2013年9月14日土曜日

何が秘密かも秘密 秘密保護法案

 政府が秋の臨時国会に提出する「特定秘密保護法案」は、「国民の知る権利(そして報道の自由、表現の自由)」と真っ向から対立するもので、国が恣意的に情報を統制することを可能にするものです。そしてかつての軍事国家に繋がるものです。

 東京新聞は13日の社説で、そのほかに行政の長が指定する特定秘密の範囲が茫漠としているうえに、国会からも裁判所からもチェックを受けないこと、誰が特定秘密の取扱者であるかも 何が秘密なのかも具体的に明らかにされないこと、さらに国会の委員会などで審議するに当たり議員が秘書や政党に情報を話しても罪に問われる可能性があることなどを、大きな問題点に挙げています。

 日本ジャーナリスト会議も12日、「特定秘密保護法案に反対する声明」を出して、国民の「知る権利」を奪うこの法案の反対に立ち上がるよう訴えました。
 そしてパブリックコメント公募期間をわずか2週間にするなど極めて乱暴なやり方であること、特別秘密の「安全脅威活動」や「テロ活動防止」には歯止めがなく、「その被害の発生・拡大のための措置またはこれに関する計画もしくは研究」なども対象にされること、報道の自由・国民の知る権利が制約されることなどの問題点を指摘し、戦前「軍機保護法」などで国民の目と耳がふさがれて侵略戦争の道に突き進んでいった、苦い経験を忘れるわけにいかないとしています。

 一方政府は「法を拡張解釈し、基本的人権を侵害することがあってはならない」旨を定めるといっていますが、それが実効のあるものになるとは思えず、むしろ危険な法案であること政府自らが認めたということに過ぎません

 先にも紹介したとおり、秘密保護法案の制定にはほぼ全紙が反対しています。しかし世上では制定反対の動きはまだ殆どなく、時事通信が6~9日に行った世論調査では、特定秘密保全法案について「必要だと思う」と答えた人が63.4%で、「必要ないと思う」は23.7%という有様です。
 これは東京新聞、毎日新聞、しんぶん赤旗などを除く殆どのメディアが、これまで系統的に反対を打ち出して来なかったためと思われます。彼らはこれまであまりにも政府・官僚べったりで来たために、いざ反対運動をリードしなければならない肝心なときに、その術を発揮できなくなっている可能性があります

  基本的人権が法によって深刻に制約されようとしているこのときに、臨時国会に向けてなんとか国民的な反対運動が盛り上がって欲しいものです。

(追記) スペースの関係で割愛しますが、しんぶん赤旗も13日「闇を許すな 秘密保護法案 防衛秘密 10年で6倍」を載せています。
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【社説】 秘密保護法案 軍事国家への入り口だ
東京新聞 2013年9月13日
 政府が進める秘密保護法案は、国が恣意(しい)的に情報統制を敷く恐れがある。「知る権利」と真正面から衝突する。軍事国家への入り口になってしまう。

 自由や人権などよりも、国の安全保障が最優先されるという思想が根底にあるのだろう。政府が公表した秘密保護法案の概要を見ると、そんな印象を強く持つ。
 かつて検討された法制と異なるのは、特段の秘匿が必要な情報である「特定秘密」の事項だ。(1)防衛(2)外交-は同じだが、「公共の安全および秩序の維持」の項目を(3)安全脅威活動の防止(4)テロ活動の防止-と改めた。
 
◆情報隠しが横行する
 公共の安全や秩序維持の文言は、社会のあらゆる活動に投網をかけると強く批判されたため、今回は変形させたのだろう。
 それでも問題点は山積だ。まず、特定秘密の指定範囲である。行政機関の「長」が別表で指定するが、中身があまりにも茫漠(ぼうばく)としている。防衛については十項目あり、「自衛隊の運用」が最初に規定されている。「運用」の言葉だけでは、どんな解釈も可能だろう。防衛相は恣意的に特定秘密のワッペンを貼り、さまざまな情報を国民の目から覆い隠せる。
 現行法でも昨年末時点で、防衛秘密の指定事項は二百三十四件にものぼる。秘密文書も膨大となり、一昨年末では約八万三千点が隔離された状態だ。
 外交分野でも同じだ。例えば「安全保障に関する外国政府との交渉」と別表に漠然と書かれているため、外相はいかなる運用もできよう。違法な情報隠しすら行われるかもしれない。
 ある情報が特定秘密に本当にあたるかどうか、国会でも裁判所でもチェックを受けないからだ。形式的な秘密ではなく、実質的な秘密でなければならないが、その判断が行政の「長」に任されるのは、極めて危うい。
 
