳罰を恐れ取材を拒む関係者が増えれば事実上の取材制限になりかねない、と。
 常日頃まともな調査報道もせずに官僚のお下がり情報を垂れ流すメディアが取材規制を口にする資格はないが、この朝日の解説記事の疑心暗鬼がこの特定秘密保護法案の悪法振りを見事に物語っている。
 すなわちメディアさえも法案の中味が分からないということだ。
 法案の文面を読んだだけではわからないのはもとより、政府の説明を聞いてもそれが信じられないということだ。
 真実を国民に知らせる立場にあるメディアさえも分からない法案をどうして国民が分かる事ができるのか。
 メディア疑念は裏返して言うとこういうことだ。
 政府はその大きな裁量によってメディアに流す情報については大目に見る。
 これが菅官房長官が言うところの「知る権利」や「報道の自由」を例外扱いするということだ。
 そうしてもらうことによって、メディアは政府批判の記事を書きづらくなる
 かくしてますます政府はメディアを意のままに従わせることができる
 国民の「知る権利」は特定秘密保護法案によって奪われるのではない。
 権力に服従するメディアによって奪われるのだ
 特定秘密保護法案の最大の悪はここにある。  (了)