2013年9月1日日曜日

シリア攻撃の正当性は疑問 支持広がらず +

 アメリカ軍によるシリア攻撃には、英国首相は議会を説得できずに攻撃参加を断念し、フランスは参加するとしていますが世論はほぼダブルスコアで反対しています。
 ドイツ、イタリアなど西側同盟国や中東の親米国でも攻撃への反対・慎重論が起きています。

 国連安全保障理事会決議の見通しがないなか、オバマ米政権は「シリアへの軍事攻撃を我々の価値観と利益に基づいて決める」と宣言しました。しかしアメリカや同盟国がシリアからの攻撃を受けたわけではないので、シリア攻撃を正当化することはできません。
 逆に攻撃の効果を疑問視する声が広がっています。

 本来米大統領には宣戦布告の権限はないにもかかわらず、第二次大戦後は大統領が議会の承認を得ずに軍事攻撃に踏み切る事態が慣例化しています。それに対して連邦議会は、シリア攻撃には議会の同意を得るように要求しました。
 アメリカの世論も軍事介入には圧倒的に反対で、議会の中でも賛成派は1割といわれています。

 ケリー国務長官は、「アサド政権側が化学兵器を使用したことについて米情報機関には強い確信がある」と表明し、攻撃当日、政権側の要員がガスマスクを使うなどしていたことやアサド政権高官が化学兵器の使用に言及する通話を傍受したことなどを挙げています。
 しかしイラク攻撃時に証拠を捏造したという前例があるので、その信憑性については何ともいえません。
 むしろ軍事的に圧倒的に優位で制空権ももっている政権側が、「あの段階」で国際世論を刺激して欧米の介入を招きかねない化学兵器使う筈はないので、逆に介入したい勢力の仕業だとする説に説得力があります。
 アサド政権側にしても反政府側にしても、関係のない市民たちが多数死ぬことを知りながら同国人に対して化学兵器を使用することは、普通はしないとされています。
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 ロシアのプーチン大統領31日、シリア軍事介入を準備するオバマ米大統領に対し、ノーベル平和賞受賞者として攻撃を決定しないよう呼びかけました

 以下に「シリア攻撃 米の正当性疑問 西側同盟国に広がらぬ支持」と題する記事とプーチン大統領オバマ米大統領に対し、ノーベル平和賞受賞者として攻撃を決定しないよう呼びかけた記事(いずれも毎日新聞を紹介します。
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シリア攻撃:米の正当性疑問 西側同盟国に広がらぬ支持
毎日新聞 2013年8月31日
 【ワシントン白戸圭一】シリアへの軍事攻撃を容認する国連安全保障理事会決議の成立が中露の反対で絶望視される中、オバマ米政権は30日、「我々の価値観と利益に基づく独自の時間軸で決定を下す」(ケリー国務長官)と独自判断で攻撃に踏み切る構えを鮮明にした。だが、英国、ドイツ、イタリアなど西側同盟国や中東の親米国でも攻撃への反対・慎重論が台頭。攻撃の法的正当性だけでなく、その効果も疑問視する声も広がっている。

 オバマ大統領が30日に示したシリア攻撃の必要性の主な根拠は、(1)多数の民間人が化学兵器で死亡(2)アサド政権による再度の化学兵器使用の可能性(3)化学兵器使用を黙認すれば、テロ組織や独裁国家による将来の使用を招きかねない(4)イスラエルなどシリア周辺の同盟国の安全が脅かされている−−の4点。大統領はこれらを検討した結果「化学兵器使用を禁じる国際規範の違反は米国の安全を脅かす」と結論付け、攻撃の正当性を主張した。

 しかし、現時点で米国や同盟国はアサド政権に攻撃されておらず、個別的・集団的自衛権に基づくシリア攻撃の正当化は困難だ。
 安保理で武力行使容認決議の採択を求める努力についても、オバマ大統領は記者団に「安保理は国際規範の違反を明確にすることに現時点では無力だ」と述べ事実上放棄した。

 自衛権にも安保理決議にも基づかない攻撃の前例には、1999年にクリントン米政権(当時)が住民虐殺の阻止を目的としたユーゴスラビア空爆がある。だが、ユーゴ空爆が北大西洋条約機構(NATO)の総意だったのに対し、今回のシリア攻撃では「特別な関係」の最大の同盟国・英国が参戦を断念。フランスを除く主要国の間では米国への賛同が広がらず、国際協調を旗印にしてきたオバマ政権の「単独主義」が際立つ皮肉な状態だ。

 オバマ大統領は記者団に、軍事行動は「限定的」だと説明、アサド政権打倒を目指すものではないことを強調した。28日の米公共テレビPBSのインタビューでも、シリア内戦は交渉で解決されるべきだとの考えを示した。

 だが、米国営放送ボイス・オブ・アメリカは30日、米専門家の「米国に攻撃されれば、アサド大統領が内戦終結の交渉に応じる意欲は一層低下する」との分析を踏まえ、オバマ政権の見通しの甘さを指摘した。

 米シンクタンク・ブルッキングス研究所のケネス・ポラック上級研究員は30日付の米誌ニューズウィーク(電子版)で、アサド政権打倒を回避し「限定的攻撃」でシリア情勢への関与を徐々に深めるオバマ政権の選択を「最悪」と批判する。
 化学兵器の再使用を防ぐとの目標についても、シリア側は攻撃を想定して装備や要員の退避を始めており、想定した標的をたたける保証はない。追い込まれたアサド政権側が暴発する懸念もある。
 米NBCテレビが30日公表した世論調査結果では、50%がシリア攻撃に反対。シリア攻撃が「米国の国益になる」と答えた人は21%にとどまり、オバマ政権の説明は、米国民にも届いていない。

露大統領  ノーベル平和賞のオバマ氏、シリア攻撃やめて
毎日新聞 2013年9月1日
 【モスクワ田中洋之】ロシアのプーチン大統領は31日、シリア軍事介入を準備するオバマ米大統領に対し、ノーベル平和賞受賞者として攻撃を決定しないよう呼びかけた。訪問先の極東ウラジオストクで記者団に語った。プーチン大統領は、米国がこれまでイラクやアフガニスタンなど各地で軍事介入を主導したが、「平穏や民主主義は実現していない」と指摘。「シリア攻撃を決める前に、市民などに犠牲者が出ることを考える必要がある」と述べた。5、6日にロシア・サンクトペテルブルクで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議でオバマ大統領とシリア問題を話し合う意向があることも表明した。

 また、英下院がシリア攻撃案を否決したことについてプーチン大統領は「まったく予期していなかった。英国に健全な価値に従う人がいることを示している」と評価した。
 ロシア外務省は30日、米国が軍事介入の可能性を示したことについて「容認できない」と批判するルカシェビッチ報道官の声明を出した。
 声明では、国連安保理を経ない一方的な武力行使は「限定的(な攻撃)であっても明白な国際法違反だ」と指摘。米国がシリア軍事介入を強行すれは「政治・外交的な紛争解決の展望を害し、新たな対立と犠牲をもたらす」と警告した。
 また、アサド政権側が化学兵器を使用したという明らかな証拠はなく「米国の同盟国も(シリア攻撃に)“待った”を呼びかけている」と述べた。