◆「知る権利」への脅威だ
 安全脅威やテロの分野も解釈次第で、市民レベルの活動まで射程に入る恐れがある。
 言い換えれば、国民には重要でない情報しか与えられないのではないか。憲法は国民主権の原理を持つ。国政について、国民が目隠しされれば、主権者として判断ができない。秘密保護法案は、この原理に違背するといえよう。
 憲法には思想・良心の自由、表現の自由などの自由権もある。政府は「国民の知る権利や取材の自由などを十分に尊重する」と説明しているものの、条文に適切に生かされるとは思えない。
 特定秘密を取得する行為について、「未遂、共謀、教唆、扇動」の処罰規定があるからだ。あいまいな定めは、取材活動への脅威になる。容疑がかかるだけでも、記者やフリーランス、市民活動家らに家宅捜索が入り、パソコンや文書などが押収される恐れが生じる。少なくとも、情報へのアクセスは大きく圧迫される。
 「取材の自由」はむろん、「知る権利」にとって、壁のような存在になるのは間違いない。政府は「拡張解釈し、基本的人権を侵害することがあってはならない」旨を定めると言うが、憲法で保障された人権を侵してはならないのは当然のことである。暴走しかねない法律だからこそ、あえてこんな規定を設けるのだろう。
 驚くのは、特定秘密を漏らした場合、最高で懲役十年の重罰を科すことだ。現在の国家公務員法では最高一年、自衛隊法では五年だ。過去のイージスシステムの漏洩(ろうえい)事件では、自衛官に執行猶予が付いた。中国潜水艦に関する漏洩事件では、起訴猶予になった。現行法でも対処できるのだ。重罰規定は公務員への威嚇効果を狙ったものだろう。
 そもそも誰が特定秘密の取扱者であるか明らかにされない。何が秘密かも秘密である。すると、公務員は特定秘密でない情報についても、口をつぐむようになる。ますます情報は閉ざされるのだ。
 しかも、国会の委員会などで、公開されない秘密情報も対象となる。つまり国会議員が秘書や政党に情報を話しても罪に問われる可能性がある。これでは重要政策について、国会追及もできない。国権の最高機関である国会をないがしろにするのも同然だ。
 
◆憲法改正の布石になる
 新法の概要に対する意見募集期間も約二週間にすぎず、周知徹底されているとはいえない。概要だけでは情報不足でもある。政府の対応は不誠実である。
 米国の国家安全保障会議(NSC)をまねた日本版NSC法案も、秋の臨時国会で審議される予定だ。集団的自衛権をめぐる解釈も変更されかねない。自衛隊を国防軍にする憲法改正への道だ。
 秘密保護法案はその政治文脈の上で、軍事国家化への布石となる。法案には反対する。

 
【JCJ声明】 特定秘密保護法案に反対する声明

 日本ジャーナリスト会議は、政府が概要を発表し、パブリックコメントの募集に入った「特定秘密の保護に関する法律案」(特定秘密保護法案)に反対の意思を表明し、国民のみなさんが、国民の「知る権利」を奪うこの法案の反対に立ち上がるよう訴える。
 今回の特定秘密保護法案は、これまで、私たちが反対運動を続けてきた「秘密保全法案」の名称等を変え、問題点をカモフラージュしたもので、その本質は、変わっていない。しかも、まだ連立与党の間ですら調整が付いておらず、法案の作成過程や内容の説明もできていないにもかかわらず、わずか2週間のパブリックコメント公募を求めるなど、手続き的にも極めて乱暴なやり方を取っていることなど、到底受け入れるわけにはいかない。

 特に、今回明らかにされた法案の概要に寄れば、「秘密保全法案」では、(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全と秩序の維持ーの3分野の情報のうち「国の存立にとって重要な情報」としていた「特別秘密」を、(1)防衛(2)外交(3)安全脅威活動(4)テロ― の4分野に変更している。しかし、この「安全脅威活動」や「テロ活動防止」には歯止めがなく、「その被害の発生・拡大のための措置またはこれに関する計画もしくは研究」がすべて対象にされたり、「収集した国際機関または外国の行政機関からの情報その他重要な情報」について、この情報を漏らし、取得し、そのために共謀し、それをそそのかしたりすると「懲役10年以下の厳罰に処する」というという法案の性格は変わっていない。

 当然報道関係の取材が処罰対象にされかねず、報道の自由に大きな影響を与え、国民の知る権利が制約されることになる。

 私たちは、戦前の政府と軍部が「軍機保護法」などで国民の目と耳をふさぐことによって、侵略戦争の道に突き進んでいった苦い経験を忘れるわけにいかない。安倍内閣が明文改憲だけでなく、法律を変えたり作ったりする中で、実質的に改憲の道を進めようとしている状況の下で、この特定秘密保護法の策動を許すわけにはいかない。

  国民の皆さんがこぞって、この法案への反対に立ち上がってくださることを改めて呼びかける。
2013年9月12日
 日本ジャーナリスト会議

秘密保全法、6割超「必要」=時事世論調査
時事通信 2013年9月13日
 時事通信が6~9日に行った9月の世論調査で、機密情報を漏えいした国家公務員らの罰則を強化する特定秘密保全法案について賛否を聞いたところ、「必要だと思う」と答えた人は63.4%、「必要ないと思う」は23.7%だった。
 調査は全国の成人男女2000人を対象に個別面接方式で実施。「この法案には国民の知る権利や報道の自由を制限しかねないとの異論もある」と説明した上で質問した。有効回収率は64.7%。