2013年7月29日月曜日

TPPは日本の医療と皆保険制度を崩壊させる

 
 28日の東京新聞に「TPPは過疎地医療を崩壊させる」と題した記事が掲載されました。
 
 記事の内容はそのまま日本の医療全体に及ぶもので,、その大筋を要約すると次の3つの流れにまとめられます。

「前提:(アメリカの要求により)流通量に比例して医薬品を低価格化する制度廃止、新薬の価格を一定期間後も下げない
薬価が上昇する
国は薬価と診療報酬で構成される医療費負担抑制するため診療報酬を引き下げる
病院経営を直撃し、悪化させる
⇒病院は利益の追求に奔り、公的医療保険の適用外で独自に値段を決められる自由診療に傾く
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「病院が儲からないことはやらなくなる
予防医療の動機づけがなくなる
⇒結果として病気が増える
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「前提:(アメリカの要求により)混合医療が全面解禁される。あるいは混合診療の対象が拡大する」
医療費の公的負担を抑えたい国は新しい治療法や医薬品を公的保険の適用外のままにする
国民皆保険制度が維持できていても、またTPPで米国が直接 公的医療保険の廃止を求めなくても、皆保険制度は形骸化する
  ②公的医療保険の下で診療していた病院の経営は成り立たなくなる
    ③国民は高額医療費の負担のため、民間の保険に入る必要に迫られる支払い能力で医療格差が拡大していく

    結論  TPPによって米国の医療界の実態に日本が近づいていく

 以下に記事を抜粋します。全文は下記のURLからアクセスして下さい。
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「TPPは過疎地医療を崩壊させる」 現場の医師たちが警鐘
東京新聞「こちら特報部」2013年7月28日

 日本が初参加した環太平洋連携協定(TPP)のマレーシアでの会合が二十五日、終了した。交渉内容はベールに包まれているが、農林水産業だけではなく、懸念は医薬品や医療機器を扱う「知的財産権」などに絡んだ医療にも漂っている。とりわけ、営利主義と対極の過疎地医療に取り組んでいる医師たちは「TPPは医療崩壊を加速させる」と危機感を募らせる。現場の医師たちに話を聞いた。 (荒井六貴)
   (中 略 ここでは平均寿命が男女とも日本一になった長野県の医師たちの活躍 「長野モデル」を紹介)
 高齢化による医療費増大を抑えたい国にとっても「優等生」だが、TPPはこうした「長野モデル」を崩しかねない。
 理由を佐久総合病院(同県佐久市)の色平(いろひら)哲郎医師(53)は、こう説明した。「医療機関が営利化すると、もうからないことはやらなくなる。予防するという動機づけも働かなくなってしまう」
    (中 略)
 地域医療を支える大きな柱が国民皆保険制度だ。「皆保険が比較的、質の高い医療をいつでも、誰でも、どこでも受けられるようにしている。医者は患者の懐具合ではなく、症状に応じた治療に専念できる」
    (中 略)
薬価は上昇 自由診療拡大
 米国通商代表部の二〇一三年版「外国貿易障壁報告書」によると、米国は日本に対して、流通量に比例して医薬品を低価格化する制度の廃止と、新薬の価格を一定期間後も下げないルールの恒久化を求めている。
 TPPでこうした要求が実現されれば、薬価は上昇。そうなれば、国は薬価と診療報酬で構成される医療費負担の抑制のために、診療報酬を引き下げるとみられる。これは病院経営を直撃する。
 その場合、病院が利潤確保のため、公的医療保険の適用外で独自に値段を決められる自由診療に傾くのは当然の流れだ。

 日本医師会の中川俊男副会長は「医薬品や医療機器のメーカーの利潤追求の姿勢に加えて、本体の医療機関にまで営利化が忍び寄っている。TPPはその端緒になる」と危機感を募らす。
 自由診療と保険診療を組み合わせた混合診療は現在、先進医療などに限って認められている。だが、TPPにより対象が拡大されかねない。

 混合診療が全面解禁されれば、国民皆保険制度が維持できていても、医療費の公的負担を抑えたい国は新しい治療法や医薬品を公的保険の適用外のままにしかねない。
 支援ロボットによる前立腺がん手術は従来、保険適用外で百四十万円ほど。昨年四月から保険適用になり、約十万円になった。だが、こうしたケースも減ってしまう。

 保険対象の拡大がなくなれば、患者は高額医療費の負担のため、民間の保険をかける必要に迫られる。支払い能力で医療格差が拡大していく。
 中川副会長は「TPPで米国が直接、公的医療保険の廃止を求めなくても、皆保険制度は形骸化する。豪華な病院が都市にできる一方、公的医療保険の下で診療していた病院の経営は成り立たなくなる」と懸念する。

<国民皆保険制度> 日本に住民登録する人びとが何らかの公的医療保険に加入し、医療給付を受けられる制度。1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まった。現在、患者負担は1~3割になっている。2010年度の国民医療費は37・4兆円で、うち国と地方の負担分が14・2兆円を占めている。

<デスクメモ> 腎臓を病んだ友人を病院に運んだ。仕事を失い、国民健康保険も滞納して、保険証がない。だから悪化しても我慢していた。実費は仲間たちで負担した。米国では16%が無保険者という。日本でも目立ってきた。TPPは現状をもっとひどくするだろう。政府がいう「日米が共有する価値観」の一部か。 (牧)